第50話:信康、成長を踊る――そして二階層へ
ダンスだと?何故、今踊るのだ?
決まってるでしょ!お祝いよ!!
ルナ達3姉妹は嬉しいことがあると、皆で祝福し合うの!
セレナ姉は歌で、ノワール姉はハープで、ルナはダンスで!
信康は嬉しいことがあったんでしょ?だったら、ルナがお祝いしなくちゃ!
そういうと、周囲にばら撒かれた泡のいくつかが弾けた!
どういう仕組みなのか、割れた泡から空気を伝って音楽が聞こえ始める。
その音に合わせて、ルナ殿が激しく踊り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇
音楽は清廉、王道のクラシック
誰が聞いても整っていて、清らかで美しいと感じる曲調だ。
流れるように身体を動かし、音楽に一分の乱れもなく合わせている。
受ける印象は『真面目』『信頼』『正直者』……。
だとすると、これはここに来た時の私を表しているのか。
母上の言葉を一切疑わず、信じ切った、純粋な私を。
そう思っていると、再び杖から泡が吹き出して周囲に浮かんだ。
そして泡が割れると、それまでと違う音楽が流れ始めた。
◇◇◇◇◇
音楽はマイナー調 不安を煽る、低く重い曲調
低く重い音が腹の底に響く、心を抉られるような不安を感じる曲調だ。
その曲に合わせて踊るダンスも、ゆっくりと奇妙で怪しい動きの中に時に激しい動きを混ぜて、理解不能な不安感が溢れてきた。
恐らく、このダンスはルナ殿の「信康だけが働けば病気になる」という言葉を聞いて、母上の言葉だけでは何かがおかしいのではないかと感じたときの、困惑と葛藤を表しているのだろう。
また、杖から泡が吹き出して周囲に浮かぶ。
泡が割れると流れる曲調が変わった。
◇◇◇◇◇
ロック調 大きな音と力強く勢いのある曲調
巨大な音が全身に響く!心が奮い立ち、吊られて元気になる曲調だ。
その曲に合わせて踊るダンスも、元気にぴょんぴょんと跳ね回り、見ているものを引き込む激しいダンスだ。見ているだけで力が湧いてくるようだ。
恐らくこのダンスは、徳姫のいう「関係性」を仕事に活かすことを思いつき、信頼していない徳姫の言葉にも理があったことに気づいた時の、驚きと喜びを表しているのだろう。
杖からさらに多くの泡が出て周囲に広がっていく。
泡が割れることで、また曲調が変わった。
◇◇◇◇◇
アニメソング調 気持ちを昂らせる 楽しい曲調
軽快でポップな曲調で楽しくなり、激しくカッコいい強調でワクワクしてくる。二つの音が入り混じり、聞けば聞くほど楽しくなってくる。
その曲に合わせて踊るダンスも、時に可愛らしく、時にカッコいい踊るものの魅力を振りまき、見る人を楽しませ、励ますダンスだ。
このダンスは今回の体験から、「信頼している人の言葉でも疑う」「信頼していない人の言葉でも信じる」という新しい理に辿り着いたときの、高揚感と希望を表しているのだろう。
ダンスが終わると、ルナ殿がまた杖を振るった。
泡があふれ出し、割れると再び曲調が変わる。
◇◇◇◇◇
アイドル調 楽しくノリの良い軽快な曲調
聞いているだけで、気分がワクワクしてきて、今にも体が動き出しそうだ。
その軽快な音に合わせて、ルナ殿がダンスを始めると、何故か私の体もルナ殿に釣られるように動き出した。
ルナ殿と対になるように、私は男性的なカッコよく荒々しいダンス、ルナ殿は女性的な可愛い、優雅なダンスだ。
このダンスは、『完全業務報告書』と『愛と友情の関連性百科』という二つの情報を組み合わせ、それまで考えられなかった案が生まれたときの、感動と高揚を表しているのであろう。
◇◇◇◇◇
「さあ、次は信康が一人で踊る番だよ!」
「わ、私が一人で? し、しかし私はダンスなどしたことがないのだぞ?」
「だいじょーぶだよ。このステッキの力があれば、信康の想いを込めるだけで、勝手に踊れるんだよ!」
「お、想いか……」
このダンジョンに入ってからの出来事を思い返す。
母上の言葉を信じていたこと。
そこに疑問を抱いたこと。
徳姫の言葉にも理があると気づいたこと。
そして二人の言葉を比べ、自分自身の頭で考えたこと。
「……そうか」
私は、誰が言ったかだけで決めるのではなく、自分自身で考えなければならないのだ。
そして、そうして考えたものこそが、私自身の答えになる。
「よし、行けそうだ!」
「ルナ殿よ、音楽をかけてくれ!」
◇◇◇◇◇
ボカロ曲。システィマティックに計算された電子的な曲調。
その正確なリズム、電子的な音声を聞いていると、頭がハッキリしてきて考えがまとまる。
この曲調に合わせた私のダンスもまた、計算された緻密な動きを繰り返す。
何度も何度も細かく、美しい動作を繰り返す。
他人の意見、それには理に適うものも、適わぬものもあるだろう。
だから私は、三河の領主である私はそれらに耳を傾け、意見を比べ、私の頭で考え、私自身の答えを出すのだ。
それこそが、このダンスに込めた私の想いだ!!
