第346話 蒐集家
多数のラクーン達に包囲されながら戦闘を行っていた、金髪ドリルヘア女の姿が掻き消える。
その直後、女の立っていた地点にクレイルの放った熾焔が突き刺さり、周囲に蒼炎が撒き散らされた。
「全くもー、アンタらは別にお呼びじゃないんですケドぉ~?」
「そうか、なら死ね。『鬼断』」
ジョーイの転移先に斬りかかったクレイルの炎刀を、細身の剣で受け止めたのは、以前も彼女に付き従っていたユリクセスの白髪剣士だ。
剣の摩擦によって散る火花の代わりに、鬼断から漏れ出す蒼炎が女剣士の剣へ燃え移る。
「…………」
『黒門』
今度は剣士ごと転移したジョーイは、後を追うように絶え間無く突撃していくラクーン達を蹴散らしながら戦場を駆ける。
「また会うたなァ。今度は逃がさんぜ」
「ちょっとぉ、こんなトコで愛の告白ゥ? 鳥はシュミじゃないって。キャハハハッ!」
ニムエにアルベールとリィロの護衛を任せて、俺たちもクレイルに追いついた。
「おい、おめぇらは何者だ」
ドスの効いた声に振り返ると、鋭い威圧感を放つ巨漢が、両手にラウンドシールドを構えて仁王立ちしていた。
よくみるとラクーンだ。黒い毛並みの上に、分厚い装甲の全身鎧を纏った眼帯の男。
鋭い眼差し、放たれる強烈な殺気に思わず息を飲む。
ラクーンなんて小さくてまるっこいのが特徴だというのに、その男はエアルを超えるほどの異様な巨体だった。
頭の片隅で、以前ウォルトから聞いた話を思い出す。
————センチュリオンのリーダーを見たら驚くぜ。
確かに彼の言う通りだ。ということは、この人が赤龍の尾の頭”爆砕のヴィルヘルム”か。
「俺たちは”ジェネシス”だ。通りすがりだけど加勢させてもらう」
「――加勢などいらん!」
「?!」
周囲には、既に相当な数のラクーンが傷を負って倒れ伏している。もしかしたら死人もでているかもしれない。
それでも自分達だけで戦うというのか。エンゲルスと。
「ぐぅおおあああっ!!」
視界の端で、ラクーンの戦士が気炎を上げながら激しい剣撃を防いでいた。
ユリクセスの女剣士は、相変わらず露出度高めの水用装備に身を包み、何人もの男達を同時に相手取りながら、しかも剣技と波導で圧倒し全く引けをとっていない。
「安易に間合いに入んな! 一対一でやるのは避けろッ!!」
ジョーイを守るようにクレイルの前に出た女が、クレイルから繰り出される連撃を水を纏った刀身で捌く。
舞いのように柔軟な体捌きによって繰り出される剣技は、クレイルの力押しの斬撃を技量によっていなしているようだ。
『水弾』
「ぶっ?!!」
斧を振り上げ剣士に肉薄したラクーンの顔面に、強烈な水塊が叩き込まれる。
一瞬気を失った男の首元を狙って、剣士の刃が閃く。
『爆砕』
まるで女剣士を押しつぶすかのように振り下ろされたヴィルヘルムのラウンドシールドが、盛大に爆炎と衝撃波を上げた。
女剣士はヴィルヘルムの爆風を直に浴び、地面に跡を残しながら数メイルも押しやられた。
受け流すこともできない強烈な攻撃によって、晒された柔肌にできた傷跡と火傷が痛々しい。
「ッ……不覚。すんませんおやっさん!」
「気にすんな」
ドシンと地面を踏みしめ、倒れた仲間を庇うように仁王立ちしたヴィルヘルムが、両手のラウンドシールドを相打ち鳴らして吠える。
「俺たちゃ火龍山脈最強、”赤竜の尾”だッ!! 助勢など要らん! 戦こそが漢の花道! 立ちふさがる障害はァ、悉く己の拳で粉砕して見せろッ! だよなァ、てめェら!!」
「「「「「おおおおッッ!!!」」」」」
倒れていたラクーン達がヴィルヘルムの言葉に奮起し、再び立ち上がる。
そうだった。ここにいる奴ら、全員戦闘狂なんだっけ……。
「つーわけだ部外者。おめぇらの出番はねえ!」
「取り込み中悪ィがな、コイツは俺らにとっても仇なんや。それはできん!」
「なんだとォ? 早く言え! だったら別に構わねぇ!」
「?!」
事情を打ち明けたら、妙にあっさりと参戦が認められた。納得できる理由さえあれば別に構わんってこと……?
