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ごく普通の高校生に、史上最高の数値が出た。その意味を、世界もまだ知らない  作者: 冥土の土産屋


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3/11

【第3話】

「お待たせしました。私が本日の検査責任者を務めております、平山と申します」

 静かな声だった。落ち着いていて、感情の起伏が読みにくい。

 ただ、ほんのわずかだが——目の奥に何かがあった。怒りとも、苛立ちともつかない、鋭いものが。

「雪村青葉(ゆきむらあおば)くん、率直に申し上げます。あなたの今回の能力測定値は、100.0でした。観測史上、誰も記録したことのない数値です」

「……はい」

「これだけの数値が出た以上、国の法律の定めにより、国が指定する大学に入学して頂く必要があります」

 頭の中が、真っ白になった。

「……え?」

「費用のご心配は無用です。推薦入学の場合、大学費用は全額免除となっております。もし学力などにご不安がございましたら特別講師の派遣についても——」

「あの」

 思わず遮ってしまった。

「そういうことじゃなくて」

「……と、おっしゃいますと?」

「僕、自分の能力、わからないんです。何ができるのか、リスクが何なのかも。そんな状態で推薦なんて、何かの間違いじゃないですか」

 平山さんが、初めて驚いたような顔をした。

「……これほどの数値を持ちながら、能力を把握されていない、ということですか?」

「……本当にわからないんです。何ができるかも、リスクが何なのかも」

 平山さんが少し沈黙した。

「幼少期に、能力検証機構を利用されなかったのですか?」

「あまり覚えてないくらい小さい頃には他の子と同じように行っていたらしいんですが、能力がまったく把握できないと言われて、おそらくもっと成長しないとわからないくらい小さな能力でしょう、大きな心配もしなくていい、と言われてそれっきり忘れていたくらいです」

「なるほど」

 平山さんが何か考えるように、少し間を置いた。

 沈黙のせいで、それまで気づかなかった音が耳に入ってくる。

外が騒がしい。廊下の向こうで、誰かが「本当に100.0なのか」と話しているのが聞こえた。

 また、何かを考えるような間があった。

一瞬、平山さんが黒服の方を向き、ドアの方に少し首を傾けると、黒服の人はうなずいて外に出て行った。

その後、外の音は何も聞こえなくなったように思う。

「……まず、なぜ今日、これほどの数値が出るまで能力が把握されていなかったのか。これは珍しいことです。これほどの数値を持ちながら、能力も訓練も知らずに育った人間は、私はほとんど見たことがない」

「そうなんですか」

 平山さんからは色々説明を受けたが、正直、頭に入ってくるようで入ってこなかった。能力が高い人間は幼少期から検査や訓練を受けているのが普通だとか、うちの家族のように何も知らないのは珍しいとか、とにかく今すぐにでも能力の詳細を把握する必要があるとか、入学前に色々準備が必要になるとか。

 とにかく、僕の普通の毎日は今日から変わる、ということだけはわかった。

 でもその時は、それ以上考える余裕がなかった。

 その後、また戻ってきた黒服の人が平山さんに持ってきた書類を手渡し——平山さんが一瞬、止まった。

「……失礼、話の続きをさせてください。それから、ご家族への説明も必要ですね」

 話が終わったのは、昼過ぎだった。

 頭に入ってくるようで、入ってこなかった。

 会場を出て、歩き始めた。

 天気がいい。なんだか馬鹿みたいに晴れていて、その明るさが少し腹立たしかった。自分でも変だとは思うけど。

 能力上流層になりたくはない、と思っていたがいきなり自分がなってしまった。

 いや、正確にはなったわけじゃないけど。お金や権力を手に入れたわけでもないし、能力値が高い数字なだけで何ができるかもわからない。

でも、これからは能力者として扱われることになる。

無茶苦茶だ。

両親に何て説明しよう。妹は何て言うだろう。学校は?

 そう思いながら、歩いていると。

 地面が、揺れた。

 次の瞬間、空気を引き裂くような爆発音が、腹の底まで響いた。

 ドン、という音というより、衝撃だった。思わず立ち止まって、音のした方を向いた。

 黒い煙が、もうもうと上がっていた。

 数十メートル先の交差点、人が集まってきていた。叫び声が聞こえる。野次馬だけでなく、怯えた顔の人が走ってきている。

 横転した大型トレーラーが、建物に突っ込んで燃えていた。荷台から燃料が漏れているらしく、今も炎が上がっている。いつ次の爆発が起きてもおかしくない。

「水系の能力者はいないか!誰か何とかできる人間は!」

 誰かが叫んでいた。

 その時、僕は煙を上げているトレーラーのすぐ近くで動くものがあることに気づいた。

それは崩れた建物の瓦礫(がれき)に挟まれて、身動きがとれないでいた少し年上くらいの女の子の姿だった。

 埃と煤にまみれた髪の中で、星の形をした髪飾りが小さく光を反射していた。

 女の子がこちらに気づいた。何かを言おうと口を動かしている。

「……来ちゃ……だめ……」

 声はほとんど聞こえなかったけど、唇の動きでそう言っているのがわかった。

 自分がそんな状態なのに、こっちの心配をしてるのか。

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