そうか、このダンスはまさに『自分で考える』という、ここに来てからの私の『成長』を踊っているのだ。
私がダンスを止め、自分の成長を噛みしめていると、それまで岡崎城だった周囲の景色がまた歪み始めた。
ぐにゃりと、また世界が回るような感覚を受けると、元の真っ白い空間にいた。
「見て見て、あれ魔法陣っていうんだよね?」
白い空間の中央に魔法陣があった。オレンジの光を放っている。
あれが八尺瓊勾玉が発する超次元の光なのだろう。
「この魔法陣で、さらにダンジョンの奥へ行けということだろうか?」
「きっと、そうだよ! さあ行こう!!」
ルナ殿の言葉に従って、私達は魔法陣の上に立った。
するとより光が強くなり、一瞬暗転したかと思うと、全く異なる景色がそこにあった。
そして私たちの目の前に現れたのは……。
店だ。寂れているけど、掃除や装飾はきちんとしている。
今度は何故、こんなところに飛ばされたのだ?
「お客さんや、100年ぶりのお客さんやで!」
「違うよ、10日ぶりくらいだよ」
悪魔のような身なりの快活な少女と、天使のような身なりの大人しい少女が現れた。
客というからには、この店の者なのだろう。
「ここは何の店だ?」
「うちは知らんで、店とは何も関係ないからな」
「もう、ここは私たち二人のお店でしょ」
「ここは、難しいお仕事から簡単なお仕事まで何でも引き受ける、何でも屋『ヘルズヘブン』です」
何でも屋か。岡崎にはない店の形態のようだが、何をする店かおおよそ予想はつくな。
「ねえねえ、お店の中すごく可愛いよ!」
いつのまにか店内に入っていたルナ殿がそう叫んだ。
二人の許可もなく入って良かったのだろうか?
「ねえねえ、お姉さん達、これは何?」
ルナ殿が指さしているのは、デフォルメされた二等身の丸っこい体系のドラゴンのぬいぐるみだ。
もっとも、ドラゴンにしては随分間抜けな顔つきだが……。
「それは、あたし達が討伐したドラゴンや!」
「違うよ、二人で縫ったぬいぐるみでしょ」
「2人で縫ったの!?すごーい!」
「じゃあね、じゃあね、これは?」
ルナ殿が指差したのは受付カウンターの奥に飾られた巨大な旗だ。
旗には絵本のように可愛くデフォルメされた、二頭身の天使と悪魔が見つめあう絵が描かれている。
「それはリバーシの創始者が描いた、黒白の紋章や」
「違うよ、私達が二人で描いた、お店の旗だよ」
「2人で描いたんだ!すごーい!」
そう言われて2人は何だか得意そうだ。
それにしても、悪魔の方の子はさっきから、分かりやすい嘘ばかり言っているな。
何か意味があるのだろうか?
「ねえねえ、信康!お姉さん達、面白いよ!可愛いよ!!」
そう言ってルナは、悪魔の子に抱きついている。
確かに2人は容姿はもちろん言動も予想がつかず、嘘と本当のやり取りが絶妙なセンスで面白いが……。
しかし、今会ったばかりのものにこれほど心を許すのは問題ではないか?
「なあ、ここが何処か、その者達が何者かも分からぬのだぞ、少し慎重に」
「そうやで、ウチ達は嬢ちゃんを料理して食べるためにやっとるんやからな」
「嘘だよ。そんなことしないよ」
「いやいや、ウチは嘘なんかつかへんて」
「それが嘘だよ」
ルナ殿はケタケタと笑っている。
「ねえ、ルナもお姉さん達と一緒にお仕事しちゃ、ダメかな?」
ルナ殿がとんでもないことを言い出した。
ここで働く?私達には、ダンジョンを突破し、八尺瓊勾玉の暴走を止める使命があるのだ。
ここで働いている場合ではないだろう。
いや、しかしこの二階層について良く知るためにはこの二人に深く関わった方が良いのかも知れぬ。
信頼できぬ者だが、理で考えればその方が得なのか?
「あかんあかん、ウチはあんたみたいなベタベタしてくるガキは嫌いやねん」
そう言った悪魔娘はルナ殿を抱き返して、頭を撫でまくっている。
一方、天使娘はそれを優しい目で見つめながら言った。
「嘘だよ。私達も、ルナちゃんのこと大好きだよ」
「じゃあ、名前!お姉さん達の名前を教えて!これから一緒の仲間になるんだから!」
「おう! ウチは曲がったことが大嫌いな、真面目の『マジコ』や!」
どう考えても、また嘘だ。これだけ嘘をついて真面目のマジコもないだろう。
「ねえ、お姉さん。名前は大事だよ!今だけ、名前だけでも本当のことを言ってくれないかな?」
「しょうがあらへんなあ。今回は特別やで。ウチは『嘘つきちゃん』って呼ばれてるな」
「これはホント、あたしは『ホントちゃん』って呼ばれてるわ」
「嘘つきちゃんと」「ホントちゃんだと?」
あまりにもあからさまな名前に私は呆気に取られていた。
ホントちゃんが言うからホントだと信じるべきかどうか、これは理では分かるまい。
だが本人達が名乗っている以上、そう呼ぶしかないわけだが……。
「分かった!嘘つきちゃんと、ホントちゃんね!これからよろしく!!」
「それで、お兄さんは何ていうのかしら」
天使娘……ホントちゃんがそう聞いてきた。
そうか私もルナ殿の言う『一緒の仲間』に含まれているのだ。
つまり私もここで3人と一緒に働くと言うことか。
この二人が二階層の謎と関係あるのかは分からぬが……。
少なくとも二階層で活動するのには拠点が必要だ。水も食料も要る。仕事があるのは有難いだろう。
それに、あの奇妙な二人にも興味がある。
『嘘』と『ホント』。
あの二人は、私がまるで知らぬ考え方によって動いておるようだ。
それが何なのか、少し知ってみたい気もする。
「よし! 私は信康、徳川信康だ!」
「今日から、そなた達の仲間だ!」




