↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/57

2人とも好きに決まってるじゃないか

ズゾ……ズゾゾゾ……


ジョッキをナンシャンテさんに当てると、彼女はビールをすすり始めた。


「うっ……うっ、うっ……」


突然の嗚咽(おえつ)にダンツさんは飛び退(の)いた。


「い、生き返った!!」


そのまま彼女はビールを飲みきった。


「ううう……フォルくううぅぅうん!! もう一杯(いっぱい)!!」


マスターは困り顔だ。


「やつれてて気づかなかったが、そこいらをぶらぶらしてたねーちゃんか……」


僕はお酒の代金をダンツさんに渡(わた)した。


「はいはいナンシャンテさん。うちに帰ろうね……」


こうして僕は再試験の監察官(かんさかん)を引っ張ってきた。


アルコールの補給(ほきゅう)により多少は息を吹(ふ)き返したようだった。


「フォルくん、わたし、どうしたら……」


正直、好き勝手やってたらしいので自業自得(じごうじとく)ではあるのだが。


しかし、自分の評価はともかくとして、ほっぽりだすわけにもいかない。


その時、街中(まちなか)に号外(ごうがい)の声が響(ひび)いた。


「やったぞー!!我らがフォルがゴーレム・トライ・マイスター獲(と)ったぞぉ!!」


家の周りが急激に騒(さわ)がしくなる。


まずい。このままではみんながなだれ込んでくる。


一応(いちおう)、僕は一人暮(ひとりぐ)らしの純朴青年(じゅんぼくせいねん)ということになっている。


どこの誰だかわからない娘(むすめ)を2人も囲(かこ)っているとなるとイメージは最悪だ。


「あっ、そっかぁ!!」


僕はナンシャンテさんとアルテアを抱(かか)えて、窓から裏庭(うらにわ)に出した。


裏庭(うらにわ)には碑(ひ)しかなく、誰も見ない。


こうして街人たちは僕を祝福(しゅくふく)しにやってきてくれた。


次から次へと声をかけてくれ、記者の人もやってきた。


プレスレットを構(かま)えてポーズを決める写真まで撮(と)った。


「後楽園(こうらくえん)で僕(ぼく)と握手(あくしゅ)だ!!」


なんだかすごくはずかしいんですけど……。


一段落(ひとだんらく)すると2人を家の中に引っ張り込んだ。


「ねぇ、フォルくん。私、やることなくてヒマなんだけど。お散歩も駄目なの?」


これが実地起動試験(じっちきどうしけん)の難しいところだ。


違和感無(いわかんな)く彼女を街中に溶(と)かし込んでいかなければならない。


知らない人物がいきなり僕の家から出入りするようになったら不気味(ぶきみ)でさえある。


「もうちょっと待ってね。今、考えるから」


そう声をかけつつ、ナンシャンテさんの″おもり″に移った。


彼女はウジウジしてばかりだ。精神年齢(せいしんねんれい)落(お)ちてないか?


とりあえず僕はナンシャンテさんを励(はげ)ましてみることにした。


「まだ再試験って決まったわけじゃないんですから!! 僕も手伝いますから。だから笑って」


フォルの仏(ほとけ)のように優(やさ)しい微笑(はほえ)みを見て、一気に彼女は元気をとりもどした。


「うん、うんうん!! まだ査定落(さていお)ちってきまったわけじゃないしね!! あたし頑張(がんば)るよフォルくん!!」


思わず僕とナンシャンテさんはハイタッチした。


「そうこなくっちゃ!!それでこそですよ!!」


するとアルテアが不機嫌(ふきげん)そうにぼやいた。


「んも〜。ナンシャンテさん、ナンシャンテさんって、私とシャンナンテさん、どっちが好きなの?」


なぜだかナンシャンテさんは驚(おどろ)いた顔をしていたが、不機嫌(ふきげん)そうになった。


僕はと言うと特(とく)に悩(なや)むでもなく答えた。


「そりゃあ2人とも好きに決まってるじゃないか」


すると揃(そろ)って2人に睨(にら)みつけられた。


あれ、僕、変なこと言ってなくない?


「フォルくん。こんな小娘(こむすめ)とより私と遊びましょ?」


ナンシャンテさんが僕の腕(うで)に抱(だ)きついてきた。


デッッッ!!


対抗(たいこう)するようにアルテアも抱(だ)きついてくる。


普(ふ)ッ!!


