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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第351話 名匠

 

「そういうわけか……」


 火の小さくなった囲炉裏を囲み、クルーガーに俺達の旅の理由を語って聞かせた。


 彼は目を閉じたまましばらく何事か考えているようだったが、暫しの後目を開くと俺を見る。


「ナトリ。お前は見上げた男だな」

「俺が?」

「そうだ。わざわざ厄災に立ち向かうなんざ、そうそうできることじゃねえ。たとえそのための力を得て、未来の危機を知っていたとしても、だ」

「俺はただフウカやリッカ、みんなのことを守りたいんだよ……」


 ジェネシスの仲間たち、プリヴェーラやカマス商会の人々に、アンフェール学園のみんな。

 どこにも居場所のなかった俺が、ようやく見つけた温かい場所。


 自分の居場所を失いたくない。本当はそれだけだ。


「話を聞いて気が変わった。俺はお前の考えに賛同する」

「それじゃ……!」

「どの道あの魔龍がますます強大になれば、いよいよ手が付けられなくなる。水の盟約にも限界はあるだろうしな。何代か、何十代か先……、いずれ破綻は起きる。なら、炎龍帝は倒されるべきだ。いい加減、この場所の風習も終わらせなきゃならねえだろうよ。ミコ、お前も本当はそう思ってるんじゃねえか?」


 クルーガーの問いかけに、ミコは俯いて長いこと黙考していた。


「……はい。クルーガー様のおっしゃる通りだと思うでちゅ。今だって、炎龍帝の犠牲になる狩人はいまちゅし、わたちたちは、重荷を先の世代に押し付けているだけではないかと……、疑問を感じていたのは本当のことでちゅ」


「討伐が叶うのであれば、炎龍帝がいなくなるのが、一番だと思いまちゅ」


 クルーガーは、気持ちを正直に告白したミコを見て頷いた。


「ナトリ、俺達は炎龍帝討伐に協力しよう」

「本当ですか?!」

「やったね、クルーガー達が居れば百人力だよ!」


 フウカの言う通り、水の盟約の力で魔龍の炎を防げるミコと、『神雷』(ケラウノス)の使い手クルーガーが居れば戦力は大きく上がる。


「しかしな……、おそらく俺達が力を合わせても、それでも魔龍を倒すには不足かもしれねえ」

「やばいくらい強かったっすからねぇ……」


 クルーガーが手を貸してくれるということでようやく希望が見えてきたのに、それでも魔龍を倒すに足るかは怪しい。

 彼らの協力を得られたとしても、結局倒せなければ聖域の巫女を危険に晒すだけでしかない。


「なら、この火龍山脈で活動する、狩人(ニムロド)達の力も合わせたとしたら……?」

「本気で言ってんのか?」


 クルーガーの感じる疑問はわかる。火龍山脈に集う狩人達は、自らの力のみで魔龍を打ち倒すべく集結した戦闘狂集団。力を借りるとか、合わせるとか、そういうことに消極的な者が大多数だ。


「奴らが俺らと協力して炎龍帝を倒す、なんつう話に乗って来ると思うか」

「…………」

「まあ、無理やろな」


 二大派閥である青い薔薇(コルベット)赤竜の尾(センチュリオン)は、ただでさえどちらが炎龍帝を倒すかでしのぎを削る仲。


「それでも……、あの二つのユニットの協力を取り付けられれば、倒せるかもしれないだろ?」

「確かに、奴らは長年炎龍帝と対峙してきた。実力も経験も申し分ないだろうが」

「やるからには、確実に倒したい。なんとかして二大ユニットの協力を取り付けてみようと思う」

「ナトリさん……」


 各々が俺の案について考える。


「私もナトリくんの案が一番確実だと思います」

「……そうですよね。一番炎龍帝に詳しく、戦い慣れている方々ですし、勝率は確実に上がるかと」


 リッカとマリアンヌが俺の意見に賛成してくれる。


「幸い、私たちってどちらのユニットとも多少交流があるしね。なんとか話できないかな」

「ちょうどヴィルヘルムもローズも上層にいるはずだ。会いに行こう」


 もう一度戦うなら失敗は許されない。だれかの命を失う危険もできる限り減らしたい。

 であれば、やはりこの火龍山脈の最大戦力をかき集めた共同戦線の構築を目指すべきだ。


 これからの方針を皆で合意したところで、今度はどっと疲れが押し寄せてきた。


「にしても……、炎龍帝アークトゥルス、やっぱり強敵でしたね」

「本当に。鱗が分厚すぎて、ナトリのリベリオンでも刃が通り切らないなんてね~」

「厄災レヴィアタンと戦わせたら、ええ勝負するんやないか?」

「炎龍帝の属性は火。火口なんて強烈な火の属性(エモ)が充満した特殊環境ですから。相当に強化されているはずです。逆に私のような水の波導はほとんど使い物にならないと思いました……」


