第51話:信康、嘘つきちゃんとホントちゃんを仲間として受け入れる
「任務や、今回の任務はサーベルタイガーの討伐、ここの仕事としては楽な方やな」
「サーベルタイガー!?何だか凄そう!」
喜ぶルナ殿に対して、ホントちゃんが冷静に突っ込む。
「違うよ。今日のお仕事は迷子の猫ちゃん探しだよ」
「それも楽しそう!」
一瞬、サーベルタイガーの討伐という話を信じかけた私は、猫探しと聞いて少しほっとした。
それにしても、嘘つきちゃんの嘘で仕事の内容が分からなくなるようだと、問題だな。
特に今回の任務は私とルナ殿にとって最初の任務だ。ここでしくじる訳にはいかぬ。
「それで、どこの猫が行方知れずだと言うのだ?」
「魔界の魔法猫ケットシーが……ってウチが言うとややこしなるな。ホントちゃん説明して」
「3丁目の、八百屋さんの猫ですね。娘さんがあまりに泣くので、なんとか見つけて欲しいと」
ホントちゃんの話を聞いて、嘘つきちゃんもルナ殿も使命感に燃えた表情になっている。
私も気を引き締める。子供が泣くようなことがあってはならぬからな。
私達は、取り敢えず 町で聞き込みをすることにした。
八百屋の近所で目撃情報を集めるのだ。
まずは肉屋からだな。
私達は八百屋の隣の店、肉屋へと向かった。
「ああ、嬢ちゃん達か。どうかしたのかい?」
「サーベルタイガーの肉を降ろしに来たんや」
「サーベル……?ああ、そうかシゲさんとこの猫だね」
「はい、その子の姿が昨日から見えず、ハナちゃんが大泣きしているそうで、私達に依頼が来たんです」
シゲさんとかハナちゃんというのは、八百屋の親子の名前だろう。
この町に住んでいるだけあって、二人は随分ご近所になじんでいるようだ。
「ミーなら昨日見たぞ。ほら、昨日急な雨で一緒に洗濯物を取り込んでくれただろ」
「あの後、急にミーが現れて洗濯物に潜り込んだんだ。何とか追っ払って……そういや、シゲさんちと反対に逃げたかも知れねえな」
なるほど、肉屋に追っ払っわれた時にびっくりしてあらぬ方向に逃げた可能性はあるな。
「ミーは勇敢で最強やからな、魔王を倒す旅に出たのかも知れへんで」
「確かにあいつは怖がりだったな。ビビってウロウロしているうちに迷子になったのかも知れん」
肉屋の主人はよく嘘つきちゃんの言うことが分かるものだな。
「では、八百屋と反対側の住人に聞き込みをするべきなのか?」
「そうですね。雑貨屋のハルカさんを、尋ねてみましょう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そういう訳で、私達は雑貨屋にやって来た。
雑貨屋のカウンターには中年の女性が座っていた。
この人が雑貨屋のハルカさんなのだろう。
「おや、あんた達かい。いつもの編み糸かい?」
そういえば二人の家には自分達で編んだというドラゴンのぬいぐるみがあったな。
材料はこの店で買っていたのか。
「いや、それがサーベルタイガーが魔王討伐に……いや、ええと」
嘘つきちゃんはじれったそうな顔で唸りだす。
どうも、どうしても嘘しかつけないみたいだ。
そこまでして嘘しかつけないとは、どんな理由があるのだろうか?
「ええと、サーベルタイガーってのは、シゲさんちのミーちゃんだろ?魔王討伐ってのは……」
「お肉屋のタケさんのところで、洗濯物に潜り込んだところを追い出されて、こっちに逃げてきたらしいんですけど」
「迷子って意味なのね。でも、あたしは見てないわねえ」
「おかーさん!わたしミーちゃん見たよ!」
店の奥から子供が出てきてそう言った。恐らく雑貨屋の娘なのだろう。
「夕方にお家に来て、お姉さん達がくれた豚さんの紙風船、咥えてっちゃったの!」
「え、ホント?」
豚さんの紙風船とは何だろうか?
いや紙風船が何かは分かるのだ。恐らく豚の絵が描かれた紙風船なのだろう。
あの店の旗のようにデフォルメされているとすれば、二人の絵は子供向きだ。
二人は子供にも好かれていそうだな。
「ミーちゃんが何処に行ったか分かる?」
「うーんと、公園の近くまでは追いかけたけど……裏路地に入っていっちゃったの」
「裏路地と言えば、食人動物が出るとこやな」
「そうなの!?こわ~い」
「嘘だよ。そんなの出ないよ。美味しい定食屋さんがあるだけだよ」
どうやら二人は裏路地にも知り合いがいるようだ。
ならば、今度はその定食屋とやらで聞き込みをするのが良いだろう。
猫がここに来たのは夕方だという、猫だって夜は寝るだろう。
裏路地での足取りが掴めれば、見つかるかも知れぬ。
「では、その定食屋に行くのだな?」
「そうですね。せっかくだから食事をしていきますか」
◇◇◇◇◇
「いらっしゃ~い!おう、嬢ちゃん達か!」
私達は裏路地を抜け、裏通りの定食屋に辿り着いた。
定食屋ののれんをくぐると、店主らしい男が勢いの良い声で出迎えた。
「おっちゃん、リヴァイアサンの活け造りを頼む!」
「そんなの置いてねえよ!いつもの鮭定食でいいんだな?」
嘘つきちゃんは無言で頷く。
口に出さなければ嘘以外の意思表示もできるということか?