うーん、不安要素(ふあんようそ)は多いけど、これは早めにアルテアを自立(じりつ)させる必要がありそうだなぁ。


なんでかわからないけど、ナンシャンテさんとかなり相性(あいしょう)が悪いみたいだし。


それにしても、しなしなだったナンシャンテさんはすっかり元に戻ったみたいだ。


美しいブロンドに、白雪姫(しらゆきひめ)のような白肌(しろはだ)、ナチュラル・ルージュ、セクシーな出(い)で立ち。


こうでなくっちゃデッッッ!! でもナンシャンテさんにも出ていってもらおう。


前に居座(いすわ)られた時のロクな思い出がないし……。


GTMのブレスレットがあればタダで滞在(たいざい)させてもらえるだろうしね。


やっぱ一人暮(ひとりぐ)らしの方が研究(けんきゅう)は捗(はかど)るよ。


フォルの選択は研究者としては殊勝(しゅしょう)なものだったが、1人の男としては愚(おろ)かとしか言いようがなかった。


しかし、ナンシャンテさんに評価対象になるような仕事を与えて、それを僕が監督(かんとく)しなければならない。


そんな時、僕に妙案(みょうあん)が閃(ひらめ)いた。


「実地起動試験(じっちきどうしけん)は街中(まちなか)の生活に溶(と)け込むのが課題なんだ。だからアルテアは僕と別居(べっきょ)しなきゃいけない。引っ越してくる人ってことにしておくから街中に住んでよ」


彼女はそっぽを向いて、頬(ほほ)をふくらましている。滅茶苦茶(めちゃくちゃ)、不満(ふまん)そうだ……。


「そして、シャンナンテさんが彼女の生活をサポートして、暮らしぶりを監査(かんさ)してほしいんだ」


アルテアがゴネた。


「嫌だよ!! 私、フォルくんと暮らす!! それに、この人にサポートされたくないよ……」


この人呼ばわりされて監督官(かんさかん)はカチンと来たらしい。


「もう!! フォルくん、この子、強制(きょうせい)コマンドないの!?」


ゴーレムの中には行動を強制するシステムを組み込むことも出来る。


だが、僕はそれをやらなかった。


「それは非人道的(ひじんどうてき)だからね。ゴーレムだからといって好き勝手いじって良いもんじゃないよ」


3人とも黙(だま)り込んでしまったので僕が締(し)めた。


「マスターとして、アルテアには引っ越しを。監督(かんとく)としてはナンシャンテ監察官(かんさつかん)にはそのサポートをそれぞれ命(めい)じます。いいかい。悪いけど容赦(ようしゃ)しないよ。2人とも″仲良(なかよ)く″協力しないとペナルティを与えます」


予想外の宣告(せんこく)に2人はビビった。


フォルがここまでやるとは思わなかったからだ。


「協力しなかった場合、アルテアはクランドールの魔術局(まじゅっきょく)に研究素材(けんきゅうそざい)として送り返します。そこであちこち分析(ぶんせき)してもらって。帰ってこれるかはわからないけどね」


ガーリー・ゴーレムの顔は真(ま)っ青(さお)になった。


「ナンシャンテ・ナンテにおいては監査官(かんさかん)としての評価を落とします。僕がアルテアの監察不行届(かんさつふいきとどけ)と判断した場合、即(そく)、再試験確定(さいしけんかくてい)とします。クランドールに帰ってもらうのでよろしく」


ナンシャンテも顔を真(ま)っ青(さお)にした。


「以降、協力的かつスムーズに相互理解(そうごりかい)をはかり、友好関係(ゆうこうかんけい)を育(はぐく)む態度が見られない場合は2人揃(そろ)ってペナルティ。わかりましたか? ハイ握手(あくしゅ)!!」


アルテアとシャンナンテは互(たが)いにニッコリ笑って握手(あくしゅ)した。


ギリギリギリギリ………。


(フォルくんは私のだからね!!)


(それはこっちのセ・リ・フ・よ)


青年は満足(まんぞく)げにうなづいた。


(だいぶ懲(こ)りたかな? まぁペナルティなんてウソっぱちなんだけどね。仲良きことは尊(たっと)きことかな。雨降って地、固まるかな。良かった良かった)


そんな呑気(のんき)な感想を抱(いだ)いているのはフォルだけだった。


確かに、単なる喧嘩(けんか)という子供じみた次元(じげん)を抜け出すことは出来た。


だが同時にライバル心(しん)や、ジェラシーという厄介(やっかい)な感情が2人を炙(あぶ)り始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。