↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/57

お嫁さんになりたいな

今日は約束のピクニックの日だ。


今日の僕の髪型(かみがた)は垂(た)らしたポニーテールを上にもってきてくくった。


待ち合わせ場所は街の中央のビルニ噴水(ふんすい)である。


ここはよく待ち合わせに使われるが、逆(ぎゃく)に言えばここくらいしかちょうどいいロケーションがないのである。


「フォル!! やっほー!!」


赤い上着(じょうげ)に朱(あか)と白のチェックのスカート、色気(いろけ)のない茶色のズックを履(は)いてマルシュはやって来た。


いい意味で垢抜(あかぬ)けしていない。


「いや、今、来たところ」


こころなしか、噴水(ふんすい)に人が多い気がする。微妙(びみょう)に殺意(さつい)を感じる。


いつものことであるが、これはマルシュのおっかけだ。


こんなんでいて、マルシュにはファンが多い。


まずストレートに可愛(かわい)らしい。あどけなく、屈託(くったく)がないのだ。


天真爛漫(てんしんらんまん)と言うか、穢(けが)れをしらないというか。


基本的にはメンタルも元気印(げんきじるし)なのが高評価なんだそうだ。


街のみんなに″通(かよ)い妻(づま)″だ!!と囃(はや)し立てられることもあるが、なんというか、こう″お手伝(てつだ)いさん″という表現が近い。


あまりにも身近(みぢか)になりすぎてしまったからだ。


こんな美少女(びしょうじょ)を家政婦(かせいふ)にして!!と男連中(おとこれんちゅう)にぶっ殺(ころ)されそうな気もするが。


ま、黙(だま)っておけばばれないでしょ……。


「じゃあ、いこ。フ〜ォル♪」


マルシュが僕と腕を組んできた。


貧(ひん)ッ!!


いつものことだが、僕と彼女の身長差(しんちょうさ)のせいで一緒に歩くとぶら下(さ)がり健康器(けんこうき)みたいになってしまう。


そして僕らは街(まち)のそばの大きな木の下に来た。


ピクニックからとられた″ニック″という名の大木(たいぼく)だ。


キャマ・クーラはそこまで広い街(まち)ではないので、デートでもしようものならすぐウワサになる。


なので、静かに過ごしたいカップルはここにくるのである。


まぁ、僕らはアベックでもなんでもないけど。


なんだかマルシュは心配そうな顔をしていた。


そこで、僕はそんな彼女の顔を覗(のぞ)き込んだ。


「どうしたの? そんな不安(ふあん)げな顔して」


彼女は重い口を開いた。


「もし、さ。フォルが査定(さてい)に通らなかったらどうしようって。ゴーレム作れなくなっちゃってさ。廃業(はいぎょう)したら街(まち)にいられなくなっちゃうのかなって……」


僕は首と手を左右に振った。


「いや、さすがにそれは、大げさだよ。第一、町医者(まちいしゃ)で食ってくとこだって……」


するとマルシュはしくしくと泣きはじめてしまった。


「え? マルシュさん?」


そして彼女は僕に抱(だ)きついてきた。


貧(ひん)ッ!! 