「私はサンドイッチセットでお願いします」
「そっちの兄ちゃんは?」
そう言われて、私はメニューをざっと見た。
常連らしい二人と違って私は食うものが決まっているという訳ではないからな。
「そうだな。私も魚が良い。この、サンマの塩焼き定食にしてくれ」
「あいよっ。サンマの塩焼き定食一丁!」
店主は料理をしながら、私たちに聞いてきた。
「それで?単に飯を食に来ただけじゃなさそうだな?また迷子の面倒でも見てたのか?」
「いえ、今度は人間じゃなくて猫なんですが……」
ホントちゃんのその言葉を聞いた店主は、不可解なほどビックリしたようだ。
ホントちゃんは何か変なことを言っただろうか?
「猫ってのはシゲさんとこのミーかい?」
その言葉に今度はこっちがビックリした。
確かに私達が探しているのは、シゲさんちのミーだ。
だが何故店主はそのことを知っているのだ?
「今朝、うちに転がり込んできたんだ。魚の臭いを嗅ぎつけてきたんだろうがな」
「仕事が終わったら、シゲさんとこに届けようと思ってたんだが、嬢ちゃん達が探しに来たなら話は早え」
なんと、まさか聞き込みに来た店に目的の猫がいるとは思わなかった。
しかし、考えてれば住民は皆ミーちゃんのことを知っているのだ。
どこかで保護されている可能性も考えるべきだったな。
「ほなら、これ食べ終わったら暗黒神の生贄にせんとな!」
嘘つきちゃんの『嘘』に私を含む全員の顔が綻んだ。
「そうね、早く八百屋に連れて帰って、ハナちゃんを喜ばせてあげましょう」
定食屋の店主からミーちゃんを引き取った私達は、すぐさま八百屋へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おっちゃーーーーん!あかん、事件は迷宮入りや!」
そう言った嘘つきちゃんの腕にはミーちゃんが抱っこされている。
それを見た中年男性は顔を綻ばせた。この人がシゲさんらしいな。
「おお!ありがとう!おい、ハナ!ミーが見つかったぞ!!」
シゲさんの声と同時に家の奥から女の子が飛び出してきた。この子がハナちゃんだな。
「み、みいちゃん……ミーーちゃぁぁん!!」
ハナちゃんは嘘つきちゃんに走り寄る。
嘘つきちゃんはしゃがんで、ミーちゃんを地面に降ろした。
ハナちゃんはミーちゃんを抱きしめ、大声で泣き始める。
「ミーちゃん!もう!!どこ行ってたの!心配したんだよお!」
肝心のミーちゃんはハナちゃんの足に顔を擦り付けて甘えている。のん気なものだ。
「良かったねえ」
そう言われて、ハナちゃんはホントちゃんの方に振り替える。
「うん!おねえさん達、ありがとう!」
「まあウチは何もしてへんけどな!」
「ううん、知ってるよ。嘘つきのおねえさんもすごく優しいの!」
そう言われて、嘘つきちゃんは顔を赤くして、そっぽを向いてしまう。
「ねえ、嘘つきちゃんも優しいって!良かったね!」
そう言ってルナ殿が嘘つきちゃんの身体を揺さぶると、嘘つきちゃんは女の子の方を指さして言った。
「へ、へん!アンタが泣きじゃくってるのが面白かったから、ウチが隠してたんや!まんまと騙されたな!」
そんなことがないのは、ここにいる全員が知っている。
嘘つきちゃんの『嘘』を聞いて、私達みんなが彼女を優しい目で見つめている。
私の心にも暖かくいつくしむような気持が溢れてくる。
嘘つきちゃん自身も嬉しさを隠しきれず、顔を隠しながらニコニコしている。
そこでシゲさんが「本当にありがとうございました」と言って、ホントちゃんが「どういたしまして」と返した。
嘘つきちゃんは言葉は発しなかったが、シゲさん親子とミーちゃんを見て嬉しそうに微笑んでいた。
嘘つきちゃんとホントちゃんは、本当にこの町に馴染んでいるのだな。
それだけではない、町の皆に愛されている。猫を探している間にも、洗濯物を取り込むのを手伝ったり、子供に贈り物をしたり、迷子の面倒を見たりと……どこへ行っても二人の『親切』の話題が出てきた。
それぞれは小さな親切かも知れぬ。だが、行く先々であれほど歓迎されるのだから、よほど感謝されているのだろう。
だが、これまで二人を見てきた限り、わざわざ好かれるためにやっているようには見えぬ。
本当に、人が困っていると見逃せない性格なのだろうな。
だからこそ、愛されている……そしてそれは私も同じだ。
二人への愛しさが募るにつれ、この二階層に来てからずっと私の中にくすぶっていた、見知らぬ場所で見知らぬ者とやっていく不安が消えていくのを感じた。
そうだ。嘘つきちゃんとホントちゃんはもう他人ではない。私の大切な仲間だ!
二人とルナ殿と私、この4人ならば、いずれ2階層の秘密を暴きここを離れる日まで、4人で上手くやっていけるだろう。
明日からも楽しみだ!




