↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
125/186

再会

 アリアが連邦へ戻ってきた。前回とは違い、今回は政治的人質としてではない。自分の意思で訪れた、正式な視察だった。


 目的は明確だった。復興、行政、経済、教育。そして、連邦がどのように七か国をまとめているのかを知ること。


 到着した翌朝から、アリアの予定は埋まっていた。


「午前は地方行政局です。午後は工業地区、その後は教育施設へ向かいます」


「分かりました」


 朝から夜まで、ほとんど休む時間はない。地方の役所を訪れて職員の話を聞き、復旧した道路や物流施設を視察する。工場では労働者から直接話を聞き、翌日は学校、その次は病院、さらに港や発電施設、研究施設へ向かった。


 アリアは、どこへ行っても質問した。


「この予算はどこから出ているんですか?」


「地方政府です」


「中央からの補助は?」


「あります」


「どのくらい?」


 担当者が資料を開くと、アリアは数字を一つずつ確認していく。夕方になって宿へ戻っても、そこで終わりではなかった。視察先でもらった資料を読み、翌日の予定を確認する。


 そうして数日が過ぎても、ヴィクターとは一度も会わなかった。


「ヴィクター議長との面会は?」


 ある日、アリアが担当者に尋ねた。


「まだ予定には入っていません」


「そう」


 アリアは資料へ目を戻した。


「議長も忙しいのでしょうね」


「公務が多いですから」


「分かっています」


 そう答えながらも、アリアは少しだけ考えていた。


 別に、ヴィクターに会うためだけに来たわけではない。今回の目的は視察だ。実際、見たいものも聞きたいことも山ほどある。


 だから、会えなくても問題はない。


 そう思っていた。


 数日後、アリアは軍の施設を訪れていた。


「ここでは、国境警備部隊の訓練を行っています」


 担当者の説明を聞きながら、アリアは訓練場を眺める。


「戦争が終わってからも、軍はかなり大きくなったのですね」


「はい。ただし、防衛が中心です」


「周辺国との関係は?」


「情報共有や共同訓練も増えています」


 アリアは頷いた。


 以前、政治的人質として連邦に滞在していた頃とは違う。あの時よりも、連邦はさらに変わっていた。


 説明を聞きながら、アリアは訓練場の兵士たちを眺めた。


「……BAも、こういうところにいたのかしら」


 何気なく口にした言葉だった。


「BA?」


 担当者が振り返る。


「いえ」


 アリアはすぐに首を振った。


 その時だった。


「アリア?」


 聞き覚えのある声に、アリアが振り返る。


 そこに、盟友が立っていた。


「……お久しぶりです」


「久しぶりだな」


 盟友は、懐かしそうに笑った。


「今、BAって言ったか?」


「……言いました」


「そうか」


 盟友は少し考えると、何でもないように言った。


「なら、ちょうどいい」


「何がですか?」


「ヴィクターも近くにいる」


 アリアの表情が、ほんの一瞬だけ変わった。


「そうなんですか?」


「ああ。ただ、あいつも仕事で忙しいみたいだ」


「私も忙しいです」


「だろうな」


 盟友が笑う。


「だから、仕事じゃないところで会えばいい」


「え?」


「飯でも食おう」


 アリアは少し迷った。


 だが。


「……お願いします」


 その日の夜。


 小さな食事の席が用意された。


 場所は店ではなく、政府関係者が使う静かな部屋だった。参加するのはヴィクター、アリア、そして盟友の三人だけ。


 扉が開く。


 ヴィクターが入ってきた。


「久しぶりだな」


「お久しぶりです」


 アリアが立ち上がる。


 二人は向かい合った。


 前に会った時とは違う。


 今回は政治的人質として連れてこられたわけではない。監視されているわけでもない。ただ、自分たちの意思で同じ場所にいる。


「視察はどうだ?」


「忙しいです」


「そうか」


「本当に忙しいですよ」


 アリアが少し笑う。


「毎日、朝から夜まで予定があります」


「熱心だな」


「知りたいことが多いので」


「そうだろうな」


 料理が運ばれてくる。


 三人で食事を始めた。


 アリアは、視察先で見たものについて話した。道路、学校、病院、工場、地方行政。ヴィクターは、それぞれの質問に答えていく。


「地方によって、かなり違うんですね」


「ああ」


「それでも、中央との連携は思ったより強いです」


「そこはかなり時間をかけた」


「どうやって?」


「最初は何度も揉めた」


「そうでしょうね」


 アリアが笑う。


 ヴィクターも、少し笑った。


 それからも話は続いた。


 ただ、不思議なことに、話題はなかなか深いところまで進まなかった。


 アリアが質問する。


 ヴィクターが答える。


 そこから別の話になる。


 また食事をする。


 特別なことは、何も起きなかった。


 それでも。


 アリアは不思議と落ち着いていた。


 ヴィクターも、普段より口数が多かったわけではない。むしろ、いつもと変わらない。


 なのに。


 何となく気分が軽かった。


「前に来た時より、街がかなり変わりましたね」


「ああ」


「私の国も、こうできるでしょうか」


「時間はかかる」


「やっぱり?」


「ああ。でも、できないとは思わない」


 アリアは、その言葉を聞いて頷いた。


「……そうですか」


 しばらく沈黙が続いた。


 だが、気まずくはなかった。


 何も話さなくても、同じ場所にいることが妙に心地よい。


 やがて食事が終わった。


「今日は、ありがとうございました」


 アリアが言う。


「こちらこそ」


 ヴィクターが答えた。


「明日も視察か?」


「はい」


「大変だな」


「自分で決めたことですから」


「そうか」


 二人は、また少し笑った。


「では、また」


「ああ」


 アリアが部屋を出ていく。


 ヴィクターは、その背中を見送った。


 扉が閉まる。


 部屋には、ヴィクターと盟友だけが残った。


 盟友が、少し笑った。


「満更でもなさそうだな」


 ヴィクターは、しばらく黙っていた。


 そして。


「そうだな」


 それだけ答えた。


 盟友は、それ以上何も言わなかった。


 ヴィクターも、もう一度だけ閉じた扉を見る。


 久しぶりの再会だった。


 話は、それほど進まなかった。


 それでも。


 二人にとっては、なぜか、それで十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。