【番外 平山 久司の一日】
年に一度の一斉能力検査。全国の会場で同時に行われる、大規模な国家事業だ。
平山久司が東京支局でこの仕事に就いて、もう二十年近くになる。毎年、特段の問題もなく終わる。
今年も、そのつもりだった。
現場の警備担当者から連絡が入ったのは、午前十時過ぎだった。
「……100.0が出ました」
平山は手を止めた。
「その子は今どうしていますか?」
「はい。検査員が動揺して、他の受検者の前で数値を読み上げてしまいまして……すぐに対応が必要と思いご連絡を」
平山は、眉一つ動かさなかった。
内心は、別だったが。
(愚かな…本来は子供の動揺を落ち着かせる側の大人が浮つくなど)
今から隠蔽することは不可能だ。すでに複数の参加者に100.0という数値は知れ渡っている。
まず護衛の手配。
能力値と能力によっては国家バランスを覆しかねない個の力も中には存在する。
他国の諜報機関や犯罪組織に狙われることもある。高い能力があれば幸せになれる、とは限らないのだ。
能力者の陰には表には出ない様々な暗闘があることを平山は嫌というほど知っている。
「今すぐ行く。それまでは本人を別室で待機させておきなさい。それと、戦闘経験豊富な護衛を最低でも二名、確保してこちらに回しなさい。あと、それだけの能力者です。家族にも優秀な能力者がいる可能性があります。対象者の家族構成と経歴についても至急取り寄せてください」
「了解。一旦私が護衛につきます」
「頼みます。では後ほど」
電話を切って、移動しながら部下が急いで持ってきた書類を確認した。
雪村青葉。十七歳。父・晴希、母・陽子。妹・美希子。
父の名前を見て、平山は少し止まった。
雪村晴希。
その名前に、覚えがあった。
数年前、富岡が捜索を依頼してきた名前だ。
平山は当時、雪村晴希の素行調査をした。
善良な人間だった。
本人は名刺交換をしたら身体が頑丈になる程度に思っているようだが、客観的にデータを見ればそれだけではないのは明らかであった。
お節介にも監視中に可能な能力分析を行い、その仮説をもとに彼を富岡の会社に招くべき人材として推薦し、扱い方にも助言をした。
富岡は口は悪いが頭も機微も回る人間だ。
私が口外できないことを知りつつ渡した情報の範囲で最適な手を打ったと思う。
「それがなんであんな騙され方をしたんだか」
「はい?」
「すみません、独り言でした。資料ありがとうございます。」
いやはや、世間は狭い。
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会場に到着して、別室に向かい部屋のドアを開けた。
どこにでもいる年頃の普通の男子高校生が、不安げに椅子に座って待っていた。
心の中で大人の不手際で彼を不安にさせてしまったことを詫びながら、100.0という異次元の能力者と相対すべく気持ちを切り替える。
平山は、静かに椅子を引いた。
「お待たせしました。本日の責任者を務めております、平山と申します」
……冷静に対応したつもりが、いつでも連絡しなさいと言いながら連絡先を渡す大失態をしていた。
加えて、帰り道に彼が事故に巻き込まれるなど誰が想像できようか。
後で思い出したのは、病院で父親に渡す時だった。
人生で初めて、自分がそこまで動揺していたことを自覚した瞬間だった。
「果たしてトレーラーの事故も本当に事故だったのか、それとも…」
トレーラーの事故では死者は幸運にも一名も出なかった。
運転手の姿は誰も見ていない。




