2人とも好きに決まってるじゃないか
ズゾ……ズゾゾゾ……
ジョッキをナンシャンテさんに当てると、彼女はビールをすすり始めた。
「うっ……うっ、うっ……」
突然の嗚咽にダンツさんは飛び退いた。
「い、生き返った!!」
そのまま彼女はビールを飲みきった。
「ううう……フォルくううぅぅうん!! もう一杯!!」
マスターは困り顔だ。
「やつれてて気づかなかったが、そこいらをぶらぶらしてたねーちゃんか……」
僕はお酒の代金をダンツさんに渡した。
「はいはいナンシャンテさん。うちに帰ろうね……」
こうして僕は再試験の監察官を引っ張ってきた。
アルコールの補給により多少は息を吹き返したようだった。
「フォルくん、わたし、どうしたら……」
正直、好き勝手やってたらしいので自業自得ではあるのだが。
しかし、自分の評価はともかくとして、ほっぽりだすわけにもいかない。
その時、街中に号外の声が響いた。
「やったぞー!!我らがフォルがゴーレム・トライ・マイスター獲ったぞぉ!!」
家の周りが急激に騒がしくなる。
まずい。このままではみんながなだれ込んでくる。
一応、僕は一人暮らしの純朴青年ということになっている。
どこの誰だかわからない娘を2人も囲っているとなるとイメージは最悪だ。
「あっ、そっかぁ!!」
僕はナンシャンテさんとアルテアを抱えて、窓から裏庭に出した。
裏庭には碑しかなく、誰も見ない。
こうして街人たちは僕を祝福しにやってきてくれた。
次から次へと声をかけてくれ、記者の人もやってきた。
プレスレットを構えてポーズを決める写真まで撮った。
「後楽園で僕と握手だ!!」
なんだかすごくはずかしいんですけど……。
一段落すると2人を家の中に引っ張り込んだ。
「ねぇ、フォルくん。私、やることなくてヒマなんだけど。お散歩も駄目なの?」
これが実地起動試験の難しいところだ。
違和感無く彼女を街中に溶かし込んでいかなければならない。
知らない人物がいきなり僕の家から出入りするようになったら不気味でさえある。
「もうちょっと待ってね。今、考えるから」
そう声をかけつつ、ナンシャンテさんの″おもり″に移った。
彼女はウジウジしてばかりだ。精神年齢落ちてないか?
とりあえず僕はナンシャンテさんを励ましてみることにした。
「まだ再試験って決まったわけじゃないんですから!! 僕も手伝いますから。だから笑って」
フォルの仏のように優しい微笑みを見て、一気に彼女は元気をとりもどした。
「うん、うんうん!! まだ査定落ちってきまったわけじゃないしね!! あたし頑張るよフォルくん!!」
思わず僕とナンシャンテさんはハイタッチした。
「そうこなくっちゃ!!それでこそですよ!!」
するとアルテアが不機嫌そうにぼやいた。
「んも〜。ナンシャンテさん、ナンシャンテさんって、私とシャンナンテさん、どっちが好きなの?」
なぜだかナンシャンテさんは驚いた顔をしていたが、不機嫌そうになった。
僕はと言うと特に悩むでもなく答えた。
「そりゃあ2人とも好きに決まってるじゃないか」
すると揃って2人に睨みつけられた。
あれ、僕、変なこと言ってなくない?
「フォルくん。こんな小娘とより私と遊びましょ?」
ナンシャンテさんが僕の腕に抱きついてきた。
デッッッ!!
対抗するようにアルテアも抱きついてくる。
普ッ!!
うーん、不安要素は多いけど、これは早めにアルテアを自立させる必要がありそうだなぁ。
なんでかわからないけど、ナンシャンテさんとかなり相性が悪いみたいだし。
それにしても、しなしなだったナンシャンテさんはすっかり元に戻ったみたいだ。
美しいブロンドに、白雪姫のような白肌、ナチュラル・ルージュ、セクシーな出で立ち。
こうでなくっちゃデッッッ!! でもナンシャンテさんにも出ていってもらおう。
前に居座られた時のロクな思い出がないし……。
GTMのブレスレットがあればタダで滞在させてもらえるだろうしね。
やっぱ一人暮らしの方が研究は捗るよ。
フォルの選択は研究者としては殊勝なものだったが、1人の男としては愚かとしか言いようがなかった。
しかし、ナンシャンテさんに評価対象になるような仕事を与えて、それを僕が監督しなければならない。
そんな時、僕に妙案が閃いた。
「実地起動試験は街中の生活に溶け込むのが課題なんだ。だからアルテアは僕と別居しなきゃいけない。引っ越してくる人ってことにしておくから街中に住んでよ」
彼女はそっぽを向いて、頬をふくらましている。滅茶苦茶、不満そうだ……。
「そして、シャンナンテさんが彼女の生活をサポートして、暮らしぶりを監査してほしいんだ」
アルテアがゴネた。
「嫌だよ!! 私、フォルくんと暮らす!! それに、この人にサポートされたくないよ……」
この人呼ばわりされて監督官はカチンと来たらしい。
「もう!! フォルくん、この子、強制コマンドないの!?」
ゴーレムの中には行動を強制するシステムを組み込むことも出来る。
だが、僕はそれをやらなかった。
「それは非人道的だからね。ゴーレムだからといって好き勝手いじって良いもんじゃないよ」
3人とも黙り込んでしまったので僕が締めた。
「マスターとして、アルテアには引っ越しを。監督としてはナンシャンテ監察官にはそのサポートをそれぞれ命じます。いいかい。悪いけど容赦しないよ。2人とも″仲良く″協力しないとペナルティを与えます」
予想外の宣告に2人はビビった。
フォルがここまでやるとは思わなかったからだ。
「協力しなかった場合、アルテアはクランドールの魔術局に研究素材として送り返します。そこであちこち分析してもらって。帰ってこれるかはわからないけどね」
ガーリー・ゴーレムの顔は真っ青になった。
「ナンシャンテ・ナンテにおいては監査官としての評価を落とします。僕がアルテアの監察不行届と判断した場合、即、再試験確定とします。クランドールに帰ってもらうのでよろしく」
ナンシャンテも顔を真っ青にした。
「以降、協力的かつスムーズに相互理解をはかり、友好関係を育む態度が見られない場合は2人揃ってペナルティ。わかりましたか? ハイ握手!!」
アルテアとシャンナンテは互いにニッコリ笑って握手した。
ギリギリギリギリ………。
(フォルくんは私のだからね!!)
(それはこっちのセ・リ・フ・よ)
青年は満足げにうなづいた。
(だいぶ懲りたかな? まぁペナルティなんてウソっぱちなんだけどね。仲良きことは尊きことかな。雨降って地、固まるかな。良かった良かった)
そんな呑気な感想を抱いているのはフォルだけだった。
確かに、単なる喧嘩という子供じみた次元を抜け出すことは出来た。
だが同時にライバル心や、ジェラシーという厄介な感情が2人を炙り始めるのだった。




