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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第353話 交渉人

 

 炎龍帝戦の傷と疲れを癒し、水の聖域を出た俺たちは、ローズたちコルベットが駐留しているはずの第二中継地点へと戻った。


 行きは洞窟探索で大変な目に遭ったが、帰りは飛び降りるだけなので非常に楽だ。


 オルア第二砦は相変わらず狩人達で活気に溢れていた。

 しかしコルベットのメンバーはまだ傷の癒えきらない者も多く、多くの人員が砦に残っていた。


 ローズを探して砦内を彷徨っていると、意外な人物に出会う。


「あれ、ウォルトだー」

「おう、お前らか」


 眼帯ハゲのおっさん、もといベテラン狩人のウォルトだ。

 エグレッタの街で会うことは多かったものの、火龍山脈で見かけるのは初めてなので何か新鮮に感じる。


「おっちゃん、上層まで来れるんだな……」

「この辺りのモンスター、強いから迂闊に外に出ちゃダメだよ」


 エルマー、フウカ。いくら戦ってるところを一度も見たことないからって、ナチュラルにベテランを煽るんじゃない。


「おいおいテメーら、俺が何年ここにいると思ってんだよ?」

「せやかておっさん、あんま強そうに見えんぜ」


 みんなのウォルトに対する評価は思ったより低かったらしい。

 彼ははそれを聞いてトホホな顔をするが、すぐに話題を切り替えた。


「聞いたぜ。お前らジェネシスが枯れた森の事件を解決したらしいな」

「うん。コルベットのみんなを手伝ってね」

「ハハハ、お前らは本当に面白い奴らだな。山脈に来てからというもの、話題が尽きねえわ」


 一緒に飯でもどうだということで、昼食ついでにお互いに情報交換をする。


「炎龍帝に挑んだか。んで、負けちまったと」

「はい。一筋縄じゃいかないですねアイツは……」

「まあな。でも死傷者ゼロってのは相当運がよかったな。それくらい強えからよ」


 実際クルーガーとミコが助けに入ってくれなければ、誰かが死亡していた可能性はある。自分達の判断が甘かったことは大いに反省している。


「それで、コルベットとセンチュリオンに協力してもらえないか話に行こうと思ってる」


 俺の言葉を聞いたウォルトは、肉を食いちぎる手を止めてポカンと俺の顔を眺める。


「協、力ぅ?」

「うん」


 ウォルトは俺の肩にポンと手を置くと首を振る。


「あのな……、この火龍山脈に集る脳筋バカ共が、そんな高尚なことできると思うか?」

「…………」

「悪いことは言わねえ。やめとけ。奴らはどっちが先に炎龍帝を倒すかを競い合って、生きがいにしてるような連中だぞ。そんなのがなかよしこよしで一緒に戦えるワケねえだろ」

「でも、それしかないんだよウォルト。私たちが迷宮に入るためには」

「二つのユニットの協力を取り付ければ、クルーガーさんも一緒に戦ってくれる約束なんだ……。だからこのチャンスを逃したくない」

「あの、『遠雷』がかよ……?」


 ウォルトは腕を組み、口に楊枝を咥えたまま天井の隅に視線を向けていた。


「『遠雷のクルーガー』に、お前らジェネシス。そして青い薔薇(コルベット)赤龍の尾(センチュリオン)……。確かに、それだけの戦力が揃うなら、あの炎龍帝すらもぶっ倒せるかもしれねえ」


