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キミには花の名前を

僕は蒼(あお)の術式(じゅつしき)に触れて、起動のマークを刻(きざ)んだ。


「セーフモードで起動!!」


ゴーレムは想定外(そうていがい)の挙動(きょどう)を防ぐためにまずはセーフモードで立ち上げる。


この段階で問題がなければ本起動(ほんきどう)に移行する。


そしてガーリー・ゴーレムは目覚めた。


髪(かみ)の色は赤みがかった茶色で丈(たけ)はミドル。


顔はアイドルが元らしく、端正(たんせい)で整(ととの)いつつ、愛嬌(あいきょう)のある顔つきだ。


とんでもない美少女とも形容(けいよう)できた。


思わず僕はメガネを上げた。


体格(たいかく)は大きくもなく小さくもなく。


身長はやや高めに仕上げてある。


165といったところだろうか。


彼女はゆっくりテーブルから起き上がるとあたりを見回した。


「フォル・バークライト。あなたがマスターですね?」


だが、その呼び方は僕(ぼく)にとっては気にくわなかった。


マスターと呼ばせるのはテンプレートもいいところだからだ。


「僕はマスターじゃないよ。いくつか候補(こうほ)を提示(ていじ)して」


少し強めの精神負荷(せいしんふか)をかけてみる。


ゴーレムは人差(ひとさ)し指(ゆび)を頬(ほほ)に当てて考え始めた。


人間がするような自然な仕草(しぐさ)だ。


おもわずナンシャンテさんが声を上げる。


「うおっ、すっご!!」


そして彼女は呼び名を提案してきた。


「フォル、フォルくん、フォルきゅん、フォルさん、フォル殿(どの)、バークライト博士(はかせ)、先生……」


「僕は……そうだな。無難(ぶなん)にフォル君(くん)にしとくよ」


完璧(かんぺき)なリアクションだ。更に負荷(ふか)をかけてみる。


「じゃあキミの名前は?」


ゴーレムは首を傾(かし)げた。


「私の名前は……まだ無いようです」


データが存在(そんざい)しないとか言い出さないのはかなり高評価(こうひょうか)だ。


名前の認識(にんしき)に関して、極めて自然な反応だと言える。


するとナンシャンテさんが尋(たず)ねてきた。


「そういや、この娘(こ)の精神年齢(せいしんねんれい)はどれくらいなんだ?かなり幼(おさな)いように見えるが」


フォルはゴーレムの肩をポンポンと叩いた。


「今は入力用(にゅうりょくよう)のセーフモードなので、加減(かげん)がわかりませんね。16歳(さい)くらいを想定してはいるんですが……。さて、名前を決めて、本起動(ほんきどう)しましょう。なんてつけますかね?」


ナンシャンテさんは渋(しぶ)い顔をした。


「名前は決定済(けっていず)みだ。一号機(いちごうき)だから″アン″だとよ。おえらいさんの注文だよ」


だが、僕は自然にそれに抗(あらが)っていた。


「きれいな髪(かみ)の色をしてる。同じ色の花の名前からとりましょう。アルテアで」


監査官(かんさかん)はとても驚いていた。そして鼻(はな)で笑った。


「はん。アルテアねぇ。入力(にゅうりょく)ミス入力(にゅうりょく)ミス。あたしは始末書(しまつしょ)かねーぞ」


こうしてアルテアと名付けた後、本起動(ほんきどう)に入ることにした。


「こっからが本番ですよ!! とんでもない人格(じんかく)でも許してくださいね!!」


「おう。期待してるぞバークライトは・か・せ!!」


そして僕は魂名(こんみょう)をなぞってアルテアを起動させた。


「ゴーレム・バース!!」


彼女は半身(はんしん)を起こした。2人に緊張が走る。


「フォ〜ルくん!! アルテアね、ずっとフォル君に会えるの待ってたんだよ!!」


そしてガーリー・ゴーレムはフォルにギュッと抱(だ)きついた。


(くっ、プロレス技か……!!)


僕と監査官殿(かんさかんどの)は顔を見合わせた。


するとアルテアはフォルを離れてナンシャンテのほうへ近づいていった。


「確か、お姉さんがナンシャンテさんだよね? 私、アルテアって言います。よろしくね!!」


思わず彼女は毒気(どくけ)を抜かれてしまった。


「あ、あぁ、よろしくなアルテア……」


僕とナンシャンテさんは顔を見合わせた。


(どうだ?)


(ええ、16歳前後(さいぜんご)にはなってますね。年相応(としそうおう)の社交性(しゃこうせい)もある。成功です!!)


