第46話:妲己とノワール、『必ず見つける』を紐解き始める
あの黒い泡の先にある未来は『何も分からない』、『完全な未知』……。
でも、分からないんだから――
あたし達が一緒の未来だってあるはずよ。
だったら、その未来を掴むには……?
「離れ離れは……『未知』!」
それは……そうだけど。
……『誰か』がいなきゃ。あたし達は……楽しめないでしょ。
待てよ……『離れ離れ』が未知ってことは……。
「「お互いを見つけるのも『未知』だ!!」」
そうだ!未知は何でもありだ。どんな選択もどんな変化もありなんだ。
だったら――。
「……離れ離れになっても」
「一緒の方が面白いから」
「「必ず――見つける」」
二人でそう言い合ったあたし達は、黒い泡に向かって歩き始めた。
これに触るとどうなるのかは、はっきり言って分からない。
表示されている未来に飛ばされるのか?
未来が変えられないものに固定されてしまうのか?
そうじゃないよね。
これまでのギミックはあたし達に何かを気づかせてきた。
だったら、このギミックもあたし達の未来への想いを自覚させるものかも知れない。
「ま、触ってみれば分かるでしょ」
「……何があっても……」
「そう、離れ離れになったとしても」
「「お互いを見つける!!」」
そう叫びながら、あたし達は黒い泡に触れた。
未来の映像が激しく蠢き――
強い光を放って、ふっと消えた。
「何が起こったの!?」
あたし達がそう叫んだ瞬間、どこかで聞いた声が、あたしたちの疑問に答えた。
「君たち、『可能性マニア』のボクだって分からない面白すぎる選択をしたでしょ?」
「『必ず見つける』が決め手だったのかな。映像が『透明』になるほどの『未知の選択』なんて、想定外過ぎだよ」
「貴方は……?」
「あれ?自分達がここに何しに来たか忘れちゃったの?」
あたし達は虹次元共鳴によって暴走してしまった、原初の超次元である八咫鏡を鎮めに来たんだった。
度重なるギミックに翻弄されて忘れかけていたわね。
じゃあ、この声を発しているのが……?
そう思っていると、大樹の中に描写されていた過去、現在、未来の映像が消えて、それらの光が一点に集まった。
その光は、一枚の鏡に姿を変えた。
「やあ、ボクが八咫鏡だよ。よろしくね」
軽い。
拍子抜けするほど軽い。
本当にこの鏡が、かの三種の神器……原初の超次元である八咫鏡なのだろうか?
ただ、少女のような口調とは異なり、声はまさに女神のように澄んでいる。
「君たち、よく あの『何も分からない未来』を選んだね」
落ち着いた声で、ゆっくりとそう言った。
「完全に想定外だよ。こんな『可能性』は僕だって見たことがないんだ」
いや、落ち着いているようで、声は喜びを隠しきれなてないな。よほどあたし達の選択が嬉しいのか。
あたし達にとって未知は魅力だ。
互いを見つけることすら『未知』として楽しめるなら、一番正体のわからないものを選ぶのは当然だ。
「それが……『私たち』だから……」
ノワールが誇らしげにそう言った。
あたしもにやりと微笑む。
そうだ、それこそあたし達のしたいことだから。
「そうだね。それこそが君達だ。だからこそ——付き合ってほしい」
「……何に?」
「新たな『未知の可能性』に」
「新たな未知の可能性……?」
思わずその言葉を繰り返す。
三階層までのギミックは、確かに全部繋がっていた。
だからこそ、あの選択に辿り着いたはずだ。
でも——
「……それって、どういう意味?」
否定する気にはならない。
けど、その言い方は少し引っかかる。
「もうギミックは終わったんじゃないの?」
確認するように問いかける。
「そうじゃないよ」
八咫鏡はすぐに否定した。
「新しく何かを用意するわけじゃない」
わずかに間を置く。
「——もう、あるんだ」
「……ある?」
「君達の中に」
「……あたし達の?」
思わず聞き返す。
言っていることは分かるようで、分からない。
「それを——もう一度、ちゃんと見たいんだ」
「……見たい?」
思わず、その言葉をなぞる。
理由でもなく、意味でもなく、ただ“見たい”。
その言い方が、少し引っかかる。
「どうしてそれが、『未知』になるのよ」
否定じゃなく、確かめるように問い返す。
過去はもう過ぎたものだ。
そこに“未知”なんて、あるのか?
