↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
154/186

地球の力

新安共和国。

新都市の建設計画が進む裏側で、東方カンパニーでは極秘の研究が続いていた。

技術部門の会議室。

世界各地の研究施設から届いたデータが、大型スクリーンに映し出されている。

地下深部の熱。

地殻の圧力。

磁場。

地下構造。

掘削技術、エネルギー変換装置、制御システム。

研究は一つの施設に集中させず、それぞれの場所で別々に進められていた。個々の研究成果だけが中央へ送られ、全体像を把握している人間は限られている。


「各施設からのデータを統合しました」


担当者が画面を切り替える。

地球の断面図が表示された。


「従来の地熱発電とは違います。地球内部に存在する熱、圧力、磁場などを利用し、複数のエネルギーを電力へ変換します」


画面に新安新都市の設計図が重なる。


「実用化の第一段階として、新安新都市を選定します」


「都市全体を支えるつもりか?」


「はい。ただし、既存の発電設備も残します」


「新方式だけに依存せず、段階的に移行します」


「妥当だ」


責任者が頷いた。

長年続けてきた研究が、ようやく実用化の段階に入ろうとしていた。

そのときだった。

一人の研究者が資料を手に立ち上がる。


「……もう一件、報告があります」


責任者が顔を上げる。


「予定にはなかったな」


「はい。ですが、こちらは無視できない内容です」


スクリーンが切り替わった。

人間の遺伝情報。

先ほどまでとはまったく違う資料だった。


「遺伝子研究施設からの報告です」


「もともとは、人間の遺伝的特徴と身体機能の関係を調べていました。地球エネルギー研究とは別の計画です」


「それが?」


「研究の過程で、特殊なエネルギー環境と、ある遺伝的特徴を持つ人間との間に、通常では見られない反応が確認されました」


画面に測定結果が並ぶ。

最初は誤差を疑った。

条件を変え、測定機器も変更した。

それでも、同じ傾向が残った。


「具体的には?」


研究者が次の資料を表示する。


反応速度の大幅な上昇。

身体能力の向上。

自然治癒力の異常な上昇。

筋力の向上。

そして、

知能の向上。


「全部か?」


「同時に発現するわけではありません。個体によって、発現する変化も程度も異なります」


「誰にでも起こるのか?」


「いいえ。特定の遺伝的特徴を持つ人間に限られます」


責任者が資料から目を上げる。


「その条件は、特定できているのか?」


「まだ完全には」


「では、なぜそこまで断定できる?」


研究者は一瞬だけ言葉を止めた。


「実際の人間で、発現が確認されたからです」


空気が張り詰める。


「……何人だ?」


「一人です」


短い返答だった。


「現在、発現が確認されているのは一人だけです」


「今も追跡しているのか?」


「はい。状態は安定しています」


「同じことが、他の人間にも起こる可能性は?」


「否定できません」


研究者が統計資料を表示する。


「亡国の健康データを解析しました」


画面に数字が浮かび上がる。


約百万人に一人。


「健康記録と遺伝情報から推計した結果、この遺伝的特徴を持つ可能性がある人間は、約百万人に一人と算出されています」


「亡国のデータだけか?」


「はい。世界全体の割合までは分かりません」


責任者は、しばらく数字を見つめていた。


「研究対象の情報は?」


「厳重に管理しています」


「外部には?」


「出ていません」


「技術院には?」


「必要な情報のみ共有しています」


責任者は椅子に背を預けた。


「……この研究は分離しろ」


「はい」


「エネルギー研究側には、遺伝子研究の詳細を渡さない」


「了解しました」


「遺伝子研究側も、エネルギー研究の全容を知る必要はない」


「分かりました」


会議室に沈黙が残った。

偶然から始まった一つの発見。

それが、まだ誰も知らない可能性を示している。

だが、今は判断できるだけの材料がない。

研究を続ける。

情報を管理する。

それだけが決まった。


その頃、滋賀。

黒崎は東方カンパニーから届いた報告書を眺めていた。

美咲が隣から資料を覗き込む。


「珍しいね」


「そうだな」


黒崎は五つの発現項目に目を通した。

反応速度。

身体能力。

治癒力。

筋力。

知能。

続いて、統計資料を見る。


「百万人に一人……亡国のデータからか」


「推定値だけどね」


「実際に発現したのは一人」


「ええ」


黒崎は少し考えた。


「研究は続けているんだろ?」


「もちろん」


「なら、任せよう」


黒崎は資料を閉じた。

それ以上、遺伝子研究について考えることはなかった。

今の黒崎にとって重要なのは、新安新都市の方だった。


「エネルギー施設は?」


「予定通り進んでる」


「それならいい」


黒崎は都市計画の資料へ目を戻した。

新安では、建設が着実に進んでいる。

道路が伸び、行政施設の基礎が作られる。

東方カンパニー本社の建設も始まった。

その地下では、世界各地で分散して研究されてきた地球エネルギー変換技術が、少しずつ形になっていく。

まだ世界は知らない。

新安の地下で、従来とはまったく異なるエネルギーシステムが作られていることを。

そして、その研究とは別の場所で。

たった一人の人間に現れた変化についても、静かな研究が続いていた。

それは今のところ、東方カンパニーの膨大な研究記録の中にある、一つの極秘案件に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。