「同情は願い下げだが、戦りてぇ奴は戦ればいい」
センチュリオン独自の信念があるらしい。
いつの間にか、ヴィルヘルムの爆風を浴びた女剣士の元にジョーイが移動していた。
少女は、一貫して無表情な女の柔肌を無遠慮にさわさわと撫でまわす。その手つきは妙にやらしい。
「ちょっとぉ〜。アタシのメルちゃんに何してくれてんの? あーあ、キレイなお肌がこんなにコゲちゃってさ。直すの大変なんだからさぁ……」
姿を晦ましていたのであろうクレイルが、突如ジョーイの背後に現れる。物音一つなく、蒼炎を纏う鬼断が振り下ろされた。
ジョーイはクレイルの奇襲に対し、黒門で自らの上半身を消す事で回避する。
空振ったクレイルの急所を狙って剣士の鋭い突きが放たれる。
「『障壁』!」
咄嗟に反応したフウカのお陰で剣の軌道が逸れる。
『黒燭網』
再び姿を現したジョーイが掲げた右手、人差し指の先から漆黒の光線が放たれる。
同時に何本もの黒い波導のうねりが地面を薙ぎ、彼女らに対する包囲を食い荒らす。
「う……ぎゃあああ!」
「ごぼぉっ?!」
飛び退き回避、黒色の光線の軌跡から逃れようと人々が動くが、波導の餌食となった者の絶叫が上がる。
「はー、とっと殺そうと思ってたのにぃ。余計な邪魔が入っちゃった。……ま、楽しいならなんでもいいケド。もう一体呼んじゃおっか」
ポンッと小気味のいい音が響いたかと思うと、ジョーイの目の前に古びた装丁の本が現れた。
彼女が右手を振って合図すると、宙に浮かぶ本がひとりでに開き、パラパラとページがめくられていく。
「あたしの可愛い『ジェニー』ちゃん。出ておいで〜」
ジョーイが詠唱すると、ある個所でページが止まる。本が怪しく光り、次の瞬間にはジョーイの前に一人の人間が立っていた。
ネコ種、赤の混じるピンク色の髪をした、20代くらいの胸の大きな女だった。
やはりそのネコも水用装備を身に着け、惜しげもなく衆目に蠱惑的な肢体を晒している。
「人が……、本から?」
「奴のアイン・ソピアルか」
現れた女は、ジョーイに従う女剣士と纏う雰囲気が似ていた。二人とも露出度が高いというだけでなく、どうにも人間味が感じられない点も同じ。
「ぬふふぅ、ジェニーちゃんはいつ見てもかっわいーなぁ~」
そういいながら、ジョーイは女性のネコミミをサワサワとつまみ、ついでに後ろから手をまわして大きな胸を大胆に揉みしだく。
ジェニーと呼ばれたネコは、そんなジョーイの行為にも眉一つ動かさず、視線を前方に向けたまま反応もしない。
「イカれてやがるな」
「みんな気を付けて。何をしてくるかわからないよ!」
「……あぁ、そういえばアンタもいたんだっけ~」
ジョーイが、注意を促したフウカに視線を向ける。
「ほーんとムカつく。下っ端のくせにさ」
ジョーイは薄ら笑いを貼り付けた表情に、僅かに苛立ちを滲ませてフウカを睨んだ。
「私は自分があなたたちとどういう関係だったのか思い出せない。ごめんね、私はクレイルに味方する」
「ハァ〜? 偉そーに言うじゃないの。アンタたたちについては色々言われた気がするけど、ムカつくしもうぶっ殺しちゃっていいよね?」
『嵐刃風楼閣』
今しがた現れたジェニーと呼ばれる女が詠唱し、ジョーイ達の周囲に風が巻き起こる。三つの巨大な竜巻が発生、センチュリオンに襲いかかった。
「『嵐刃風楼閣』!」
