新安共和国の新都市開発
新安共和国。
東方カンパニーの本社から、一つの発表が行われた。
「東方カンパニーは、今後の事業拡大に伴い、本社機能の主要部分を新安共和国へ移転します」
そのニュースは、国内だけでなく海外にも流れた。
そして、続いて発表された内容に、各国の記者が目を見開いた。
「同時に、新安共和国において、新都市の開発を開始します」
スクリーンに、巨大な都市の完成予想図が映し出される。
「この都市は、単なる工業都市ではありません」
幹部が説明を続けた。
「東方カンパニーの本社機能と、新安共和国政府の主要機能を一つの都市に集約し、行政、産業、教育、研究、医療、住宅、物流を一体的に整備します」
都市の中心には行政施設と東方カンパニー本社。
その周囲には、工場、研究施設、大学、病院、住宅地、商業地区、物流拠点が配置されていた。
「新安共和国政府と東方カンパニーは、それぞれ独立した組織として存在します。しかし、この都市では政府機能と本社機能を完全に統合し、行政と産業が連携して動く体制を構築します」
記者の一人が尋ねた。
「なぜ、ここまで大規模な都市を作るのですか?」
「新安の復興を、一時的な復旧で終わらせないためです」
幹部は答えた。
「産業を育てるには人材が必要です。人材を育てるには教育が必要です。そして、人と産業が動けば、物流やインフラ、医療や住宅も必要になる」
一度、スクリーンの都市計画へ目を向ける。
「それらを最初から一つの都市として整備します」
発表はそこで終わった。
しかし、その内容は瞬く間に世界へ広がった。
『東方カンパニー、本社機能を新安共和国へ移転』
『政府機能と企業本社を統合した新都市を建設』
『新安共和国、新たな国家中枢都市を計画』
その頃、新安共和国政府でも会議が開かれていた。
「行政機能の移転は?」
「段階的に進めます。主要省庁は新都市へ集約します」
「国会は?」
「移転する予定です」
「司法機能は?」
「必要な施設を新設します」
「教育機関は?」
「大学、専門学校、研究施設を整備します」
大臣の一人が資料を眺めた。
「……本当に、全部集めるんだな」
「その方が効率はいいでしょう」
別の大臣が答える。
「行政、産業、教育、研究、物流。互いに離れているより、連携しやすい」
誰も反対しなかった。
新安は、戦争と混乱によって分断されていた。
だからこそ今度は、最初からつながった形で作り直す。
一方、日本、滋賀。
黒崎は自宅で発表を見ていた。
「新都市か」
美咲が隣で言う。
「東方カンパニーから聞いていた?」
「ああ。計画段階ではな」
「政府機能まで完全に入れるんだね」
「新安政府が決めたことだ」
黒崎はビールを飲みながら画面を見る。
完成予想図には、行政施設、東方カンパニー本社、工場、研究施設、学校、住宅地、物流拠点が並んでいる。
「……かなり大きいな」
「あなたなら、もっと大きくしたんじゃない?」
美咲が笑う。
「いや」
黒崎は首を振った。
「都市は会社だけで作るものじゃない」
「じゃあ?」
「人が集まれば、勝手に大きくなる」
黒崎は画面を見つめた。
東方カンパニーが新安に作ろうとしているのは、工場でも本社でもない。
一つの都市だった。
「……ここが、新安の中心になるな」
黒崎は静かに呟いた。
そして、西の世界にもそのニュースは届いていた。
「東方カンパニーが、新安に新都市を?」
ヴィクターは資料を受け取った。
新都市。
政府。
東方カンパニー本社。
産業。
教育。
研究。
物流。
一枚の完成予想図を見つめる。
これまで見てきた東方カンパニーの資料とは違う。
企業の一覧ではない。
都市の設計図だった。
「……企業が都市を作るのか」
ヴィクターは呟いた。
だが、すぐに資料を読み直す。
「いや」
目を細める。
「政府も一緒に作るのか」
それなら、少し話が違う。
東方カンパニーが工場を建てる。
インフラを整備する。
企業を集める。
そこまでは理解できる。
だが今回は、政府の中枢まで同じ都市に入る。
しかも、本社機能まで移す。
ヴィクターは資料を閉じた。
「……まだ、判断するには早い」
復興のため。
行政効率のため。
産業発展のため。
説明はいくらでもつく。
だから、今の段階で東方カンパニーを脅威と決めつける理由はない。
ただ一つ。
これまでとは違う動きであることだけは確かだった。
企業を買う。
工場を動かす。
インフラを整える。
そして今度は、都市そのものを作る。
「……もう少し、見ておく必要があるな」
その頃。
新安では、新都市の建設予定地の調査が始まっていた。
まだ何もない広大な土地。
しかし、そこにはやがて政府が入り、企業が入り、学校ができ、研究所ができ、工場が動き、人が住む。
一つの都市が生まれる。
そしてその都市は、新安共和国の新しい中心になる。
東方カンパニーにとっても。
新安共和国にとっても。
新しい時代の始まりだった。




