第358話 総力戦
紅蓮の尾を引きながら飛来する無数の溶岩球。
エレメントブリンガーで風を操り、飛行しながら避ける。
炎龍帝アークトゥルスが豪快に蹴り上げた溶岩弾が、辺り一帯に流星群の如く降り注いでいた。
この巨体だ。魔龍の一挙手一投足が範囲攻撃となりうる。俺達はその僅かな隙を縫うように、魔龍へと攻撃を加える。
飛行する俺と並ぶように、進路方向へ向かって後方からジャラジャラと鎖が伸びてきた。鎖に引っ張られるように追いついてくるのはウォルトだ。
「オイオイ、その剣空も飛べんのか。一体どうなってんだ?」
「ごめんウォルトさん。これでも制御に結構集中がいるんだよ。無駄口叩いてる余裕があまりない」
風を制御し、複雑な軌道で降り注ぐ溶岩を避けて進むが、両手から鎖を射出するウォルトは障害物に鎖の先端を突き刺し、巻き取りながら移動することで器用についてくる。
これはウォルトの所持する星骸、「紅血鎖刃」の能力らしい。
「コルベットの奴ら気合入ってるみてぇだな。この調子ならじきに魔龍の手首は斬り落とされるだろうよ。万事俺の見立て通りってわけだ」
ウォルトはそう言ってクククと笑う。全く、どこまで織り込み済みなんだ?
「センチュリオンの方もすごい勢いですね。戦ってるのは初めて見るけど」
「奴らの戦法は単純だからな。とにかく人数と耐久に任せてブン殴る。豪快でシンプルだが、それ故に強ええ。ラクーンらしい戦い方だわな」
この調子で行けば両手を封じるのも時間の問題だ。今のところいい調子と言えるだろう。
「俺は単独でヤツの弱点を攻める。わりぃがこっちのの削りはアテにはすんなよ」
「わかってますって」
そういうとウォルトは俺の進路とは別方向へ飛んでいく。
疎らに足場の浮かぶ火口上空を移動していると、蒸気ごしにチカチカッと激しい光が瞬く。
それを合図に激烈な熱を伴いながら、魔龍の口腔から極大ブレスが発射された。
『爆砕』
ブレスの破壊音と同等の爆発音が空間を震わせる。濛々と煙る噴煙を吹き払って姿を見せたのは、仁王立ちするヴィルヘルムだ。
見るからに頑丈そうな分厚いラウンドシールドを装着した両手をクロスさせ、ニヤリと鋭い牙を見せて笑っている。
「あのブレスを生身で受け止めたのか……?!」
多分アイン・ソピアルの爆裂能力でブレスの威力を殺しているんだろうが、それにしたって人間止めすぎだ。
「おうおう炎龍帝よぉ。殴り合いに付き合ってもらうぜぇ!」
グルアアアアァァァ!!
ゴンと、重い音を響かせて両手の盾を打ち付け合うヴィルヘルム。
ヴィルヘルムの正気を疑うような啖呵に応じたのかわからないが、炎龍帝は傷ついた右腕を振り上げ、目の前に立つヴィルヘルムに向かって振り下ろした。
「『爆砕』!」
爆発音と共に、魔龍と男が拳を交わす。常人ならば、そもそも魔龍の直接攻撃を受け止めるなんて考えられない。だが、ヴィルヘルムはそれをやってのける。
常識的に考えればまず不可能だ。そもそも体のサイズが違いすぎる。
だが、ヴィルヘルムはその経験か能力によるものか、アイン・ソピアルの爆発をうまく利用し、龍の拳の威力を相殺しているらしい。
一見フィジカルに任せた力業に見えて老獪、技巧に裏打ちされた戦い方のようだ。
「おらおらどしたぁ! なまっちょれぇぞ炎龍帝サンよお!!」
魔龍と殴り合いながら、歯を剥き出しにして笑っている。ヴィルヘルムはこの火龍山脈最強の狩人と言われている。心底楽しげに闘いに身を投じるその姿は、鬼人の如く。
激しく打ち合うヴィルヘルムと別方面から、疾風のように青い軌跡が魔龍に飛びかかって行く。
「アンタばかりにイイとこばかり持ってかれるわけにゃいかないねぇ、ヴィルヘルム!」
ローズの蛇腹剣が龍の太い手首に巻き付く。
剣は締め上げるように、アルココが与えたダメージ増加の紋章に食い込んでいく。
『青荊の磔刑』
バギンという強烈な音と共に、手首に巻き付くラヴィアンローズの刀身から、蒼く光る鋭利な棘が大量に突き出し、これでもかと差し貫く。
――グギギギアアアアアアァァ!!!!
