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木の股から生まれた男

僕、フォル・バークライトは二足(にそく)のわらじを履(は)いている。


1つは本業であるゴーレムの製造、調律(ちょうりつ)、修理など。


もう1つが町医者(まちいしゃ)としての診療所(しんりょうじょ)勤(づと)めだ。


ジリーじいさんが医院長(いいんちょう)のジリー診察所(しんさつじょ)にだ。


彼には受験勉強の頃からお世話になっていて、医術知識(いじゅつちしき)とオペを叩(たた)き込(こ)んでくれた恩人(おんじん)だ。


宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)に合格できたのは彼のおかげと言っても過言(かごん)ではない。


魔術師(まじゅつし)に就(つ)いた後も、医院長(いいんちょう)の誘いで医者を続けることになった。


診療所(しんりょうじょ)は1日おきくらいに出ていって、午前か午後だけやって帰ってくる。


若い医者が珍しいのか、いつも僕の枠(わく)は予約で埋(う)まっている。


患者(かんじゃ)さんからは″先生″などと呼ばれるのだが、それはいくらなんでも大げさだと思う。


ちなみに、たまに女性の裸(はだか)を診(み)ることもあるが、そういう時はいやらしい気分にはならない。


同様(どうよう)にいくら精巧(せいこう)なゴーレムであってもそうである。


公私(こうし)を使い分けていると言えるのかも知れない。


工房(アトリエ)に帰ろうと道具を片付けているとルルゥさんがささやくように声をかけてきた。


「ね。フォルくん。私とデートいかない?」


「!?」


これはまずい。ルルゥさんはマルシュ以上にファンが多い。


下手に動くとそれこそ男連中(おとこれんちゅう)から袋叩(ふくろだた)きにされてしまう。


……とフォルは思っているが、フォルはキャマ屈指(くっし)の色男(いろおとこ)なので、男たちは手の出しようがないのだった。


ルルゥさんは美しく艶(つや)のある長めの黒髪(くろかみ)をシュシュでくくった。


おっとりとした垂(た)れ目、通(とお)った鼻筋(はなすじ)、ぽってりとした柔(やわ)らかそうな唇(くちびる)。


かなり落ち着いた印象を与える顔つきだ。


18歳なのに大人の余裕みたいなものがある。


どっかの監察官殿(かんさつかんどの)に爪(つめ)の垢(あか)を煎(せん)じて飲ませてやりたい。


身長は164くらいとか聞いたことがある。スラッとした美人だ。


マルシュとは正反対(せいはんたい)なタイプである。


「ね? どこいこっか?」


僕は悩みながらメガネを上げた。


うーん、いきなりデートって言われてもなぁ。


「じゃ、お姉さんがきめちゃお♪」


マルゥさんは僕の腕に抱きついた。


デッッッ!!!


お姉さんとは言っても1歳しか違わないが。それでも妙な説得感(せっとくかん)があった。


やってきたのはスイーツ専門店(せんもんてん)″素逸庵(すいつあん)″だ。


古今東西(ここんとうさわい)のスイーツが揃(そろ)っている人気店だ。


女性客が多く、僕が入っていくと店がざわついた。


思わず低いハリに頭をぶつけてしまった。


「うふふ」


「きゃ〜」


「かわいい〜」


どうもアウェイな感じがする。


それでもルルゥさんは微笑(ほほえ)みかけてくれた。


「ほら、固くならないの。スイーツ、大好きなんでしょ? フォルくんのこと、何でも知ってるんだから。ふふ」


スパイが居る!?


