【第2話】能力検証機構
「施設に着いたらまず所長に挨拶します。平山さんから引き継ぎを受けた方が対応してくれると思いますが、基本的に青葉くんは言われたことをやっていれば大丈夫ですよ」
「所長って、平山さんじゃないんですか」
「平山さんは東京支局長です。施設の所長は別の方です」
そうか、と思った。平山さんは施設の外の人間なのか。
「施設はどんなところなんですか」
「訓練設備がいくつかある。屋外と屋内と。あとは研究棟と寮と食堂。規模はそこまで大きくはないが、設備は悪くない」
三島さんがあっさり言った。
「入所者は今どのくらいいるんですか」
「時期によって変わりますが、今は十数人だと思います。長期滞在の人もいれば、一日だけ検査に来る人もいる。青葉くんのようにしばらく滞在する方は少ないですよ」
畑山さんが補足した。
「少ない……そうなんですね」
「100.0が出たんだから当然だろ」
三島さんが言った。嫌味でも自慢でもなく、ただそういうことだ、という感じで。
そういうことだ、というのはわかっていた。頭では。でも改めて言われると、少し変な気持ちになった。昨日の朝まで、自分は何者でもなかった。能力もわからない、普通の高校生だった。それがたった一日で、こんなことになっている。
窓の外の景色が、少しずつ変わってきていた。住宅街が減って、緑が増えてきた。山の方に向かっているらしい。
「遠いんですね、施設」
「都心から一時間半くらいです。能力の訓練は広い場所が必要なので、都市部には作れないんですよ」
「それに、万が一のことがある」
三島さんが続けた。
「万が一?」
「能力の暴走だ。100.0の能力者が都心で暴走したら大変なことになる」
畑山さんが少し苦笑した。「三島、それは最初に言わなくていいことです」
「事実だろ」
「青葉くん、三島の言い方はアレですが、要するに安全のための立地です。気にしないでください」
気にしないでと言われても、少し気になった。自分が暴走するとしたら、どんなことが起きるんだろう。昨日の炎を思い出した。あれを自分でコントロールできなかったら、と考えたら少し背筋が冷えた。
やがて、車が速度を落とした。
木々の間に、灰色の建物が見えてきた。思ったより地味だった。政府の施設、と聞いていたのでもっと大げさなものを想像していたが、落ち着いた佇まいの建物がいくつか並んでいるだけだった。
正門らしき場所で車が止まり、三島さんが窓を開けて守衛に何か短く言った。バーが上がって、車が敷地内に入っていく。
「着いたぞ」
三島さんが言った。
車を降りると、夏の空気が肌に当たった。木の匂いがした。都会とは違う、静かな空気だった。
これからしばらく、ここで過ごすのか。
建物を見上げながら、そう思った。
その時、敷地の奥で、ボン、と空気の弾けるような音がした。
——このあと僕は、その音の主と、慣れるどころじゃない出会い方をすることになる。