ローズの攻撃に、さしもの炎龍帝も苦悶の悲鳴を上げざるを得ない。
そして、度重なるコルベットの連携攻撃に晒されズタボロとなった手首は、ローズの技をトドメに火口へと落ちズブズブと沈んでいく。
「ヘッ、言うじゃねぇかコルベットの女頭領よお」
「この機会に白黒つけようじゃないかいヴィルヘルム。どっちが上か」
「面白えじゃねぇかよ。このヴィルヘルム、受けて立つ」
なんかあの二人やたらと盛り上がってるなぁ……。まあ敵対しないだけ、ウォルトの計略は成功ってことになるのか。
《ナトリ君! 溶岩弾に注意して!》
リィロのアナウンスに助けられながら飛行進路を変える。
魔龍は腕を切られて大層お冠のようだ。こんな大怪我でも、こいつの再生能力があれば数日で治っちゃうんだろうけど。
残る片方の手を集中して攻めるセンチュリオンと、単独で撃ち合うヴィルヘルムがヘイトを引き受ける派手な立ち回りを演じている。炎龍帝はとりわけそちらに注意を割いているようだった。
「ナトリ、今度はどこ狙う?!」
飛来物を避けながら飛んでいるとフウカが追いついてくる。
「ヴィルヘルム達が龍の注意を引き付けてくれてる。今なら背中がガラ空きだ」
「行こう!」
フウカと二人で溶岩の上を高速で飛翔し、魔龍との距離を詰める。
ドレッドストームに火属性を混ぜて風を弾けさせ、竜の足元から一気に高度を上げ背中を目指す。
「さっき斬ってみてわかったぞ。お前の装甲は分厚いけど、その内側の肉質は案外柔らかい」
「『黒・破嵐剣』」
先行するフウカが暴風の黒剣を打ち下ろし、炎龍帝の岩山のような背中をゴリッと削る。わずかだが、赤い血肉が露出した。
「甲殻さえなければ、リベリオンの刃もサックリ通るだろ! ――『ソード・オブ・リベリオン』」
フウカのつけた傷へ向かって飛翔しながら、刃を通常形態へ戻し、突きの構えを取る。そのまま刀身をありったけ巨大化させ、傷に突き入れる。リベリオンの切っ先は、吸い込まれるように肉を切り裂き、魔龍の背へ吸い込まれる。
グギギギギィィィィィィィィィアアアアアアアア!!!!!
不意を突かれた龍は耳をつんざくような悲鳴を上げる。
「おらああああぁぁ!!」
渾身の力で傷口に刺さったリベリオンを捩じり、炎龍帝の肉体を抉る。
長い首が猛烈な勢いでしなり、燃え盛る火焔のような眼光が俺を見下ろす。目が合う。
魔龍の口が開き、灼熱のブレスが俺に襲い掛かる。
「『層隔壁』!」
咄嗟に俺の前に飛び出したフウカが波導障壁を展開、熱線を受け止める。
だが、超至近距離から放たれ、威力の収束した莫大な熱量を受け止めるには条件が悪すぎた。不安定な足場に加え、フウカといえど波導構築の時間の無さ故、中級の防性波導を展開するので精一杯。
「う……!」
龍のブレスを浴びた層隔壁が、かさぶたが剥がれ落ちるように少しずつ吹き飛んでいく。俺もアブソリュート・イージスを展開して――――。
「清らかなる、水の祝福を!」
突如目の前がパアッと明るく輝き、涼しさが体を包み込む。気づけば俺とフウカは球体状の青い結界の内側にいた。
「これは……!」
「遅れてごめんでち!」
「……ミコ!」
上から降って来たミコの小さな体を、フウカが両手でしっかりと受け止める。
相変わらずめちゃくちゃ強力な結界だ。至近距離からのブレスにもびくともしない。それにしても……。
「ミコ、こんな危ないところにいきなり飛び込んで来て平気なのか?」
「皆様と決めたでちゅ! 炎龍帝を倒すって……。だからあたちゅも一緒に、戦いまちゅ!」
「ミコ……!」
ブレスを完全に防がれたと見るや、炎龍帝は背中の俺達を直接その顎で噛み砕こうと首を伸ばしてきた。
『神雷』
重たいものを打ち付けるような激しい音と共に視界を閃光が駆け抜ける。迫っていた魔龍の首は、横っ面に電光石火の如く飛来した稲妻を受けて弾き飛ばされた。
「クルーガーさん!」
「おい、一旦こいつから離れろ!」
クルーガーとクレイルが首に攻撃を仕掛け、注意を逸らした隙に俺とフウカは背中から離脱する。
「余所見は良くねぇんじゃねぇか、炎龍帝サンよぉ」
ヴィルヘルムの巨体が宙に舞う。打ち下ろしたラウンドシールドが炎龍帝の傷ついた手首に打ち付けられると、そこを中心に大爆発が巻き起こった。
グギ、グギギギッ……。ガルルルルアアアアアァァァァ!!!!
炎龍帝の背中が蠢き、爆砕の爆炎を噴き晴らしながら巨大な翼が広がっていく。
《飛行形態に移行するわ! 各自対応して!》
翼を広げた炎龍帝を見上げ、剣を握る手に力を込める。
「この戦力だ。さすがにここまでは危なげなく来れた。問題はここからか」
「うん。今度は負けない」
「覚悟するでち、炎龍帝!」




