未成年が土左衛門でビール
僕は″また″裁判台″に立たされていた。
脇にはアルテアとナンシャンテさんも居る。
アルテアは不思議そうな顔をしているが、空気は読めるらしい、大人しくしていた。
僕は意を決してメガネを上げた。
「フォル・バークライト博士。君の評価が更新された。聞きたまえ」
魔術局会長はテキストを読み上げた。
「協会貢献度B 地域貢献度A+ 住民信頼度A+ ゴーレム製造技術・知識S+++ 営業収益C- 医療知識・従事A+ 新規開拓研究B 運動能力B 学科試験A、健康A+ 実地起動試験D 監察官監督D」
以上。
会場内から拍手が起こった。
僕は深々(ふかぶか)と頭を下げた。
「まずはゴーレム・トライ・マイスターの称号獲得おめでとう。君の作ったガーリー・ゴーレムの性能は驚嘆に値する。よって、満場一致で最高位のゴーレム・トライ・マイスター(GTM)の称号を与える」
マイスターはその分野のトップを称える称号で、ソロ、デュオ、トライの三段階があり、トライはその最高位である。
再び拍手が会場が包んだ。
「さて、他に変化のあった点を触れていこう。まずは協会貢献度。よくやってくれた。これなら十分だろう営業収益が落ちたのはアナトミア・クレイの費用を引いたからだ」
会長は目を細めながら続きを読んだ。
「医療面を評価しておく。これによって君には病院の開業が認められた。好きにしたまえ。落第だった新規開拓研究もよくやってくれた。これも文句のつけようがない」
またもや拍手が上がる。
「ありがとう、ございます」
また僕は深く頭を下げた。
「なお、査定の結果、再試験は撤回となった。よって、とんでもない不祥事でも起こさない限りは君は魔術師を続けられるというわけだ」
ついつい僕はガッツポーズを禁じ得なかった。
「ゴホン。残りの項目について。まずは実機起動試験。これはガーリー・ゴーレムを日常生活で運用した実績にあたえる。これは急かすつもりはない。自分のペースでやりたまえ」
残りの項目にひどく嫌な予感がした。
「最後に監察官監督。これは誠に嘆かわしいのだが、バークライト博士を監察していたナンシャンテ・ナンテ君に査定申請が入った」
ペシッと僕は額に手をあてて首を左右に振った。
あんな態度では誰かにチクられてもおかしくはない
「ハッキリ言って、彼女には監察官、ひいては王立宮廷魔術師としての適性が疑われる。よって再試験とする!!」
「!!」
僕は目を見開いた。ナンシャンテさんはグジュグジュに泣いている。
「そこで、だ。我々も鬼ではない。バークライト博士にナンシャンテくんを預けることにする。何らかの成果が残せれば評価を上げ、再試験を撤回することとする。これが監察官監督という項目だ」
監察官を監督するとかわけわかんないな……。
まるで捨てられた子犬のような視線が飛んでくる。
「バークライト博士。まだこの……アルテアが動くのを見たことがないものも居る。すこし試してはもらえんか?」
質素な服を来たアルテアに手を振った。
「アルテア!! 皆さんにご挨拶!!」
するとガーリー・ゴーレムはニッコリと笑って両手を振った。
硬めのゴーレムだと大抵がお辞儀をするのだが、アルテアは動きに愛嬌があった。
「こんにちは!! はじめまして!! 私、アルテアって言います!! よろしくお願いしますね!!」
まるでアイドルの挨拶のようだ。ベースがアイドルのなのだから当たり前なんだけど……。
今まで見たことのない異次元のゴーレムに会場は圧倒された。
少しして歓声と拍手が贈られた。
今までは小僧っ子扱いされていた僕だが、まさに掌返しだった。
もうバークライト″くん″と呼ぶ人は居なくなっていた。
