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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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国の形

新安共和国が成立してから、まだそれほど時間は経っていなかった。


だが、国として動き始めるには、決めなければならないことが多すぎた。


法律。


行政。


税制。


司法。


軍事。


そして、東方カンパニーとの関係。


新安政府の会議室には、連日、大量の資料が積み上げられていた。


「まず、憲法からです」


法務担当者が資料を開く。


「新安共和国は独立した主権国家とする。大統領を国家元首とし、議会を置く。司法も独立させます」


東方カンパニーの経営陣が聞いている。


「企業活動については、通常の民間企業と同じ法体系を基本とします」


「東方カンパニーも?」


「当然です。東方カンパニーだけを特別扱いすれば、国家としての体裁が崩れます」


「なるほど」


次々と制度が決まっていった。


法人税。


所得税。


関税。


土地利用税。


資源関連の税。


新安国内で利益を上げる企業から税を徴収し、それを国家予算に組み込む。


東方カンパニーも例外ではない。


ただし、復興期に限って、インフラ投資に対する税制上の優遇措置を設ける。


行政組織も整理された。


大統領。


首相。


財務。


内務。


外交。


産業。


エネルギー。


交通。


教育。


保健。


通信。


それぞれに省庁を置く。


旧政府の組織は大幅に整理され、腐敗や機能不全の原因となっていた部署は廃止された。


司法制度も整えられた。


裁判所を設置し、行政から独立させる。


警察も再編する。


国境管理も整える。


通貨も決める。


国旗、国章、国歌も決まった。


新安共和国という国家の骨格が、一気に形になっていった。


そして最後に残った。


最も重要な問題。


東方カンパニーと国家の関係だった。


首相が口を開く。


「東方カンパニーは、国内最大の企業です」


「電力、港湾、物流、製造、通信、鉱業……国の重要部分に関わっています」


「このままでは、国家より企業の力が強くなります」


経営陣の一人が答えた。


「すでに、そうなっています」


首相は黙った。


だが、誰も否定しなかった。


「だからこそ、法律で線を引きます」


法務担当者が続ける。


「国家は国家。企業は企業です」


「東方カンパニーは新安共和国の法律に従う」


「新安共和国は東方カンパニーの経済活動を保障する」


「その関係を明確にします」


首相はゆっくり頷いた。


形式としては、それで十分だった。


新安共和国には政府がある。


議会がある。


裁判所がある。


警察がある。


軍もある。


税金もある。


法律もある。


独立国家として必要なものは、全て揃った。


だが。


それで終わりではなかった。


その夜。


東方カンパニー本社から離れた場所にある、投資会社「黒崎」。


六人が資料を囲んでいた。


新安共和国の憲法。


行政機構。


税制。


司法制度。


東方カンパニーの事業計画。


保安局。


土地。


資源。


外交方針。


全ての資料が、この部屋に集まっていた。


四人の専門家が順番に説明していく。


「新安政府については、この体制で問題ありません」


「東方カンパニー側の組織再編も完了しています」


「保安局についても、法的な整理ができています」


「今後の資源、物流、エネルギーの流れも問題ありません」


黒崎は黙って聞いていた。


美咲が資料をめくる。


「国のことまで、ここで決めるようになったね」


「そうだな」


黒崎は短く答えた。


四人の専門家の一人が、静かに言った。


「最終的には、全てここに上がってきます」


黒崎が顔を上げる。


「全て?」


「はい」


「国家の重要政策も」


「はい」


「東方カンパニーの大規模投資も」


「はい」


「資源、土地、インフラ、保安局、人事の大枠も」


「最終判断が必要なものは、全てです」


黒崎は少しだけ考えた。


そして、資料を閉じる。


「なら、それでいい」


誰も驚かなかった。


すでに、それが現実になっていたからだ。


新安共和国の政府は、法律を作る。


東方カンパニーは、それを経済とインフラの側から実行する。


だが、そのさらに上に。


投資会社「黒崎」がある。


国家が何をするのか。


東方カンパニーが何をするのか。


どこに金を流すのか。


どこに人を置くのか。


どの事業を進めるのか。


どの事業を止めるのか。


重要なことは、最後にはこの六人の判断に集約される。


それは、表には出ない。


政府にも、国民にも、外国にも。


黒崎が新安共和国を支配しているという事実を、誰も公式には知らない。


表に存在するのは、新安共和国という国家。


その経済の中心にいる東方カンパニー。


そして、その大株主である黒崎。


それだけだった。


だが、実際には違う。


国の制度を決める。


企業の方向を決める。


資本を動かす。


人を動かす。


インフラを動かす。


必要なら国家そのものの進む方向さえ変える。


その全てを最終的に判断する場所が、この小さな会社だった。


投資会社「黒崎」。


社員は、六人。


それだけ。


巨大な企業グループを支配し、その企業グループを通じて一つの国家を支え、その国家の未来にまで手を伸ばしている。


美咲が窓の外を見た。


「不思議ね」


「何がだ?」


「こんな小さな会社が、国を動かしてる」


黒崎は窓の外を見る。


「会社の大きさは関係ない」


「重要なのは、どこに力が集まっているかだ」


誰も反論しなかった。


新安共和国は、この日から正式に動き始めた。


東方カンパニーもまた、一つの巨大な企業として動き始めた。


そして。


その二つを、見えないところから握っている存在があった。


投資会社「黒崎」。


六人の意思が、国家と企業の両方を動かしていた。


世界はまだ、その事実を知らない。


ただ一つの新しい国家が誕生した。


それだけだと思っていた。


だが。


新安共和国の誕生と同時に。


黒崎の手は、国家の中枢にまで届いていた。

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