鍛冶職人ブロンタス
俺が頭を下げると、直後に重い衝撃が襲って来た。
「あだ!!」
反射的に頭を押さえる、脳みそがぐわんぐわんと音をたてている様な気がした。
「馬鹿野郎が! 頭なんて下げてるんじゃねぇ」
なら何故叩いたんですか?
理不尽を感じないではないが、何か言える立場でもない。そのまま兎に角店に入れと首根っこを掴まれて引き摺られる。
いろいろと込み入った話をしなくてはならない。
「お前はなんだ?」
そこでブロンタスさんは、俺の横に居たやせぎすの男に目を止める。
そうだ、そう言えばまだ彼に、代金を払っていなかった。
「いたた……彼はここまで案内してくれた方です」
「そうか、ならお前も付いて来い」
「へ、へい」
彼は今のやり取りで驚いてしまったのか、おっかなびっくり返事をして、ブロンタスさんの後ろに続いた。
ブロンタスさんのお店の中は、時を止めたようだな。
布をかぶったフルプレートも、壁に飾られた剣たちも所狭しと置かれた武器も、以前来た時と余り変わっていないように思う。
……店舗の場所自体は移動しているはずなのだけれど。
「白黒のはここに座って待ってろ」
「あ、はい、すみません」
店の片隅の椅子に有無を言わさず俺を下ろして、ブロンタスさんはカウンターの奥にガタガタと備品を寄せながら入って行った。
「そうだ、先に料金をお支払いしておきますね」
この隙にと、一緒に店に入って来て呆然と辺りを見回していた案内の彼に、声を掛けておく。
忘れたら悪い、それにタイミングがここしか無い様な気がする。
「お、おお悪いな」
彼は俺から銅貨を受け取ると、いそいそと胸もとに仕舞う。
「ありがとうございました」
「それはいいんだけどよ、お前生きて帰れるか?」
「あはは、大丈夫ですよ」
「ホントか……」
つい乾いた笑いが出て、するとやせぎすの男は薄い眉を顰めて、心配そうな表情をした。
「おい」
そこでブロンタスさんが戻ってくると、男に声を掛けた。
怒っている訳ではないのだろうが、腹の底に響くような声は相手を緊張させる。
俺も最初のころ、今も慣れたとは言えないけれど、やたらと緊張したのを覚えている。
「それを見せろ」
ブロンタスさんが『それ』と言って指さしたのは、男が腰に差している短剣だ。
「こ、これですかい?」
男はその言葉に恥ずかしそうにその短剣を手で隠した。
使い込まれていると言うより、ただ古くて草臥れている代物は、噂の鍛冶屋に見せられるようなものじゃないと思っているようだ。
それをブロンタスさんは遮って、男からもぎ取る様に短剣を持って行ってしまった。
「それはその、そんないいもんじゃねぇんだ」
カウンターの奥を覗くと彼が何をしようとしているかすぐに解ったのだろう、やせぎすの男が焦ってそれを止める。
「ただの安物だ」
ブロンタスさんの手元には、魔力で動く研磨機がセットされていた。
「手入れするのに安いか高いかなんて問題じゃねぇ」
キュイン……
金属が擦れる音がして研磨機が動き出したのが解る。
「腰に差してるって事は、何時かお前の命を預ける時が来るかもしれねぇって事だ。そいつが世話になったんだろう……」
それだけ言うとブロンタスさんは黙って短剣の砥ぎに集中してしまった。
ありがとうございます。
「あ、ありがとうごぜいます」
心の声が一致してしまった。
しかし、砥いでいるっと言うか……いいのかこれは?
俺はキョロキョロと辺りを窺うが、何か起こる気配はない。
規則とか罰則とか、仕えている神によってかなり違うので、土の精霊系はそこまで厳しい勅命が出ていないのだろう。
と言うか俺だけ特に厳しい神勅が降りているが、正解な気がする。首謀者みたいなもんだしな。
解っていた事だけれど、凹むな。
暫くして、短剣が磨き上がると柄の革を綺麗に巻き直し、ブロンタスさんは男にそれを返した。
「すっげーこれがあの安物かよ!」
そう男が言って掲げた短剣の刃は新品同様、否それ以上に鋭さを増している。
各種付与もこっそり素材の限界まで施されていて、もう別物と言っていいような物に成っていた。
「ありがとうございました!」
「気を付けろよ」
そう言ってブロンタスさんは礼を言う男を店から送り出した。
さてと、俺もそれを見送ってから腰を上げる。
「次はお前だ白黒の」
「はい……改めまして、申し訳ありませんっ痛い!」
またもや謝罪の途中で叩かれた。