「そこなんだよ」
八咫鏡は、少しだけ間を置いて言った。
「まだ、君達自身も分かってないはずだから」
「……何が?」
自然と、言葉が出る。
分かっていない“何か”があるという前提で話されている。
「君達が——どうして、あそこに辿り着いたのか」
「……」
「どうして、あの選択になったのか」
胸の奥が、わずかにざわつく。
「――君達は、あの時言ったよね」
「『必ず見つける』って」
「……っ」
「それが、どこから来たのか」
「何が繋がって、ああなったのか」
……少し、間が空く。
「君達はさ」
八咫鏡は、どこか確かめるように言った。
「“あそこ”に辿り着いたでしょ」
「……」
「ボクの想定より、ずっと先に」
わずかに視線を落とす。
「正直に言うとね」
「そこまで行くとは、思ってなかった」
「……え?」
「だから——ちゃんと見れてなかったんだ」
ぽつり、とこぼれる。
「最初から分かってたら」
「絶対、違う見方をしてたのにって」
少しずつ、言葉が早くなる。
「もっと、ちゃんと繋げて見てたのにって」
「……繋げて?」
「そう」
顔を上げる。
「その時、その時の“気持ち”はあるでしょ」
「でもさ、それってバラバラなんだよ」
「……」
「そのままだと、ただの“過去”で終わる」
でも、と続ける。
「今の君達で見直したら——」
「絶対、違う形になる」
「違う……形?」
「繋がるんだよ」
今度は、はっきりと言う。
「あの時の気持ちと、あの選択が」
「……っ」
「何がどう繋がって、“必ず見つける”になったのか」
少し、息が混じる。
「それが見えた時——」
一瞬、言葉を切る。
「そこに、まだ“なかったはずのもの”が生まれる」
「……それが、“未知”?」
「そう」
即答だった。
「同じ出来事でも、見方が変われば別の意味になる」
「意味が変われば——可能性も変わる」
そして、少しだけ笑う。
「……それ、めちゃくちゃ面白いでしょ?」
少しだけ沈黙が落ちる。
「……あんたが面白いのは分かったわよ」
呆れ半分に返す。
「でも、それであたし達に何があるの?」
確認するように言う。
ただ付き合わされるだけなら、納得はできない。
「あるよ」
即答だった。
「むしろ——君達の方が大きいかもしれない」
「……は?」
「君達、自分で分かってる?」
少しだけ、真っ直ぐに見られる。
「どうして、あそこに辿り着いたのか」
「……」
「どうして、“必ず見つける”なんて言えたのか」
言葉に詰まる。
「……それは」
答えようとして、止まる。
理由を、ちゃんと説明できない。
「ほらね」
静かに言う。
「君達自身が、まだ分かってない」
「……っ」
「だから、意味があるんだよ」
やわらかく、でもはっきりと。
「それが分かった時——」
「君達の選択の意味も」
「ここまで来た理由も」
「全部、ちゃんと繋がる」
「……どうして、そこまでこだわるのよ」
自然と、言葉が出る。
「何があなたをそこまで突き動かすの?」
どんな選択よりも、一つの事を貫き通す。
これじゃあ、まるで――
……
一瞬の間。
ほんの少しだけ、静かになって——
「……好きだからだよ」
「え?」
あまりにもあっさりした答えに、思わず聞き返す。
「そうやって、可能性が広がる瞬間がさ」
少しずつ、声に熱が混じる。
「見逃したくないんだ」
「……」
「抗えないんだよ」
今度は、はっきりと。
「君達が、『未知』を選んだのと同じでさ」
―——ああ。
分かる。
理屈じゃない。
損得でもない。
「……そういうこと」
小さく、息を吐く。
一拍置いて、
「同じ、なのね」
「そうだよ」
軽く返ってくる。
でも——
さっきまでより、少しだけ距離が近い。
「……確かめたい」
ノワールの言葉にあたしの気持ちも高まる。
思いは同じだ。そこに未知があるのだから。
「確かめよう!」
胸の奥が、跳ねた。
「見つけるんだ!二人で!」
あたしとノワールの声が揃った。
「暗黒の未来を選んだ君たちなら、必ずそうするだろうと思ったよ」
声のトーンがはっきり嬉しそうになった。
「……早く見よう」
ノワールが急かす。あたしもわくわくが止まらない。
「ああ、それじゃあ始めようか」
「一階層は猫ちゃんね」
「「猫ちゃん!?」」
あたしとノワールは同時に叫ぶ。確かに猫ちゃんと言えば猫ちゃんだけど
「……あれは恥ずかしかった」
「……でも今は、ああで良かったと思う」
「……『したいこと』なら、怖くても止まれないんだ……ね」
""怖くても、震えてても、守ろうとしたなら、それで十分じゃない!!""
""大事なのは、守ろうとした気持ちでしょ!""
怖さに立ち向かう勇気……?そうか!
「どちらかを『選ぶしかない』のかな?」
「どっちもしか――ない!」
心の底から、その言葉が浮かび上がってきて、ノワールと顔を見合わせた。
「……そうだったんだ」
「そうだね、でも君達が何を選ぶかは分からなかった。ボクはその選択が見たかったんだ」
「そういう意味では、妲己が大声を挙げたのは、少し意外だったね」
あれはあたしにとっても恥ずかしい場面だった。
でも、そうか。アレが黒い泡を選ぶ『勇気』の元になったなら、悪くない。
不思議と、心が弾んだ。
「二階層は抱っこかな」
「「抱っこ!?」」
抱っことは、あのノワールが抱きしめてくれたことだろうか?そう思った瞬間、あたしは反射的に叫んでいた。
「いや、抱っこじゃないし!」
あたしがそう言うと、ノワールがあの時の事について話し始めた。
「妲己様はあの時、とにかく辛そうでした。だから、なんとかしなくちゃって」
「私が抱きしめた瞬間に、階層から〝〝〝〝〝……まもってほしかった……〟〟〟〟〟って聞こえてきたんです」
「妲己様は守られること受け入れてくれたんだって分かりました」
「……受け入れられたら、もっと色んな形を選べるんですね」
〝〝〝〝〝……助けて……〟〟〟〟〟
〝〝〝〝〝……まもってほしかった……〟〟〟〟〟
そうか、感情を受け入れられれば、新しい『未知』の選択肢が増えるんだ。
「どれを――『選んでも良い』ん……だ!」
「全部、何でも選べる!」
その瞬間、胸の奥で何かが繋がった気がした。
あたしたちはこの時も――ちゃんと『未知』を切り開いていたんだ。
「未知だ!」
思わず声が弾む。
「ここにも未知があったんだ!」
あたし達の言葉を聞いた八咫鏡が強い光を発した。
「……そうさ!君達はまた一つ、『未知』へ続く道を見つけたんだ……!」
「まさかノワールが、あの段階で『自分のしたいこと』を探し始めていたなんてね」
「何もかも受け入れたような妲己様の表情を見て思ったんです。自分は何をしたいんだろう……って」
そうだ。何を選んでも良い。あれが、黒い泡を選ぶ『自由』の始まりだったんだ。