 マリアンヌはそう言ってため息をつく。


「倒せる可能性があるとしたら、やっぱりナトリとリッカのあれ?」

「『ディメンション・バスター』のこと?」

「そうそう」

「いや、あの術は結構タメがいるし、放つ前に勘付かれて仕留められるか、大きく距離を取られて当たらないと思う……」

「大技故の弱点ですね……。私も到底当てられる気がしないです」


 リッカの黒波導と、俺のエレメントブリンガー黒属性モードを合わせる『ディメンション・バスター』は威力だけならジェネシス最強だと思うが、大きな隙ができる。炎龍帝はそれを許してくれるような相手ではない。


「戦ってわかったんすけど、今回オレとニムエはあんまり役に立たないかもしれないっすね」

「そうなの?」

「はい……。オートマターの魔力中和障壁(アンチ・ドミネイター)は、厄災に対しては強力なんすけど、ニムエは肉弾戦主体なこともあってか、魔龍にはほとんど攻撃が通らなくて。燃料も水の結晶で運用してるんで、火口だとバカみたいに減りが早いんすよ」

「お役に立てず、面目次第もございません」

「いや、こればっかりは相性とかあるし、しょうがないと思うわ……。私も相変わらずみんなのサポートしかできないし」


 確かに魔龍戦でニムエは主にエルマーなどのサポートに回っていた。

 魔龍のブレス攻撃を水の波導障壁で受け止めて、一発で機能停止寸前まで追いやられていたしな……。


「でもアニキ、再戦する時はニムエの腕を掘削能力のあるブレードに換装しようと思ってるから、役立たずで終わるつもりはないっす!」

「え、かっこいい……!」


 両手に火花を散らせながらギャリギャリ回転するブレードを備えて戦うニムエを想像して、ちょっと心が躍った。


「みなしゃま。今日は村に泊って疲れを癒してくだちゃい」

「ありがとう、ミコ」

「お言葉に甘えさせてもらうわね」


 ミコの言葉をきっかけに俺たちは村長宅を去ることになり、全員で外へ出る。


 とりあえずやることは決まった。炎龍帝に勝つ望みはまだある。今は信じて進むしかない。


 水の聖域の宿へと案内してくれるというミコについて、村の中を歩いていく。


「なぁクルーガーのおっちゃんよぉ」

「ん、なんだ?」

「この辺りで腕のいい鍛冶師知らねえか? さっきの戦いで俺の鎧が大分削れちまったからよ……。ちょっと鍛え直してもらいてえんだぜ」


 苛烈な攻撃だったから、モノによっては俺達の装備品もダメージを負ってしまっていた。

 エルマーの着こんだ全身鎧のラグナメイルなどはそれが最も顕著だった。適当な鎧だったら死んでいただろう。ちゃんと作っておいてよかった。さすがは魔龍防具だね。


「ここに、一人いるにゃあいるが」

「お、鎧を打てる奴がいんのかよ?」

「随分前に外からやってきたラクーンなんだが……、聖域の連中と交流することもなく、一人で工房に籠って日がな一日何かやってる変わり種だ」

「そいつ、本当に腕いいのか?」

「正直、わからねえな」


 そうやって外からここにやってくる人もいるにはいるんだなぁ。


 って、変わり者のラクーン? なんか、ちょっと前にそんな話聞いたような……。


「ナトリくん、その方はもしかして、ユルゲンさんのお師匠様じゃないでしょうか?!」

「――あ!」


 確かにユルゲンは、師匠が山脈上層にいるんじゃないか的なことは言っていたはず。


「もし、本当にそうだったら、リッカの星骸(スターアーク)作成を頼むこともできるかもしれないな……!」

「……会いに行ってみたいです!」

「ユルゲンのおっちゃんの師匠だったら、きっとすげえ腕前の職人なんだぜ!」

「よし、宿屋に荷物を置いたら行ってみよう」

「はい!」


 ミコ達が案内してくれた、質素だが雰囲気のいい村唯一の宿屋に荷物を置いた後、俺とリッカとエルマー、アルベールとニムエは連れ立って、ミコに聞いた変わり者のラクーンの住処へとやってきた。