 宙に視線を漂わせた後、ウォルトはにやと少々不敵な笑みを見せる。


「最初はとんでもねえこと言い出したなと呆れたが……、存外こいつは面白ぇことになるかもな」

「ウォルトさん?」

「よし決めた。お前ら、俺がその交渉手伝ってやるよ」

「え、手伝ってくれるの?」

「おっさんよ、急に態度変えてどうした?」


 確かに一転して協力的になったウォルトの態度は不思議だった。


「この火龍山脈にゃあ、戦うしか能のない変態ばかりが集まる。けどな、そうじゃない奴もいるんだぜ。俺とかな」

「確かにおっさん弱そうだしな」

「エルマーよぉ……」


 ウォルトは再度哀愁漂うトホホ顔になる。


「魔龍素材となりゃあ、出すとこ出せば一生不自由しねえような金が手に入る。ここにはな、数は少ねえがそういう輩もいるってこった」

「んだよ、つまり金ってか」

「ハッハッハ、そういうこった!」

「ある意味わかりやすいわね……」


 彼の心変わりは非常にシンプルな理由だった。そもそも魔龍といえば、スカイフォールに数体しか存在しないモンスターの最上級個体だ。

 よって素材価値も最上級。本来なら装備に加工することすら躊躇うような代物なのだ。


「ユニット間交渉の立役者、炎龍帝討伐の功労者ともなれば、素材報酬も優先的な配分権が手に入る。それが狙いですか」

「ハハッ、さっすが嬢ちゃん。察しがいいねぇ」


 つまりウォルトは、俺達人間側に勝算があると踏み、それならば率先しておこぼれに預かろうという思惑なのだろう。

 貢献度が高ければそれだけ報酬の配分では優位に立てる。計算高いウォルトらしい切り替えの早さだった。


「俺はこの辺にのさばってやがるバカ共と違って、ココで凌いでるんでな」


 彼はそう言ってとんとんと自分の頭を指す。確かに、頭蓋骨の中にまで筋肉が詰まっていそうな狩人が闊歩するここら一帯では珍しいタイプだろう。


「俺がコルベットとセンチュリオンをなんとかしてやるよ。だから、分け前は弾んでくれよな」

「前金とかそういう話?」

「そんなもん要求しねえよ。俺の交渉成果でもってお前らを納得させてやる。それなら文句ねえだろう?」

「まあ……、そうだね」


 交渉に際し、ウォルトが提示する条件は大きく二つだった。

 一つ、実際の戦闘には彼も参加するが、自身の身の安全を常に最優先する。

 二つ、報酬の配分権は第二位、最大功労者の次を要求する。


「ケッ、また大きく出やがったなァ」

「少し条件が良すぎないかしら……」


 身の安全を最優先、ということは、当然リスクある戦闘行動はとらないわけで、そもそも戦力に数えていいものなのか……。

 しかもそんなスタンスでありながら報酬選択の順番は二番。かなり虫のいい話ではある。


「ま、お前らだけでコトがうまく進む可能性もあるしな。この条件が発動するのは、明らかに俺の功績が認められ、且つ想定される状況で炎龍帝討伐戦が行われることになった場合だけでいいぜ」

「うーん……」


 仲間たちの顔を見回し、どうしたもんかと思案する。


「ナトリ、それならいいんじゃねえか? 俺達だけで交渉がうまくいけば、おっさんは用なしだろ? とりあえず連れてっても」

「アニキ、ちょっと癪っすけど……、オレ達にとっては特に悪い話でもないっすよね」


 実際そうなのだ。俺達は、炎龍帝の素材目当てで討伐したいわけではない。

 さらに言えば、コルベットもセンチュリオンも素材は二の次だろう。彼らは名誉と戦闘本能で戦っているわけで。


 そうなると、一番魔龍素材に価値を見出しているのはウォルトということになる。

 なるほど、さっきはどうしてウォルトのようなタイプがこんな場所で狩人をしているのかと思ったが……、案外狩人同士で利害も一致するのかもしれないな。

 ウォルトのような人種はきっと、腕力ではなく頭を使って立ち回る狩人なわけで。戦闘狂に足りない部分を補えることもあるだろう。


 持ちつ持たれつ。それが彼にとっての『戦い』であり、ここでの()()方なのだろうか。


 彼は当然俺達の目的が炎龍帝自体にないこと前提で提案している。武力に秀でた連中に戦いを担当させ、それに付随する戦闘以外のあれやこれやが、本来ウォルトのような者達の担当ってことになる。


 なんだか火龍山脈周辺の狩人事情を垣間見たような気持がした。



「——わかった、条件を飲む。俺達でどうにもならないときは頼らせてもらえるかな、ウォルトさん」

「うし、決まりだ」


 彼が突き出して来た手を握り、握手を交わす。契約成立だ。


「そうと決まればさっそくローズんとこ行こうや」


 俺達は立ち上がり、ウォルトに続いて砦の中を進み始める。どうやら彼はローズの居場所に心当たりがあるらしい。


 ウォルトの背中を眺めながら、この人はこの先何が起こるのか、どの程度想定しながら動いているのだろうと思わず考え込んでしまう。




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