帰りにマイスター・ブレスレットを受け取った。
これはマイスターの身分証明となるものだ。
これを提示すると大抵のお店で割引されたり、禁術図書館など一般人には入れない場所に入れるようになったりする。
「うわぁ。極・ゴーレムの極意、読みたかったんだぁ」
キャマ・クーラへ帰ろうとロビーへ向かうと、幽霊のようになったナンシャンテさんが立ち尽くしていた。
それをアルテアが慰めている。
「ナンシャンテさん。ほら、フォルくんが来たよ。キャマへ帰ろう。ね?」
アルテアはナンシャンテの背中をさすっている。
これではどっちな人間なのかわからない。
恐ろしい話だなとフォルはこの出来事を気に留めておくことにした。
再試験から解放されて安堵した僕だったが、残された課題は非常に厄介だった。
いや、アルテアのほうじゃなくナンシャンテさん
のほうが。
僕のせいで再試験にかけられでもしたら彼女の人生に関わってくる。
うわ重てぇ……。
キャマに帰る途中の電車でアルテアとあれこれ設定を固めていった。
「そうだなぁ。やっぱりいとこくらいが無難かなぁ。長期休暇で遊びに来た感じで……」
アルテアは顎に指をあてた。
「いとこだといちゃいちゃできないじゃん」
ガーリー・ゴーレムはさらりとそう言った。
だがニブチンのフォルにはこのほのかな恋愛感情の芽生えに気づくことが出来なかった。
そもそもそんな高度なものは刻んでいないので無理はなかったのだが。
鈍感なフォルと発展する感情を持つゴーレムとの相性は悪いのは確実だった。
結局、ナンシャンテさんは死んだように動かなくなってしまった。
しかたないので、お姫様抱っこで家に運ぶことにした。
悲しいかな、しぼんで軽くなってしまった。
家に着くと彼女ををベッドに寝かせた。
「アルテアはそこのソファーに寝ると良いよ。僕には小さすぎるんだ」
「うん!! フォルくんおやすみなさい……」
僕は長髪をほどくとゴーレム製作のテーブルで寝た。
こんなとこで寝たこと無いなぁ。冷たいし、硬いし、痛いし。ゴーレムってこんな気分なのかなぁ。
「コンコンコンコン!!」
ノック音で目を覚ました。これはマルシュだ。
「おはよーーー!!フォル!! 今日も元気に……」
ソファーには見慣れぬ女が、寝ているし、ベッドには見知った女が寝ている。
「うえあーーー!!! も〜やだーーー!!」
マルシュは泣きながら帰っていった。
僕はと言うととりあえずナンシャンテさんの肩を揺すった。
「ひいっ!! 死んでるッ!!」
……ように見えただけだった。
美人だった彼女はもういない。ミイラみたいなもんだ。
「うーん、なんとかして元気付けられないかな……そうだ!!」
僕はまたもや彼女をお姫様抱っこすると、アルテアに声をかけた。
「ちょっと出かけてくるよ!! 家で大人しくしててね」
そう声をかけるとアルテアはソファーの中でうなづいた。
もし、ナンシャンテさんを復活させる要素があるとしたら……。
僕はバー「走る仔馬亭」のシャッターを叩いた。
「ダンツさん!!ダンツさん!!」
内側から唸り声が聞こえる。
「う〜ん。誰だこんな朝っぱらから!! ウチは昼から……うお!!」
大男なのにダンツさんは思わずのけぞった。
「なんだそれ、土左衛門か!? そんなもん拾ってくるなよォ!!」
とにかく僕は彼女を担ぎ込んでテーブルに座らせた。
「ダンツさん、お酒をください!!」
未成年が土左衛門を拾ってきて、酒を頼む。
わけのわからないシチュエーションにマスターは混乱した。
「ええい。ほらよ。ったく代金は払えよ。最近の小僧は……云々(うんぬん)カンヌン……」
そして僕はナンシャンテさんの唇(くちびる
)にビールジョッキをくっつけた。




