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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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地下の資源

連邦が成立してから、しばらくの時間が過ぎた。七か国の間では貿易が増え、道路や港の整備も進んでいた。電力網や通信網も少しずつつながり、人や企業が国境を越えて動くことも珍しくなくなっていた。


 そんなある日、ヴィクターのもとに一つの報告が届いた。


「以前から調査していた地域で、大規模な油田が見つかる可能性があります」


 エリアスが資料を広げる。そこには地質調査の結果と、地下構造の分析が並んでいた。


「まだ確定ではありません。ただ、かなり可能性が高い」


 ヴィクターは地図を見る。その場所は、かつて自分たちが守ってきた土地だった。


「どのくらいの規模になる?」


「正式な調査が終わるまでは分かりません。ただ、連邦のエネルギー事情を大きく変える可能性があります」


 ヴィクターはしばらく黙っていた。石油があれば、燃料を輸入する必要が減る。発電もできる。工場も動かせる。経済を大きく成長させることができる。


 しかし、それだけではなかった。


「もう一つ、報告があります」


 エリアスが別の資料を出した。


「希少金属です」


 複数の地域で、リチウムやニッケルなどの重要鉱物が確認されていた。半導体、電池、通信機器、航空宇宙、新素材。これから連邦が必要とする産業には、どれも欠かせない資源だった。


「これが全部、連邦の中にあるのか?」


「すべてではありません。ただ、これまで想定していた以上の資源が確認されています」


 ヴィクターは地図を見つめた。


 戦争が終わった。


 国が生まれた。


 連邦もできた。


 そして今度は、地下から新しい可能性が出てきた。


「この資源は、どう扱う?」


 エリアスが聞く。


 ヴィクターは迷わなかった。


「連邦全体で使う」


「資源のある国から反対が出るかもしれません」


「分かってる」


 ヴィクターは地図を指した。


「でも、一つの国だけが豊かになったら、連邦は強くならない」


「資源を持つ国と、持たない国に分かれてしまう」


「それなら、連邦を作った意味がない」


 エリアスは静かに頷いた。


「共同管理ですね」


「ああ。資源は、それぞれの国が持っている。でも、その開発と利用については、連邦全体で考える」


「収益も?」


「必要な分を各国へ回す。その上で、残りは連邦のために使う」


「何に?」


 ヴィクターは、資料の上に並んだ産業名を見る。


「技術だ」


 エネルギー。


 半導体。


 AI。


 通信。


 新素材。


 医療。


 宇宙。


 そして、防衛。


「資源を売って終わりにはしない」


 ヴィクターは言った。


「資源を使って、技術を作る」


 その方針が決まった。


 油田の開発。


 希少金属の採掘。


 発電設備の整備。


 送電網の拡張。


 半導体産業への投資。


 大学や研究機関への資金。


 海外からの研究者の受け入れ。


 連邦は、資源を一時的な利益に変えるのではなく、将来の産業を作るために使うことになった。


 その頃から、ヴィクターはもう一つの問題を考え始めていた。


「技術者が足りない」


 会議で、ヴィクターが言った。


「今の研究者だけでは、全部はできません」


 エリアスが答える。


「海外から呼びますか?」


「呼べるなら呼ぶ」


「大国も優秀な技術者を囲い込んでいます」


「なら、ここに来る理由を作る」


 ヴィクターは、資料を閉じた。


「研究できる場所を作る」


 まだ名前も決まっていない。


 まだ建物すらない。


 それでも、この時から後に連邦を代表する研究組織の構想が始まった。


 世界中には、自分の技術を自由に研究したい人間がいる。大国の政治や企業の都合に疲れた技術者もいる。ヴィクターは、そうした人間たちが集まれる場所を作ろうとしていた。


「軍事研究所にするんですか?」


 エリアスが聞く。


「違う」


 ヴィクターは答えた。


「軍事だけじゃない」


「エネルギーも、医療も、通信も、宇宙も必要だ」


「研究する人間が、自分で未来を選べる場所にする」


 それが、後に世界各国から注目される技術者集団の始まりだった。


 一方、日本では。


 黒崎が、いつものように庭にいた。


「恒一」


 美咲が声をかける。


「何?」


「連邦で、大きな油田が見つかったみたい」


「そうか」


「希少金属もあるらしいよ」


 黒崎は少しだけ顔を上げた。


「東方カンパニーも動くかな」


「たぶんね」


「そうか」


 黒崎は、また土をならし始めた。


「資源があるなら、企業も増えるな」


 それだけだった。


 黒崎はまだ知らない。


 東方カンパニーが、この資源開発をきっかけに連邦でさらに事業を拡大していくことも。その一方で、ヴィクターの国では東方カンパニーとはまったく別の道から、世界中の技術者が集まり始めることも。


 資源を持つ国から。


 資源を使う国へ。


 そして。


 技術を生み出す国へ。


 連邦は、少しずつ姿を変え始めていた。

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