お嫁さんになりたいな
今日は約束のピクニックの日だ。
今日の僕の髪型は垂らしたポニーテールを上にもってきてくくった。
待ち合わせ場所は街の中央のビルニ噴水である。
ここはよく待ち合わせに使われるが、逆に言えばここくらいしかちょうどいいロケーションがないのである。
「フォル!! やっほー!!」
赤い上着に朱と白のチェックのスカート、色気のない茶色のズックを履いてマルシュはやって来た。
いい意味で垢抜けしていない。
「いや、今、来たところ」
こころなしか、噴水に人が多い気がする。微妙に殺意を感じる。
いつものことであるが、これはマルシュのおっかけだ。
こんなんでいて、マルシュにはファンが多い。
まずストレートに可愛らしい。あどけなく、屈託がないのだ。
天真爛漫と言うか、穢れをしらないというか。
基本的にはメンタルも元気印なのが高評価なんだそうだ。
街のみんなに″通い妻″だ!!と囃し立てられることもあるが、なんというか、こう″お手伝いさん″という表現が近い。
あまりにも身近になりすぎてしまったからだ。
こんな美少女を家政婦にして!!と男連中にぶっ殺されそうな気もするが。
ま、黙っておけばばれないでしょ……。
「じゃあ、いこ。フ〜ォル♪」
マルシュが僕と腕を組んできた。
貧ッ!!
いつものことだが、僕と彼女の身長差のせいで一緒に歩くとぶら下がり健康器みたいになってしまう。
そして僕らは街のそばの大きな木の下に来た。
ピクニックからとられた″ニック″という名の大木だ。
キャマ・クーラはそこまで広い街ではないので、デートでもしようものならすぐウワサになる。
なので、静かに過ごしたいカップルはここにくるのである。
まぁ、僕らはアベックでもなんでもないけど。
なんだかマルシュは心配そうな顔をしていた。
そこで、僕はそんな彼女の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? そんな不安げな顔して」
彼女は重い口を開いた。
「もし、さ。フォルが査定に通らなかったらどうしようって。ゴーレム作れなくなっちゃってさ。廃業したら街にいられなくなっちゃうのかなって……」
僕は首と手を左右に振った。
「いや、さすがにそれは、大げさだよ。第一、町医者で食ってくとこだって……」
するとマルシュはしくしくと泣きはじめてしまった。
「え? マルシュさん?」
そして彼女は僕に抱きついてきた。
貧ッ!!
「うわあああん!! 心配したんだよぉ!!」
そういってしばらくの間、彼女は泣きじゃくっていた。
こんなに真剣になって心配してくれるお手伝いさんが……。
こんな身近にいたんだ。
僕もちょっと感動しちゃったな。
「ほら、いつまでも泣いてないで。パイ、焼いてきてくれたんだろ? 一緒に食べようよ!!」
こうして僕らはマルシュが作ってきてくれたパイを食べた。
ノンノ家直伝の4色パイ(キャトーレ)である。
アップル、ブルーベリー、ピーチ、ストロベリーと果物をふんだんに使ったパイである。
「うわぁ!! これこれ。おばさんによろしく言っといてよ!! マルシュのお母さんの焼いてくれるパイは絶品だからね」
そういうとマルシュは僕を肘でつついた。
「何ゆってんの。これ、全部私がつくったんだかんね」
僕は目を見開いた。
「すごいじゃないか!! おばさんのと遜色ないよ」
マルシュは微笑んで、パイを差し出した。
「さ。冷めないうちに早く食べよ」
たらふくパイを食べると僕は仰向けに寝転がった。
そばの少女が声をかけてくる。
「もー、食べてすぐ横になるとウシになっちゃうんだよなるんだよ?」
僕は即答した。
「はいはい。迷信迷信」
その後も僕らはとりとめのない会話を続けた。
「ねぇマルシュ。僕、思ったんだけど、それだけ、パイの腕が上がったならパイ屋さん開けるんじゃない?小さい頃からなりたいって言ってたじゃない」
普段、彼女は実家の薬草や花を売る店の手伝いをしている。
だが、これならお世辞ではなく、本当にパイ屋が開けそうである。
「お店の土地もあるしね。考えてみたら?」
マルシュは迷っているようだったが、顔色があかるくなった。
「う、うん。そうだよね!! フォルがそう言ってくれるなら、私、考えてみるね!!」
僕がまどろんでいると少女は声をかけてきた。
「ねぇ、フォルの夢って何?」
なんだやぶからぼうに……。
僕は少し考えて答えを出した。
「みんなのためになる立派なゴーレム使いかな」
それを聞いたマルシュは笑い始めた。
「はは。フォル、さすがにそれは模範解答すぎるよ!!」
僕は跳ね起きた。
「そうかなぁ? じゃあ、マルシュの夢ってなんなのさ?」
すると、彼女はモジモジしはじめた。
「その……えっと……お嫁さんかな」
マルシュはそう言ってはにかんだ。
お嫁さん? マルシュの人気なら相手は掃いて捨てるほどいるだろう。
それを夢にするとは解せない。ハードルが低すぎないか?
「んも〜!!黙らないでよ!! 反応に困るぢゃん!!」
僕はあたりざわりのない返答でお茶を濁した。
「まぁお嫁さんは女性の夢の代表格っていうしね。良いお嫁さんになれるといいね!!」
「ああ……うん」
なんだか反応が渋い。特に問題はなかったはずだが。
腹がこなれると僕らは近場の小川で川遊びを始めた。
水遊びもデートのテンプレ……らしい。
川べりに座って、脚を浸しているとマルシュが水をかけてきた。
「ほれほれ〜」
「あっはは!! 冷たいよ〜」
あれこれ逆じゃないか?
「反撃〜!!」
こちらから水をかけはじめると突然の奇襲にマルシュが川底に滑った。
そのまま尻もちをついて水浸しになってしまった。
「あいったぁ……つめた〜」
僕はそのタイミングを見逃さなかった。
透ッ!!見ッ!!
上下セットのレース付きの黒ッ!!
う〜ん、清楚なイメージに反してセクシーな下着……凄まじいギャップの破壊力!!!
エッ!!でも貧……。
「きゃあああああ!!!! フォルのエッチィ!!!!」
当然のごとく平手打ちが飛んできた。それによって僕の頬にもみじ饅頭が出来てしまった。
帰り道、僕はさんざん謝った。
「ごめんて。不可抗力だよ不可抗力」
不可抗力ではなかったが
「フォルのエッチ」
何も言い返すことは出来なかった。
いくらちんちくりんとは言え、見えてしまったものは見えてしまったものである。
あえて言うことがあるとすればごちそうさまと。
そう言って感謝することしか僕には出来なかった。
おばさんに事情を説明してマルシュを家に送り届けた。
おばさんとマルシュに頭を下げて僕は家路についた。
「こりゃしばらく許してくれないぞ……」
このフォルと言う男は女性からのアピールに絶望的に疎い。
そのくせして、人並みに女体に興味はある。
俗に言うむっつりスケベというやつである。
健全な青年であるからして、当然と言えば当然なのだが。
ジトッとしたそれではなく、割とさわやかなのも特徴的である。
さわやかなスケベってなんだよ。




