【第4話】不知火斬矢
男子三人は、しゃがんでいる彼女を囲むように立った。
「なあ、聞いてんのか。雑草いじり」
真ん中の男子が言った。整った顔立ちに、施設の中でも一目でわかる上等な服。両脇の二人は、彼の顔色を窺うように笑っている。
「……訓練中です」
彼女は顔を上げずに、小さな声で答えた。
「訓練? それが?」
男子が、彼女の育てていた蔓を靴の先で引っ掛けた。支柱に絡んでいた緑が、ぶちりと音を立てて千切れた。
彼女の肩が、また震えた。
「ここは能力者の施設なんだよ。ガーデニングがしたいなら家庭菜園でやれって。ああ、一般人だから庭もないのか」
両脇の二人が笑った。
気づいたら、僕は渡り廊下の階段を駆け降りていた。
「雪村さん?」
真柴さんの声が後ろから聞こえたけど、足が止まらなかった。まただ。昨日と同じだ。考えるより先に身体が動いている。
でも今回は、後悔はなかった。
「あの」
三人が振り返った。
「やめませんか、そういうの」
自分でも驚くくらい、はっきり声が出た。
真ん中の男子が、僕を上から下まで眺めた。
「……誰だお前」
「今日からここに入所する、雪村青葉です」
「雪村……」
男子の眉が、ぴくりと動いた。
「ああ、聞いたぜ。例の100.0か」
その言い方には、感心も驚きもなかった。代わりに、何かが焦げるような、粘つく響きがあった。
「へえ。へえ、あんたが」
男子はゆっくりと僕の正面に立った。近くで見ると、目の奥が笑っていなかった。
「不知火斬矢。覚えとけよ。不知火の家の名前くらい、一般人でも知ってるだろ」
知らなかった。でも、言わない方がいい気がした。
「その顔、知らないな?」
バレた。
「はっ……いいよなあ、何も知らなくても100.0なら。生まれてから毎日訓練しなくても、家の名前を背負わなくても、検査で数字が出ただけでチヤホヤされる」
「別に、チヤホヤなんて」
「されてるんだよ!」
斬矢の声が、急に大きくなった。
「護衛付きで送迎されて、入所初日から研究員が案内係か? 俺は毎日毎日炎を練り続けて、それでもまだ一度も——」
斬矢は言葉を切った。何かを飲み込むように。
「……まあいい。ちょうどいいから見せてもらおうぜ。100.0ってのがどれだけのもんか」
斬矢が右手を軽く上げた。
その指先に、ぽっ、と火が灯った。
ライターみたいな小さな火。それが見る間に膨らんで、腕全体を覆う炎になった。夏の陽射しの下でもはっきりわかる、勢いのあるオレンジ色の炎だった。
「不知火の炎は鍛え方が違う。温度が違うんだよ」
周囲の空気が、夏なのにさらに熱くなった。離れているのに、頬がちりちりする。
まずい、と思った。
あの熱。あの色。
視界の端で、横転したトレーラーが燃えていた。黒い煙。叫び声。瓦礫の中の絶望した目——。
昨日の光景が、勝手に頭の中で再生された。心臓が跳ねて、呼吸が浅くなる。
「おい、どうした100.0。顔が真っ青だぜ?」
斬矢の炎が、ぶわりと大きくなった。
「ちょっと、やめなさい!」
真柴さんの声。遠くで誰かが走ってくる足音。訓練場の隅で、体格のいい男子が「うわ、あかんてあれ」と声を上げたのが聞こえた。
でも、全部遠かった。
目の前の炎だけが、やけに鮮明だった。
怖い。怖いのに——目が離せない。
炎の揺らめきが、輪郭が、熱の流れ方が、なぜか、わかる。
腕の中に、熱いものが走った。
この感覚、昨日の——