どこかしらいじわるな雑念(ざつねん)が入っていても良さそうなものだが、彼女には非(ひ)の打(う)ち所(どころ)がなかった。


フォルが入れ込(こ)んだアイドルの汚(きたな)い部分をフィルターで濾(こ)し取ったような形になったのだ。


こうしてガーリー・ゴーレムの創造(そうぞう)プロジェクトは幕(まく)を下ろした。


この出来ならば確実に査定(さてい)を通るだろう。


ナンシャンテさんもご機嫌(きげん)そうだった。


「いやー、フォル君、よくやってくれたよ。アルテアは私が責任をもって魔術局(まじゅつきょく)に送り届(とど)けておくから。キミも本当にお疲れ様。また会えると良いな」


彼女は背を向けてぼやいた。


(チェッ、同じ屋根(やね)の下に居(い)て本当に″ナニ″もなかったじゃないかよぉ。惜(お)しいなぁ。なかなかいないぞあんなイケメン……)


なんだかんだで一週間ほど働(はたら)きっぱなしだった僕は疲労困憊(ひろうこんぱい)で数日間、眠りこけた。


「コンコンコンコン」


いつもの声がなだれ込んでくる。


「んもー!! 寝てばっかだと身体がなまっちゃうよ!! ほら!日光浴日光浴!!」


なぜだかマルシュも戻ってきてすっかりいつもの生活が戻ってきた気がする。


いままで通り、ゴーレム関係の仕事もすれば、町医者(いしゃ)もやっていけている。


代わり(か)映(ば)えのない日常ほど尊(とうと)いものは無い。


ひとまず危機(きき)の去った僕は工房(こうぼう)の岬側(みさきがわ)にある石碑(せきひ)に声をかけた。


「じっちゃん、父さん、母さん……僕(ぼく)、なんとか宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)、続けられそうだよ。


そして、石碑(せきひ)に酒をかけた。


碑(ひ)には″たといはなるるともバークライトは共に″と刻(きざ)まれている。


ここで僕と家族はある誓(ちか)いをした。


4人、世界へ旅立って、バークライト流ゴーレムを広めようと。


それを家族内では″傀儡(くぐつ)の誓(ちか)い″と呼んでいる。


その中でも結局、僕だけが故郷(こきょう)に残ることになった。


宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)を続けていけるようにとの計(はか)らいだ。


この工房(アトリエ)はじっちゃんのお古(ふる)なのである。


家族は宮廷魔術師(きゅうていまじゅつし)を誇(ほこ)りに思ってくれているので、こんなところで再試験(さいしけん)にかけられるわけにはいかな い。


「……まぁ、しんみりしちゃったけど、全員生きてるんだけどね」


家に帰るとマルシュが来ていた。


「やあマルシュ。なにか用事かい?」


彼女の隣りに座ると酷く小さく見える。


というか、実際、小さい。140cmそこそこしかないのだ。


小動物的(しょうどうぶつてき)な可愛らしさがあると言えるのかも知れない。リスみたいなもんだろうか。


今に始まったことではないが、彼女からしたら逆に僕はさぞかしデカ男に見えていることだろう。


「ねえ、ねえねえ。査定(さてい)も一段落したんでしょ? そしたらさ、その……あたしとぴっ、ピクニックに行かない? と、とっておきのパイ、焼いてくからさ!!」


なぜだかわからないが、マルシュは時々、しゃべりかたがたどたどしくなる。


脳(のう)かなんかの病気じゃないだろうな?


僕は気を使って声をかけた。


「どうしたのマルシュ。そんなに焦(あせ)って。顔が赤い気もするよ。熱とか無い? 大丈夫?」


僕は彼女のおでこに手をやった。


「ッッッ!!!!」


彼女はますます真っ赤になってしまった。


「ただだ大丈夫(だいじょうぶ)よフォル!! っていうかねぇ、気安(きやす)くレディの身体(からだ)に触れるんじゃないわよ!! デリカシーの無い男!! フン!!」


彼女はプンスカしながら出ていってしまった。


「ん〜? 僕、そこまで悪いことしたかな」


流石にこれには首を傾(かし)げざるを得(え)なかったんだな。


一方のマルシュは扉(とびら)の向(む)こうで額(ひたい)を覆(おお)ってしゃがみこんでいた。


「あちゃあ〜。あんなこと言うつもり、なかったんだけどなぁ。どうしてこうなっちゃうかな。フォル、ごめんね……」


マルシュは素直(すなお)になれない性格で、いつもこんなことを繰り返している。


もっとも勇気を出した所でフォルにはその意図(いと)が伝わらないだろうが。


それに出来れば今の関係性(かんけいせい)を崩(くず)したくない。


思春期少女(ししゅんきしょうじょ)は常(つね)に揺(ゆ)れ動(うご)いているのだ。

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