フウカも同じ術を行使し、竜巻に竜巻をけしかける。逆向きの風で相殺するつもりだ。
「キャハハッ! まだまだいっちゃうよ〜?」
ジョーイの笑い声と同時に二人の女が更に詠唱する。
『霧雨閃乱刃』
『崩槌穿突牙』
女剣士メルと、波導術士ジェニーが動き出し、広範囲に作用する術を発動させる。
「どいつもこいつも短縮詠唱でこの威力かっ!」
「――慈愛の眼差しを以って旅人の足を休めよ。『豊穣の乙女』!」
俺とエルマーは咄嗟にリッカの側に走り寄り、彼女が作り出す結界の内に走り込む。
結界の周囲は地獄のような様相を呈していた。
地面からは、辺りの地形を変える程の広範囲に渡り、鋭い突起が隆起し地上にいた者を串刺しに。
空は水の刃が乱れ飛び、空中に逃れた者を切り刻んだ。
フウカ、クレイル、マリアンヌらは何とか自らを含めた周囲の人間をまとめて守っているようだ。
だが、攻撃を避けきれなかったセンチュリオンのメンバー達の悲鳴が響く。
攻撃が収まった時、視界内には無数のラクーンが地面に倒れ伏す光景が広がっていた。
「貴様らァ!!」
まるで剣山のように地から突き出し、視界を遮っていた崩槌穿突牙を叩き折りながら、敵の術士の側にヴィルヘルムが姿を現す。
即座に反応したジェニーが鉄の防壁を生み出し、ヴィルヘルムが振り下ろした盾を受け止めるが、彼の勢いはそんなものでは止まらない。
「灰燼に帰せ。『火之迦具土』」
隆起した地面の向こうで蒼炎が上がり、遮蔽物を溶解して炎の熱線がジョーイに迫る。
「『爆砕』ォ!」
ヴィルヘルムの盾と防壁の接した部分が盛大に爆裂、その勢いで術士ジェニーは派手に吹き飛ぶ。地面をバウンドし、自身の生み出した突起物に背中を打ち付けてその勢いは止まった。
方やクレイルの蒼炎は剣士メルが波導で水の盾を作り出し受け止める。しかし水は一瞬で蒸発し、炎が直に女を襲った。
『黒蝕波』
術士を弾き飛ばしてなお勢いの止まらぬヴィルヘルムに対し、ジョーイは波導で応じるが、彼は意外にも素早い身のこなしで攻撃を回避しながら接近する。
「当たるかよォ!」
挟撃のように迫るクレイルとヴィルヘルムに対し、耳障りな嬌声を挙げながらジョーイは目を輝かせている。
「殺し合い、たっのし〜! キャハッ! キャハハハハハハハハハッ!!」
ヴィルヘルムの重攻撃で火傷と、かなりの傷を負ったにも関わらず、術士ジェニーは無表情のまま立ち上がった。左手は力なくぶら下がり、片方の膝から下はあらぬ方向を向いているにもかかわらず。
ジェネシスの皆は無事……、だけどセンチュリオン側の被害者は少なくないぞ。
ひらりひらりと逃げながら応戦するジョーイをクレイルとヴィルヘルムが猛追している。
俺たちも二人に加わるべくクレイル達を追いかけた。
『烈風波』
ほとんど重症のように見えるジェニーが杖をこちらに向け、不可視の刃を連射する。
後方に続くエルマーとリッカを庇い、アブソリュート・イージスを構えて術を無効化しながら走る。
「射抜け、『泡石ノ剣』」
『石杭』
マリアンヌが泡石ノ剣を操り斬りかかるが、ジェニーは地面から石槍を精製して器用にそれを迎撃する。
「これならどうです。『超硬化』」
「――『アンチレイ』」
合流の邪魔をするジェニーの動きを止めようと、リベリオンを構えアンチレイを連射する。しかし女は器用に波導で地形を操作して、機動力の削がれた身体を強引に動かし銃撃を回避する。
