↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/186

景色

 朝の電車は混んでいた。


 黒崎は、つり革につかまっていた。


 周りには、同じようなスーツ姿が並んでいる。


 入社して、まだそれほど経っていない。


 会社では、教育担当の先輩について仕事を教わっていた。


「黒崎くん、これお願い」


「はい」


 渡されたのは、会議で使う資料だった。


「これ、コピーしておいて。それと、この順番に並べて」


「分かりました」


 コピー機の前に立つ。


 一枚ずつ確認する。


 順番を間違えないように並べる。


 終わったら、先輩の机へ持っていく。


「ありがとう」


 それだけだった。


 別の日は、データの入力を手伝った。


 別の日は、会議室の準備をした。


 電話を取ることもあった。


「お電話ありがとうございます」


 まだ少し緊張する。


 聞き取れなかったときは、隣の先輩に助けてもらう。


 そんな毎日だった。


 同期も似たようなことをしていた。


 昼休みになると、一緒に飯を食う。


「研修って長いな」


「早く配属されたいよな」


「俺はまだ何するか全然分からん」


 黒崎も笑った。


 特別なことはない。


 普通の新入社員だった。


 ある日の午後。


 先輩について、初めて社内の別の部署へ行った。


 廊下を歩く。


 同じ会社なのに、雰囲気が違った。


 電話をしている人。


 パソコンに向かっている人。


 誰かと話しながら資料を見ている人。


 先輩が立ち止まった。


「ここが営業」


 少し歩く。


「こっちは管理」


 さらに歩く。


「こっちは開発」


 黒崎は黙って見ていた。


 今まで、会社というものを一つの建物としてしか見ていなかった。


 けれど。


 その中には、いろいろな仕事をしている人間がいる。


 それぞれ違う場所で働いている。


 それでも、同じ会社だった。


「黒崎くん、行くよ」


「あ、はい」


 先輩について歩く。


 その日の仕事が終わる。


 帰りの電車に乗る。


 朝と同じように、スーツ姿の人間がたくさんいる。


 黒崎も、その中の一人だった。


 まだ何者でもない。


 仕事も、まだよく分からない。


 会社のことも、ほんの少ししか知らない。


 それでも。


 昨日まで一つに見えていたものが、今日は少し違って見えた。


 会社には、いろいろな人間がいる。


 それぞれの仕事がある。


 それぞれの役割がある。


 黒崎は窓の外を見た。


 特別なことは何も起きていない。


 ただ。


 少しだけ、景色が広くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。