【第6話】
「それとな、お前が嫌なやつだと思ってた能力上流層のおっさんはな、今の俺の会社の社長だぞ」
……え?
「あの財布のおっさん、覚えてるか」
忘れるわけがなかった。
「あの出来事のあと、あのおっさんの会社に転職したんだよ。お前は知らんだろうが……」
「ええ!?」
「実は当時、秘書に会社の金を持ち逃げされて、取引先も引き抜かれて、ひどく憔悴していたらしい。イライラを俺にぶつけてしまったことをずいぶん後悔したみたいで、状況が落ち着いた頃に俺を探してくれた」
父が話してくれた。あのおっさん——富岡さんという人らしい——が八つ当たりしてしまったことをひどく後悔して、父を探し出して謝罪してくれたこと。
そして破格の条件で自分の会社への転職を勧められたこと。
「そうだったんだ……」
そんな事情があったのか。
少しだけ、遠かった何かが近くなった気がした。
「で、一緒に飯を食ったんだが、そこで俺の能力を知ったらみるみる顔色が変わってな。それだけの能力があるのに今の待遇は不当だと怒り出して。俺がそんなに不満はないと言ったら、今度は俺が怒られた。その場でハワイ旅行のチケットとホテルを手配して、家族ごと連れていけと言われた」
「……あのハワイ、そういう経緯だったの?」
「そうだ。お前も美希子も初めての海外だったから、楽しかったよなぁ。はっはっは。美希子の読者モデルの会社を紹介してくれたのも、そのおっさんだぞ」
ベッドの上でなかったら転げ落ちていたかもしれない。
「えっ!?え?読者モデル?美希子が!?」
「なんだ知らんのか。本人も乗り気だったんだぞ。口が悪いのはちょっと困るが、能力のリスクだと周りも理解してくれてる良い現場らしい。年上のモデルさんたちからも可愛がられて楽しくやってるそうだ」
「えええぇぇぇ…」
あの妹が…僕よりも早く仕事をしていたなんて…
「それと、母さんが料理本を出してる出版社はな」
「ちょっと待って!!出版って何!?母さんって主婦じゃないの!?」
「主婦だぞ。ただ、話を持ってきてくれたのは青葉のおばあちゃんの瀧江さんの古い知り合いの一族がやっている大手出版社でな。昔、瀧江さんに命を救われたことがあるらしくて、ずっと礼をしたかったらしい。瀧江さんが何も受け取ってくれないから、代わりに母さんの料理本を出す支援をすることにしたそうだ。今では結構人気もあるんだぞ」
僕の中の家族像が、今日のトレーラー並みの爆発力で吹き飛ばされた。ベッドの上で頭を抱えてうずくまってしまった。
「……僕の知らないことが、こんなにあるなんて……もうなにがなんだか」
というか働いてないの僕だけじゃないか!
その時、ドアがノックされた。
スーツ姿の男性が三人入ってきた。
「ご家族でご歓談中に、申し訳ございません」
平山さんだった。
「雪村青葉くん、大変な事故でしたが、ご無事のようで何よりでした。」
最初に会ったときより少しだけ柔らかいトーンに感じる。
「事故で能力が発現したという報告がありまして、ぶしつけとは思いましたが早急にお話する必要があると思いましたので、お見舞いも兼ねて押しかけてしまいました。」
少し間を置いて、改まった表情で平山さんが口を開いた。
「雪村青葉くん——能力検証機構で、能力の精密検査と訓練を受けてもらえませんか?」




