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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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六千円

仕事にも、少しずつ慣れてきた。


 黒崎は二十四歳になっていた。


 新人ではなくなった。


 それでも、特別な社員ではなかった。


 朝、会社へ行く。


 仕事をする。


 昼飯を食べる。


 帰る。


 そんな毎日だった。


 その夜。


 黒崎は家に帰ると、鞄を置いた。


 テレビをつける。


 しばらく眺めていたが、すぐに消した。


 ソファに座る。


 スマートフォンを手に取った。


 少し考えてから、呟いた。


「久しぶりにマーケットビューを見ようか」


 以前はよく見ていた。


 最近は仕事の方が忙しく、ほとんど開いていなかった。


 アプリを開く。


 いくつかの銘柄が並んでいる。


 黒崎は何となく画面を眺めていた。


 その中に。


 見覚えのある名前があった。


 東方エネルギー。


「……そういえば」


 持っていた。


 黒崎は銘柄を開いた。


 株価。


 6,000円。


 指が止まった。


「……六千円?」


 もう一度見る。


 6,000円。


 画面を更新する。


 変わらない。


 黒崎の心臓が大きく鳴った。


 ドクン。


 鼓動が速くなる。


 スマートフォンを持つ手が震えた。


 保有株数。


 2,500株。


 購入価格。


 120円。


 30万円。


 黒崎は頭の中で計算した。


 6,000円。


 2,500株。


 15,000,000円。


「……一千五百万」


 声が漏れた。


 もう一度計算する。


 同じだった。


 手の震えが止まらない。


 心拍がさらに速くなる。


 30万円だった。


 それが。


 1,500万円になっている。


 黒崎はスマートフォンを机に置いた。


 しかし、目は画面から離れなかった。


 なぜ。


 黒崎は東方エネルギーを調べ始めた。


 会社概要。


 ニュース。


 業績。


 そして、ある記事に目が止まった。


 東方エネルギー、深海資源開発に成功。


 黒崎は記事を開いた。


 東方エネルギーは、長年研究していた独自の掘削技術を実用化。


 これまで技術的に困難だった深海での資源掘削を可能にした。


 水深数千メートル。


 高い水圧。


 低温。


 設備への負荷。


 これまで、採算と技術の両面から開発が難しいとされていた海域だった。


 東方エネルギーは、その壁を越えた。


 深海の資源層から安定した採掘に成功。


 さらに、その技術を海外へ展開。


 複数の資源権益を取得していった。


 黒崎は画面をスクロールした。


 国内エネルギー供給。


 国家備蓄。


 政府との共同事業。


 エネルギー安全保障。


 そして。


 記事の中に、その言葉があった。


 「国策企業」


 黒崎は手を止めた。


 自分が120円で買った会社。


 それが今では、国のエネルギー政策に組み込まれている。


 知らなかった。


 株を買った。


 株価が上がった。


 それだけだと思っていた。


 けれど。


 株価の向こう側には、会社があった。


 会社の向こう側には、技術があった。


 技術の向こう側には、資源があった。


 そして、その資源を必要とする国があった。


 黒崎は自分の手を見た。


 まだ少し震えていた。


 1,500万円。


 その金額も大きい。


 だが、それ以上に。


 自分が知らない間に、一つの会社がここまで変わっていたことが気になった。


 120円だった株。


 6,000円になった株。


 同じ東方エネルギー。


 けれど。


 黒崎には、もう同じ会社には見えなかった。


 黒崎はマーケットビューを閉じた。


 翌朝。


 いつも通り会社へ向かった。


 電車の窓から見える景色は、昨日までと何も変わらなかった。


 それでも。


 黒崎には、少し違って見えた。

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