【第4話】
なんとかしてあげないと。
でも身体が動かなかった。
当然だ。あんなトレーラーに近づいたら、次の爆発に巻き込まれるかもしれない。僕には何の能力があるかもわからない。近づいても、何もできないかもしれない。
でも、目が離せなかった。
あの目。すべてを諦めた、静かな絶望の目。
「良い人を演じておきなさい——いつかそれが」
父の言葉が、浮かんだ。
でも、今動きたいのは、演じたいからじゃない。
見返りが欲しいからでも、格好よくありたいからでもない。
ただ、あそこで、人が死にそうだから。
「諦めないで!今いきます!!」
気づいたら、走り出していた。
「おい!危ない!」「やめろ!」「馬鹿、近づくな!」
周囲が叫んでいたが、足が止まらなかった。
女の人のそばまで辿り着いた。足首が瓦礫に挟まれていた。重なった石の塊が、びくともしない。
「大丈夫ですか!今助けます!」
瓦礫を押しのけようとした。動かない。重い。
「くそ……!」
100.0なんて数値が出ておいて、石一つ動かせない。能力があると言われたのに、何もできない。あの女の人を助けられるはずなのに、この手はただの手だ。
「くそっ、なんで——!」
「いつかそれが本当の——」
「なんでこんなこともできないんだよぉ!!」
言葉にならないぐちゃぐちゃの感情が、胸の奥から溢れ出た。
その瞬間、腕の中に熱いものが走った。
一瞬意識が飛んだような空白があった。
気づいたら、瓦礫が砕けていた。
女の人が「え」と声を上げた。挟まれていた足が、自由になっていた。
僕にも何が起きたのかよくわからないが、ここでのんびり考える時間はない。
「立てますか!逃げましょう!」
女の人は首を振った。足が、うまく動かないらしい。
「失礼します!」
そういって僕は女の人を抱きかかえた。
そして早く安全な場所に行こうとトレーラーを背にして、走った。
一秒でも遠くへ。燃料が漏れているなら、次の爆発はいつ来るかわからない。
ドン、という音が聞こえたと思ったら、次の瞬間には身体が宙に浮いていた。
爆風が、背中を叩いた。
女の人を庇うように腕を回した状態で、一緒に吹き飛んだ。女の人が僕の腕から離れ、二人とも、地面を転がった。
ようやく後ろで大きな爆発が起きたのだと気づいた。
「君!!大丈夫か!?」
駆け寄ってくる男性の声が、遠くなっていった。
「救急車!救急車を呼んでくれ!!男の子が危険な状態だ!!」
……あれ……。
燃料を積んでたトレーラーが爆発して、吹っ飛ばされたんだっけ。
「女の……人は……?」
「まだ意識があるぞ!大丈夫か!?君が守ってくれた女性は無事だよ!ちょっとケガはしてるかもしれないが、君のおかげで大丈夫だよ!」
「ボクの方が重傷なのよ!気をしっかり持ちなさい!今救急車が来るからね!」
……よかった。
「!救急車が来たぞ!」
「よかった!……!?おい!!しっかりしろ君!」
「あああ!早く来て!早く来てえぇぇぇ!!!」
遠くでサイレンが聞こえた。
意識が、やわらかく、とけていく。
今日、僕は——
誰かの役に立てた。
それだけで、なんだか、十分な気がした。




