↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごく普通の高校生に、史上最高の数値が出た。その意味を、世界もまだ知らない  作者: 冥土の土産屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/15

【第3話】真柴さん

 案内された所長室は、思ったより普通の部屋だった。


「ようこそ。所長の坂東(ばんどう)です」


 白髪まじりの温和そうな男性が、立ち上がって迎えてくれた。


「雪村青葉(ゆきむらあおば)です。よろしくお願いします」


「話は平山支局長から伺っています。まあ、緊張しなくて大丈夫ですよ。施設の使い方や細かいことは、職員や護衛のお二人がぜんぶ教えてくれますから」


「はい」


「私から言うことは特にありません。しいて言えば、食堂のカレーはおすすめです」


「……はい」


 本当に特にないんだ、と思った。


「では青葉くん、私たちは所長と警備の打ち合わせがありますので、少しここに残ります」


 畑山さんが言った。


「施設の案内は彼女が担当します」


 所長室の隅に控えていた女性が、一歩前に出た。


 白衣に、丸い眼鏡。歳は三十くらいだろうか。


「研究部の真柴真琴(ましばまこと)です。本日は施設をご案内します」


「じゃあ後でな。迷子になるなよ」


 三島さんが軽く手を上げた。


 真柴さんと二人で廊下に出た。


「まず研究棟から回りましょう。雪村さんの精密検査も、明日からここで行いますので」


「よろしくお願いします」


「歩きながらで結構ですので、いくつか伺っても?」


「あ、はい」


「昨日、瓦礫(がれき)を砕いたそうですね。その時、何か感覚はありましたか。熱いとか、痺れるとか」


「えっと……腕の中に、熱いものが走った気がします。それで一瞬、意識が飛んだみたいになって」


「なるほど。発現の瞬間の記憶が曖昧、と」


 真柴さんは白衣のポケットから小さなメモ帳を出して、歩きながら何か書き付けた。案内というより、もう検査が始まっているような気がした。


 研究棟は、外観と同じで中も落ち着いていた。白い廊下に、測定室とか分析室とか、番号と一緒に部屋の名前が並んでいた。


「ここが第一測定室。一斉検査で使う簡易型と違って、能力の質まで測れます」


「質、ですか」


「数値は量です。何ができるかは質。雪村さんの場合、量は分かっていますが質がまったくの未知数なので」


 未知数、という言い方が、少しだけ嬉しかった。化け物とか異常とかじゃなくて、ただの未知数。


 研究棟を出て、渡り廊下から屋外の訓練場が見えた。


 広い。学校のグラウンドの倍はありそうな敷地に、的や障害物が並んでいる。奥には体育館みたいな屋内訓練場もあるらしい。


 その訓練場の隅で、誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。


 女の子だ。僕と同じくらいの歳だろうか。地面に手をついて、じっと何かをしている。


 彼女の手元から、細い緑の蔓(つる)がするすると伸びて、支柱に巻きついていくのが見えた。


「あれは……」


「入所者の方です。植物系の能力の。熱心な方で、いつも自主訓練をされています」


 植物を操る能力。初めて見た。蔓は生き物みたいにしなやかに動いて、編み込まれるように形を作っていく。綺麗だな、と素直に思った。


 その時だった。


「うわ、また地味なことやってる」


 訓練場の反対側から、よく通る声がした。


 男子が三人、歩いてくる。真ん中の一人は、遠目にもわかるくらい高そうな服を着ていた。


「なあ、雑草いじりって能力っていうのか?」


 しゃがんでいた彼女の肩が、小さく震えたのがわかった。


 真柴さんが、眼鏡の奥で目を細めた。


「……またあの子たちですか」


 その声が、さっきまでと違って硬かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。