自身の肉体を術で突き飛ばすようなやり方、ダメージが入るのはむしろ自分の方だろう。
「なんつーやり方だ……。痛みとか感じないのか」
吹き飛ぶジェニーを追いかける泡石の剣が、不規則な軌道を描いて女を追尾し、追い詰める。だが命中する前にその動きは停止した。
小柄なラクーンがジェニーを庇うように立ち塞がったのだ。
「どいてください!」
「……守るんだぁ」
敵を守るように立ったセンチュリオンの男は、腹部の傷から血を流し、半ば白目を剥いて泡を吹いている。
さらに別の男が俺に斬りかかってきたのを、エルマーが腕をクロスさせて受け止めた。
「何やってんだぜ?! 俺らは敵じゃねえ!」
オーバー・リミットに切り替えて、俺も襲いかかってきたラクーンの体を払い除けるように吹き飛ばす。
「様子がおかしいな。気を付けろよリッカ、マリア」
「ですね……」
「これは、一体……」
泡石の剣がひゅんと空を切って俺とエルマーを襲った男達に突き刺さる。
剣は命中した瞬間に溶解し、解けるように泡となって対象に纏わりつく。
「申し訳ありませんが、じっとしていてください。形質変化『固』」
泡が凝固し、ラクーン達がゴロンゴロンと地面に転がった。
ジョーイの方を窺うと、黒門によってランダムに高速移動する奴らを、フウカがスカーレットウィングを展開して追いかけていた。
飛翔しながら、クレイルとヴィルヘルムの合間を縫って的確に術を放つ。
『黒蝕闇球群』
ジョーイが周囲に、膨大な数の漆黒の球体をばら撒いた。
クレイル達三人は回避を余儀なくされるが、その状況の中でジョーイと剣士メルは更に追い討ちをかけようと動き出す。
メルの剣撃を受け止めたクレイルだが、それこそがジョーイの狙いでもあった。
「この術はぁ、自由自在なんだよねぇ〜」
「ご……がァッ?!」
背後から突如出現した黒球がクレイルの背を削いだ。
「アハッ、キャハハハハッ! 『黒蝕波』〜」
ジョーイの両手から発される波導が、フウカとヴィルヘルムを追尾する。
「俺様を……舐めんなよ小娘! 「爆砕ォ!」」
「?!」
驚くべきことに、ヴィルヘルムはジョーイの波導攻撃に対して正面突撃を敢行した。
構えた盾に当たった波導は、そのまま金属を削り取るかと思いきや、連続的に起きる爆発に阻まれていた。
「威力はコッチのが上のようだなァ、おぉ?」
そのままヴィルヘルムがジョーイを押し切ろうと踏み出した時、彼の前にもラクーンが飛び込んできた。
「何してるアントン!! どけ!」
「わ、悪ぃ親方……、ジェニーちゃんの頼み、だから……」
ジョーイを叩き潰そうと振られたラウンドシールドが、ラクーンの前で止まる。
その隙を逃さず、背後からヴィルヘルムの首を狙った、センチュリオン戦士の一閃が放たれる。
「ちっ!!」
ヴィルヘルムは後ろからの槍撃を見ることなく盾で跳ね除けるが、周囲の物陰から更にラクーン達が彼に向かって突撃を始めた。
「おめぇら! 正気に戻れや!!」
「どうなっとんねん、こいつらは……」
「キャハハハッ! ゴッメンねぇ〜。ウチのジェニーちゃんてばモテモテだからさぁ。裏切られても仕方ないってゆーか?」
薄ら笑いを貼り付けたジョーイの顔を見ても、十中八九ヤツらがセンチュリオンに何かしているのだろう。