 水の聖域には縦横無尽に小川が張り巡らされており、ほの暗い中で淡く青い光を放っている。

 村外れは木々が生い茂る森のようになっており、小道を進んでいくと、木々の間からカーン、カーンと金属を打つ音が確かに聞こえる。


「工房があるみたいだ」

「随分と辺鄙な場所に住んでるみたいっすね」

「……お? でもあの家の造りは故郷を思い出して懐かしい感じなんだぜ」


 俺も初めて見るが、森の中の住処はお椀を伏せたような特徴的な形状で、土壁を漆喰のようなもので塗り固めた作りとなっている。

 大きさもラクーンの体に合わせたサイズであり、俺達エアルやコッペリアの身長からすると少々手狭な印象だ。


 エルマーの村だとこういう家が普通なんだろうな。


「入るんだぜー」


 馴染み深さ故か、俺が扉をノックしようとする前にエルマーは、いきなりバンと扉を開き中へと踏み入っていく。


「エ、エルマーくん、そんなずかずかと……」


 扉の向こうは薄暗かった。一拍置いて、金属を打つ音が止んでいることに気づく。


 薄闇の向こうで何かがきらりと光った。そしてひゅん、ドスッという音と共に、開いた扉、エルマーの顔の横に刃物が突き刺さった。


「――うぉっ!!」

「ワシの家に勝手に入るな。殺すぞ」


 家の中からくぐもった声が響く。


「ごめんなさい! 強盗とかではありませんから……!」

「おいエルマー、いきなり誤解されたじゃないか! 謝ってくれよ!」

「あ――、悪かったんだぜ……」

「だれじゃい貴様らは」


 のっそりと薄闇の向こうから姿を現したのは、灰色の毛並みをした年配のラクーンだ。


 もじゃもじゃした顔毛の隙間から覗く、錆びたゴーグル越しに、血走り異様にぎらぎらした目が浮かんでいる。



「いきなりですみません。ユルゲンさんのことを知っていますか?」

「ユルゲンだと? 奴の知り合いか」

「武器を作ってもらってるんです」

「フン。奴から聞いてきたってか。だがワシは忙しいんでな」


 彼はそういうと、俺達を押し出しバタンと家の扉を閉じてしまった。

 すぐに金属を打つ音が再開する。


「取り付く島もないって感じすね」

「なんだかユルゲンさんと雰囲気似てますよね……」

「職人って、ああいう奴ばっかりなんだよな。武具作り以外に興味ないっつう感じの」

「確かにユルゲンさんの師匠っぽいけど、頼むのは無理かもな」

「諦めた方がいいみたいなんだぜ、リッカ」

「残念です……、折角この星骸素材を加工できる人が見つかったと思ったんですけど」

「星骸素材だとォ?」


 突然の声に驚くと、扉が半分開いて髭もじゃラクーンが顔を出していた。

 音はいつのまにか止んでいる。いつのまに。というか地獄耳だな。


「おい、今星骸素材といったか」

「は、はい」

「そいつを加工できる人間を探してるんだよな?」

「そうです」

「ワシに任せてみろ」

「…………」


 俺達は呆気に取られて男を見た。


「態度、豹変しすぎだろこのオヤジ……」

「星骸素材って言葉に反応したように見えたっすけどね」


 エルマーとアルベールがひそひそと何か話している。


「作っていただけるんでしょうか?!」


 二人と対照的に、リッカはぱあっと顔を綻ばせて男に問いかける。


「ヘヘッ、武具作成の道を究めてウン十年。このジモン様にすっかり任しときな。エアルの姉ちゃんもめんこいしなァ! デヘヘヘヘッ」


 特殊武具職人、名匠ジモンは、若干頬を染めてだらしなく笑いながらそう宣った。


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