「うわあああん!! 心配したんだよぉ!!」


そういってしばらくの間、彼女は泣きじゃくっていた。


こんなに真剣(しんけん)になって心配してくれるお手伝(てつだ)いさんが……。


こんな身近(みぢか)にいたんだ。


僕もちょっと感動しちゃったな。


「ほら、いつまでも泣いてないで。パイ、焼いてきてくれたんだろ? 一緒(いっしょ)に食べようよ!!」


こうして僕らはマルシュが作ってきてくれたパイを食べた。


ノンノ家直伝(けじきでん)の4色(しょく)パイ(キャトーレ)である。


アップル、ブルーベリー、ピーチ、ストロベリーと果物(くだもの)をふんだんに使ったパイである。


「うわぁ!! これこれ。おばさんによろしく言っといてよ!! マルシュのお母さんの焼いてくれるパイは絶品(ぜっぴん)だからね」


そういうとマルシュは僕を肘(ひじ)でつついた。


「何ゆってんの。これ、全部私がつくったんだかんね」


僕は目を見開いた。


「すごいじゃないか!! おばさんのと遜色(そんしょく)ないよ」


マルシュは微笑(ほほえ)んで、パイを差し出した。


「さ。冷(さ)めないうちに早く食べよ」


たらふくパイを食べると僕は仰向(あおむ)けに寝転(ねころ)がった。


そばの少女が声をかけてくる。


「もー、食べてすぐ横になるとウシになっちゃうんだよなるんだよ?」


僕は即答(そくとう)した。


「はいはい。迷信迷信(めいしんめいしん)」


その後も僕らはとりとめのない会話を続けた。


「ねぇマルシュ。僕、思ったんだけど、それだけ、パイの腕(うで)が上がったならパイ屋(や)さん開けるんじゃない?小さい頃からなりたいって言ってたじゃない」


普段、彼女は実家(じっか)の薬草(やくそう)や花を売る店の手伝(てつだ)いをしている。


だが、これならお世辞(せじ)ではなく、本当にパイ屋が開けそうである。


「お店の土地もあるしね。考えてみたら?」


マルシュは迷っているようだったが、顔色があかるくなった。


「う、うん。そうだよね!! フォルがそう言ってくれるなら、私、考えてみるね!!」


僕がまどろんでいると少女は声をかけてきた。


「ねぇ、フォルの夢(ゆめ)って何?」


なんだやぶからぼうに……。


僕は少し考えて答えを出した。


「みんなのためになる立派(りっぱ)なゴーレム使いかな」


それを聞いたマルシュは笑い始めた。


「はは。フォル、さすがにそれは模範解答(もはんかいとう)すぎるよ!!」


僕は跳(は)ね起(お)きた。


「そうかなぁ? じゃあ、マルシュの夢(ゆめ)ってなんなのさ?」


すると、彼女はモジモジしはじめた。


「その……えっと……お嫁(よめ)さんかな」


マルシュはそう言ってはにかんだ。


お嫁(よめ)さん? マルシュの人気(にんき)なら相手(あいて)は掃(は)いて捨(す)てるほどいるだろう。


それを夢(ゆめ)にするとは解(げ)せない。ハードルが低すぎないか?


「んも〜!!黙(だま)らないでよ!! 反応に困るぢゃん!!」


僕はあたりざわりのない返答(へんとう)でお茶を濁(にご)した。


「まぁお嫁(よめ)さんは女性の夢の代表格(だいひょうかく)っていうしね。良いお嫁(よめ)さんになれるといいね!!」


「ああ……うん」


なんだか反応が渋(しぶ)い。特に問題はなかったはずだが。


腹(はら)がこなれると僕らは近場(ちかば)の小川(おがわ)で川遊(かわあそ)びを始めた。


水遊(みずあそ)びもデートのテンプレ……らしい。


川べりに座って、脚(あし)を浸(ひた)しているとマルシュが水をかけてきた。


「ほれほれ〜」


「あっはは!! 冷(つめ)たいよ〜」


あれこれ逆(ぎゃく)じゃないか?


「反撃〜!!」


こちらから水をかけはじめると突然の奇襲(きしゅう)にマルシュが川底(かわぞこ)に滑(すべ)った。


そのまま尻(しり)もちをついて水浸(みずびた)しになってしまった。


「あいったぁ……つめた〜」


僕はそのタイミングを見逃さなかった。


透(すけ)ッ!!見(み)ッ!!


上下(じょうげ)セットのレース付(つ)きの黒(くろ)ッ!!


う〜ん、清楚(せいそ)なイメージに反(はん)してセクシーな下着(したぎ)……凄(すさ)まじいギャップの破壊力(はかいりょく)!!!


エッ!!でも貧(ひん)……。


「きゃあああああ!!!! フォルのエッチィ!!!!」


当然(とうぜん)のごとく平手打(ひらてう)ちが飛んできた。それによって僕の頬(ほほ)にもみじ饅頭(まんじゅう)が出来てしまった。


帰り道、僕はさんざん謝(あやま)った。


「ごめんて。不可抗力(ふかこうりょく)だよ不可抗力(ふかこうりょく)」


不可抗力(ふかこうりょく)ではなかったが


「フォルのエッチ」


何も言い返すことは出来なかった。


いくらちんちくりんとは言え、見えてしまったものは見えてしまったものである。


あえて言うことがあるとすればごちそうさまと。


そう言って感謝することしか僕には出来なかった。


おばさんに事情を説明してマルシュを家に送り届けた。


おばさんとマルシュに頭を下げて僕は家路(いえじ)についた。


「こりゃしばらく許(ゆる)してくれないぞ……」


このフォルと言う男は女性からのアピールに絶望的(ぜつぼうてき)に疎(うと)い。


そのくせして、人並(ひとな)みに女体(にょたい)に興味はある。


俗(ぞく)に言うむっつりスケベというやつである。


健全(けんぜん)な青年であるからして、当然(とうぜん)と言えば当然(とうぜん)なのだが。


ジトッとしたそれではなく、割(わり)とさわやかなのも特徴的(とくちょうてき)である。


さわやかなスケベってなんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。