寝返ったセンチュリオンの連中によって同仕打ちが相次ぎ、形勢は徐々に向こうに傾いてゆくように思われた。
「クレイル、怪我してるでしょ! 治させて!」
「このくらい何でもあらへん! それよりも今はアイツを……!」
ラクーンの投擲してきた鉄球をアブソリュート・イージスで受け止め、駆け寄りながら振り下ろされた大剣をソード・オブ・リベリオンで叩き折る。
「俺の雄姿、見ててくれよなぁ、ジェニーちゃんっ……!」
瞳に危険な光を宿したラクーンの突進を弾き飛ばしたエルマーが叫ぶ。
「ナトリ! こいつらどうすんだ! やっちまってもいいのかよ?!」
「……マリア、センチュリオンの奴らをできるだけ無力化できるか?」
「任せてください!」
安全に無力化するなら、今はマリアンヌに頼る他ない。
「ジェネシスの! こっちの奴らに構うな! 戦いで死んだとてそれが天命。遠慮せずやれぇ!!」
両手のシールドで左右から挟撃を仕掛けたラクーン達を弾き飛ばし、ヴィルヘルムが吠える。
そうはいってもな……。
「やい卑怯者! 思い出したぜ。……てめぇ『魅惑のジェニス』だな? "アララウナ王国十傑"のよ」
「へぇ~、ジェニーちゃんのこと知ってるとはねぇ」
「有名人だからな。ジェニスは確か消息不明だったはずだ」
「そりゃそうでしょぉ? ジェニーちゃんは私のお人形になったんだから」
あのジェニーとかいうネコの術士、ジョーイに洗脳されて操られているってことなのか。
「『魅惑のジェニス』は南部でも五指に入るほどの波導の使い手。おまけに男を魅了するアイン・ソピアルを使うって噂だったな」
「おっさんの仲間の異常な行動も、その能力のせいってわけかよ……!」
「みてぇだな」
ジェニーと異常行動を取るラクーン達に対峙しながら、リッカが呟く。
「状況的に、彼女の攻撃を受けた人達が魅了されてしまってるんでしょうか……」
「キャハハハハ、物知り〜! アイン・ソピアル、『夏の夜の夢』にかかっちゃったら最期、ジェニーちゃんのことが好きで好きでたまらなくなっちゃうんだよね~」
「みなさん、あの女の攻撃には絶対に当たらないように! アイン・ソピアルによる不調は普通の方法では治せません……!」
マリアンヌの警告にニヤつきながら、ジョーイはジェニーに指示を出す。
「さっ、ジェニーちゃん。捨て駒使ってそろそろ決着付けちゃうよ♪」
「外道が……ッ!!」
一発でも掠ったら敵の意のままに操られる? いくらなんでもヤバすぎるだろう。これだからアイン・ソピアルってやつは……。
体の脇を、ゴオッと風を切りながら鉄塊が通り過ぎていく。投擲された塊は、ジョーイに向かうもジェニーの生成した石杭により弾かれた。
振り返ると、転がっていた突起物をぶん投げたエルマーが怒り露わにジョーイを睨みつけていた。
「キャハハハッ、な~に怒っちゃってるのカナ? タヌキちゃん」
「ナトリ。このイカレ女はこのままにしちゃいけねぇんだぜ。アレ、やってくれよ」
同族が弄ばれているのにキレたみたいだな。ムカつく能力なのは確かだ。
エルマーに頷き返し、ジョーイに向き直ると詠唱を刻んだ。
「みんな、悪いけどちょっと耐えてくれよ。――ソード・オブ・リベリオン、『アトラクタブレード』」
『アトラクタフィールド展開』
リベルの合図で緑光を放つ薄い膜が周囲へと広がっていく。