そういうわけでルルゥさんと一緒にスイーツを楽しんだ。


オススメのこのアンコという、マメを練(ね)ったようなものはまろやかな風味(ふうみ)で美味(おい)しかった。


クリームもいいけど、こちらのほうが上品(じよょうひん)な気がする。


思わず夢中(むちゅう)でスイーツを食べていると突然、僕の頬(ほほ)にルルゥさんが触れた。


「もう。ついてるぞ」


そう言いながら彼女は顔のクリームをすくいとってくれた。


「あ……えへへ……」


思わず僕は後頭部(こうとうぶ)を掻(か)いた。


「ふふ。まいったな。フォルくんには母性本能(ぼせいほんのう)、くすぐられちゃうな。さ、次に行こうか」


「次?」


だが、僕はもうお腹(なか)がいっぱいだった。


「次はカフェにいこ。大丈夫。空気を楽しむようなものだから」


せっかくのお誘(さそ)いということで、僕は続けてパーラー「サンシャイン」のパラソル席に座った。


コーヒーが届くと僕らは一息ついた。


キャマの潮風(しおかぜ)が心地(ここち)よい。


するとルルゥさんが尋(たず)ねてきた。


「ね、マルシュちゃんとデート行ったんでしょ。で、どうだった?」


あれだけマルシュファンが集まっていたのだ。


情報が漏(も)れないわけがない。


「どう……といいますと?」


僕はその質問の意図(いと)を計(はな)りかねた。


「どうって……どんな話をしたかよ」


急に言われても困るなと僕は目線を泳(およ)がせた。


さすがに黙(だま)っていたほうが良いことと、そうでないことの分別(ふんべつ)はついているつもりだ。


おそらく家政婦(かせいふ)の話題はokだろう。


お嫁(よめ)さんになりたいはngだ。


よし。話がまとまって僕は語りだした。


「えっと。査定(さてい)が大丈夫そうな事を気遣(きづか)ってもらって……。こんな良い家政婦(かせいふ)さんがいるのって幸せだなって」


するとルルゥは素(す)っ頓狂(とんきょう)な声をあげた。


「家政婦(かせいふ)ゥ!?」


周(まわ)りの人の視線(しせん)が刺(さ)さる。


思わずルルゥさんは頭を伏(ふ)せた。そして再び確認をとってきた。


「家政婦(かせいふ)って……マルシュちゃんのこと?」


僕は特に深く考えるわけでもなく首を縦(ため)に振った。


「ええ。良い家政婦(かせいふ)とか、家事手伝(かじてつだ)いかなと。毎日来てくれますし」


ルルゥは恋のライバルの脱落(だつらく)をしめたと思いつつも、マルシュの不憫(ふびん)さに同情した。


毎日、フォルに会いたいが故にやってくるのだろうが、それが仇(あだ)になってしまった。


そもそも幼馴染(おさななじみ)なのに、付き合う気配がないというのはつまりそういうことなのである。


このままでは自分も同僚(どうりょう)から先には進まないだろうが、いくらなんでも家政婦(かせいふ)さんよりは見込(みこ)みがある。


そういえばマルシュに″夢(ゆめ)はなにか?″と聞かれたのを思い出した。


僕はそれを何気(なにげ)ない話題として振ってみた。


それをチャンスとしてルルゥはカマをかけてみた。


「わたしの夢(ゆめ)……? そーだなー。お嫁(よめ)さんになりたい……かな」


マルシュとのシンクロテレパシーか!?


思わず僕は、そう口走(くちばし)りそうになった。


「誰のお嫁(よめ)さんになりたいんだと思う?」


「ぼ……ぼくぅですか?」


まさかのリアクションにルルゥの心臓(しんぞう)は爆発しそうになった。


「今、なんて!?」


「いや、だから″ボクゥ″ですよ。船乗(ふなの)りで一番カッコいいとウワサのボクゥ」


それを聞いたルルゥは脱力(だつりょく)してへなへなとダウンしてしまった。


そんなにボクゥが期待外(きたいはず)れだったのかと僕は首をひねった。


「う〜ん、カッコいいって評判なんだけどなぁ」


フォルもフォルで意地悪(いじわる)や、悪気(わるぎ)があってやっているわけではない。


他の面では全く問題ない常識人(じょうしきじん)だが、本当に女心(おんなごころ)というものがわからないのである。


恋愛(れんあい)のシチュエーション全般(ぜんぱん)に鈍(にぶ)く、今日のような付き合いを色恋沙汰(いろこいざた)と認識(にんしき)すらしていないことさえある。


彼には木(き)の股(また)から生まれたという言葉がふさわしい。ふさわしすぎる。


トラウマかなにかでこうなったわけではなく、昔っからこんな感じなのだ。


その見た目からして、学生の頃はモテにモテまくったが、恋愛フラグにさえ起こらなかった。


フラグを折(お)るというよりはまるで見えないようにスルーしていく。     


まさにアウトオブ眼中(がんちゅう)である。


マルシュもルルゥも毎度毎度(まいどまいど)、熱心にアプローチするのだが、まさに暖簾(のれん)に腕押(うでお)しである。


それでも彼女らが諦(あきら)めないのはフォルのルックスや人柄(ひとがら)、そして優しさに強く惹(ひ)かれているからだ。


誰かにはとられたくない。とられてたまるか。独占欲(どくせんよく)。


それでも彼女らがフォルにアタックするのは恋は盲目(もうもく)というやつである。


果たしてフォルと結(むす)ばれる女性は存在するのだろうか?


いや、いないと思うぞ。

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