流れを握る
「次は物流です」
東方カンパニーの社長が地図を広げた。
「港から始めます」
「港?」
黒崎が顔を上げる。
「はい。国内最大級の港湾都市です。設備は古いですが、立地がいい」
「取れるか?」
「時間はかかります。しかし、取ります」
即答だった。
黒崎がわずかに口元を緩める。
「なら、やれ」
社長は地図の上に印を付けた。
「ただし、港だけでは意味がありません」
「理由は?」
「港で荷物を降ろしても、その先へ運べなければ、ただの倉庫です」
社長は港から内陸へ指を滑らせる。
「道路、鉄道、物流会社。ここまで一つにします」
「物流会社も買う?」
「必要なら」
「全部?」
「全部ではありません。握るべきところだけです」
黒崎が社長を見る。
「判断は任せる」
「承知しました」
次に、社長は空港を指した。
「空港も押さえます」
黒崎が眉を上げる。
「港があるのに?」
「港は大量貨物に強い。しかし、人と時間には弱い」
「技術者、経営者、高付加価値品。急ぎの輸送もあります」
「だから空港です」
「なるほど」
黒崎は地図を見る。
「物流会社は?」
「港と空港をつなぐだけではありません」
社長の声が少し低くなる。
「倉庫、トラック、鉄道、通関。どこか一つを他社に握られれば、流れを止められます」
「だから物流そのものを押さえる」
「そういうことです」
黒崎はしばらく社長を見た。
「……社長」
「はい」
「随分と欲が出てきたな」
一瞬、空気が張る。
社長は笑わなかった。
「黒崎さんに言われたくはありません」
沈黙。
経営陣の何人かが息を止める。
黒崎は数秒黙ったあと、ふっと笑った。
「そうか」
それ以上は言わなかった。
社長も地図へ視線を戻す。
「工業都市も必要です」
「港で資源を受け、工場へ運ぶ」
「そこで加工し、製品にする」
「そして再び物流網へ戻す」
「一つの流れにするわけか」
「はい」
社長はさらに大学や技術学校へ印を付けた。
「教育施設も押さえます」
「学校まで?」
「人材です」
即答だった。
「工場を作っても技術者がいなければ動かせない」
「外から連れてくれば、いつまでも外頼みになる」
「現地で育てます」
黒崎は地図を眺めた。
港。
空港。
物流。
工業。
教育。
「……全部つながるな」
「そのための計画です」
黒崎が頷く。
「主要なところは押さえろ」
「承知しました」
社長が資料を閉じようとした時、黒崎が言った。
「メディアには気を遣え」
「SNSにも?」
「ああ」
「抑えられるなら抑えろ」
社長の手が止まる。
「露骨に動けば反発されます」
「分かっている」
「なら、どうします?」
黒崎は少し考えた。
「敵を作るな」
「……それだけですか?」
「東方カンパニーがあって助かったと思わせろ」
社長は黒崎を見つめた。
「簡単ではありません」
「だから任せている」
短い言葉だった。
社長は静かに頷いた。
「分かりました」
会議室の扉が閉じる。
残った黒崎は、一人で地図を見ていた。
港から空港へ。
物流から工業へ。
そして教育へ。
点が線になり始めている。
黒崎はその線を指でなぞった。
「……面白くなってきた」
誰もいない部屋で、黒崎は小さく笑った。