エルマーが提案したのは、ジョーイの黒波導を封じる策だ。
アトラクタブレードの効果により、周囲の波導を阻害し弱めることができる。精密な波導構築を必要とする転移の術だったら、きっと影響があるだろう。
これは対波導術士戦を想定した奥の手でもある。
「なにコレぇ?」
「いくんだぜナトリ」
「ああ、エルマー」
そして波導の影響が弱まった環境で戦いやすいのは、ジェネシスで最もフィジカルに自信のある俺とエルマー。俺達はジョーイに向かって駆け出す。
「捨て駒さんたち~。頑張ってね☆」
夏の夜の夢によって魅了されたラクーン達が一斉に動き出し、ジェニーを守るため俺たちの突撃を阻止しようと立ちはだかる。
アトラクタブレードでも、魅了効果は斬れない。アイン・ソピアルや、本人の思考そのものを変性させるものに効果が薄そうなのは想定通り。
加えて地力勝負を挑んだはいいが、ラクーンだって力自慢の種族。油断はしない。
「形質変化『固』」
「?!」
だが、動き出したラクーン達の動きはビシリと固まる。彼らはそのまま勢い余って転倒していった。
「さらに『超硬化』。ナトリさん、エルマーさん、そのまま行ってください!」
マリアンヌはこの機を見越してラクーン達に泡を仕込んでくれていたようだ。
さすがだな。いつも彼女は言葉にしなくても合わせてくれる。
主を守るべく、素早く反応して斬り込んできたメルには俺が対処する。
リベリオンを直に受け止められないのが直感でわかるのだろう。彼女は身のこなしで回避し、さらなる斬撃を放とうと構えを見せる。
それでいい。俺の役目はジョーイから剣士メルを引き離すこと。
「えっ!? 『黒門』――――、っ?!」
壁に用意したラクーン達が一気に無力化されたことに、一瞬だけ驚いたジョーイが転移の術を発動させようと試みる。
しかし、リベリオンの阻害効果により波導の構築が上手くいかないのだろう。術が発動しないことに驚愕の表情を見せた。
ジェニーもジョーイの元へ駆けつけようとしているのが見えたが、波導阻害で移動に術は使えない。
身体はボロボロだから急いで駆けつけても間に合わないぞ。
後は頼んだぜ。エルマー。
「いけ!」
「オウッ!」
気功と波導の違いは、大まかな部分で言えば体内に巡らせるか、それとも外界に影響を及ぼすかという点だ。
周囲のフィルに干渉する波導術は、アトラクタブレードによってその力を著しく減衰させられる。
でも気功はあくまで使用者の体内を巡るものなので、そこまで強く影響を受けない。これこそが俺とエルマーのコンビネーション、"波導封じ"。
「ちょっ、待……」
モタつくジョーイの目前まで肉薄したエルマーが、ズンと重たい一歩を踏み締める。
足から吸い上げた地の属性が、エルマーの体内を迸る気功力となって駆け巡る。
「ぶっ飛べオラァ! ――『破岩甲』!!」
ジョーイの横っ面に、一切の情け容赦なく鋼鉄のガントレットが叩き込まれる。
「ん、ぎっ――――ゃああああああああああぁぁぁっ?!?!!」
鋼鉄の拳が振り抜かれた。エルマー渾身のフルスイングは、浮遊船が衝突したかと錯覚するような轟音と破裂音のようなものを発してジョーイの頬に決まり、ゴキゴキッと首を捻る。
女の小さな体はスピンしながらぶっ飛んでいき、数度地面をバウンドしながら激しく転がり、やがてピクリとも動かなくなった。




