一つ目のブロンタス
二撃目もヒットする。
「い、痛い! 首がもげますよ」
「ほほう、お前さんの頭なら良い素材になるだろうな……」
ブロンタスさんの目がギラリと輝いた気がした。
普通に戦って勝てるとか、そう言う問題じゃなく怖い。素材を見る職人の眼差しで、俺の身体のパーツを見ないで欲しい。
「止めてください物質世界に居られなくなります」
「ふむ、そうなればお前の憂いも晴れるだろう?」
「いやいや、いや、そんなの後悔しか残りませんって」
やってしまった失敗を、無かったことには出来ないし。ましてやその結果を見ずに立ち去って知らぬ顔などしたくない。
何も出来なかったとしても、俺は最後までこの地に居るつもりだ。
俺の返答を聞いてブロンタスさんは重いため息を吐いた。
「お前、その調子で頭を下げて回っているのか?」
「謝って済むことでないのは重々承知しておりますが」
だからと言ってそれさえしないのは、違うと思う。
ただ、精霊神殿への立ち入りは許されなかった。俺の顔など見たくないと言うことだろう。
「会えば心穏やかでは居られない、春の御方もお前を責めるのは門違いだと頭では理解しておられるのだ」
精霊神殿、大神官に加護を与えていた美しい新緑の大精霊。
豊穣を母に持つ彼女の愛を承った神官は、術式の最中に神殿内で凶刃に倒れた。
目の前で護るべき相手を殺された、彼女の悲しみはいかばかりか……
「春の大精霊様の怒りはもっともだと思います」
その凶刃はあの少年が、聖剣とかフェザースターとか呼んでいた俺の剣なのだから。
俺は、大精霊様の気持ちが少しでも晴れるのならば、殺されたとしても仕方がないと思っている。
ブロンタスさんはもう一度大きなため息を吐いた。
「泊まっていけ」
「いえ、俺はギルドに……」
「……」
なぜかブロンタスさんに無言のプレッシャーを受けた。魔力で威圧されているとかでは無いのだけれど怖い。
そうやって、睨んだ後に、凄く残念そうな顔をされる。
う、ううう。
「どうせこの後客人を引き受けるんだ、泊まっていけ」
「わ、解りました、お世話になります」
先輩はたてるべきだよな。ギルドは後で行こう。
俺の返答に満足そうに頷くと、ブロンタスさんはお店の表の扉を閉めた。
営業時間が本当に短い、通常の買い物客って居るのだろうか?
「最近権力者どもが五月蝿くてな……」
貴族や王族の使いと、言う者が何度も訪ねてきては武器を作れと命令してくるのだそうだ。
以前からそんな話しは有ったものの、この頃はそれが露骨過ぎると、そのため一般の販売は今殆どしていないと言葉すくなに説明してくれた。
行き詰まっている事にしておけば、楽だとか。
「一つ目のブロンタスが創作に行き詰まるなんて、とんでもないですけどね」
ブロンタスさんは鼻で笑って店の奥にと入って行く。
それに俺も付き従った。
荷物の積まれた狭い通路を抜けて、小さな作業場へ。
そこには小さな炉がある、それはカモフラージュ用ではあるがきちんと手入れされていた。
「土よ」
その少し手前でブロンタスさんが土間の床に呼び掛ける。すると地面が口を広げて彼を迎え入れた。
「お邪魔します」
「おう、ゆっくりしていけ」
階段を下りるとそこは別空間だ。
広いロビーの先に廊下が繋がっているが、既にむわりと熱気が上がってきていた。
入り口が閉じるとブロンタスさんが肩を解すようにして、メキメキとその嵩を増し、着けていた眼帯も外す。
眉間のシワのように見えていたものが開き、瞳が顔の真ん中に戻る。
これが、本来の一つ目のブロンタスである。
人種から見れば異形の魔物に感じるかもしれないが、その性質は全く違う。
彼は、太古の鍛冶神の血をひいているのだ。
「みなにも挨拶していけ」
「はい」
廊下の奥の扉を開けると明るい光が目に飛び込み、金属を叩く音がそこかしこから聞こえて来る。
そこでは、一つ目の小鬼の様な妖精達が大勢作業に勤しんでいた。
「お久しぶりです、みなさん」
そう、ここが本当の作業場。
ブロンタスの武器工房だ。
ライオネル「これで武器を俺に作って欲しい出来るか?」
ブロンタス「お、お前…この羽根を何処で……いや、深くは聞かねぇ任せてくれ」
シン「……」




