恋のキューピッド作戦
その日の午後。旅館の廊下の隅で、盟友とエリアスが何やら小声で話していた。
「……なあ、エリアス」
「はい」
「ヴィクターとアリアって、どんな関係なんだ?」
エリアスは少し考えた。
「どんな関係、と言われましても」
「仲はいいだろ?」
「いいですね」
「アリアはヴィクターのこと、どう思ってる?」
「満更ではないそうですよ」
「やっぱりか」
盟友が腕を組む。
「じゃあ、くっつけようぜ」
エリアスが盟友を見る。
「何だよ」
「あなたのことを見ていると、尻に敷かれる未来しか見えないのは、なぜでしょう?」
「うちのことはほっとけ」
「まだ何も言っていませんが」
「顔に書いてある」
エリアスは小さく笑った。
「それで、本当に二人を?」
「ああ」
盟友は真剣な顔になった。
「ヴィクターは、アリアを逃したら一生伴侶が現れないと思うぞ」
「……それは同意見ですね」
「だろ?」
「はい」
エリアスは少し考えた。
「ヴィクターは国のことばかり考えていますからね」
「昔からそうだ」
「自分のことは後回しです」
「だから、こっちで何とかする」
盟友が拳を握る。
「二人きりになる時間を作る」
「偶然を装って?」
「ああ」
「ヴィクターは気づきますかね?」
「気づかないだろ」
「でしょうね」
二人は顔を見合わせた。
「では、協力してお膳立てしましょう」
「分かった」
その時、廊下の向こうから声が聞こえた。
「何を話してるんだ?」
二人が振り返る。
ヴィクターだった。
「いや」
盟友が即答する。
「明日の予定だ」
「そうか」
ヴィクターは特に疑う様子もなく通り過ぎていく。その後ろから、アリアも歩いてきた。
「ヴィクター、明日の予定ですが――」
「アリア」
「はい?」
「明日、時間あるか?」
「え?」
ヴィクターは何気なく聞いた。
「日本をもう少し見たいと思ってな」
アリアの顔が少し明るくなる。
「あります」
「じゃあ、一緒に行くか」
「はい」
二人がそのまま歩いていく。
盟友とエリアスは、黙ってその背中を見送った。
「……第一段階」
盟友が小さく呟く。
「成功ですね」
エリアスも頷く。
「まだ何もしていませんけどね」
「いいんだよ」
盟友は笑った。
「こういうのは、最初の一歩が大事なんだ」
「なるほど」
エリアスは少し考えた。
「しかし」
「何だ?」
「あなたが仕切ると、最終的にヴィクターよりあなたの方が尻に敷かれそうですね」
「だから、うちのことはほっとけ!」
廊下に盟友の声が響いた。
少し離れたところで、ヴィクターとアリアが振り返る。
「何かあったのか?」
「さあ?」
アリアが笑う。
二人はまた歩き始めた。
その後ろでは、盟友とエリアスが次の作戦について小声で話していた。
ヴィクターは、まだ何も知らない。アリアも、まだ知らない。自分たちの周りで、二人の仲を進めようとする人間たちが密かに動き始めていることを。




