恋愛面における幼児退行
ある日、僕は書斎に監禁され、宙ぶらりんにされていた。
「最近っ、随分っ、女の子がッ!!増えたじゃない?!」
サンドバックのようにボコボコボディーブローを喰らう。
ごほっ
「おまけにっ、あのハルネとかいう、女は何なのよ!!」
げふっげふっ
「だいたいね、一番目は!! 私なのよ!? 浮気もいいところじゃない?」
ぐふっぐふっ
「良い度胸、してるじゃ、ないのっ!!」
強烈なストレートが腹部に決まった。
それをルーメンがかばった。
「クライトさんこらえてっす!!これ以上やったら死んじゃうっす!!」
虫を見下すような冷たい視線を感じる。
「ふん。今日はこのくらいにしといてあげる」
多分、クライトは一番、嫉妬深いゴーレムだ。
ちょっと女の子との浮いたウワサがあるとこうやってしこたま殴ってくる。
フォルの態度からするとこれくらいボコされてもしょうがないところはあるのだが。
むしろまともな感覚の女子なら強度はともかく、これくらいやってもおかしくはない。
自業自得というやつだ。
だからルーメンはドン引きしつつも口を挟むことはしなかった。いや、出来なかった。
ただ彼女はただのDV嫁というわけではない。
フォルがまともにしているうちは優しい姐さん女房といった感じなのである。
彼女は屋外のガレージから通じる地下窓からやってくる。
「ふふっ。フォル。今日も徹夜? ほどほどにするのよ」
「はい。お茶。熱いからヤケドしないでね」
「う〜ん、そっかぁ。やっぱムリに協会にいくことはないわね」
「ルーメンちゃん。よく出来たわね。いい子いい子してあげる」
面倒見もよく、話も聞いてくれる。
「そういえばさ〜、この間、変な夢を見てさ〜幽霊とキスする夢だった……ふぐっ!!」
クライトの平手打ちが決まった。往復ビンタだ!!
ルーメンはおもわず目を背けた。
余計なこと言わなきゃいいのに。そう思った。
ある日、フォルは深刻な顔をしていた。
何事かとルーメンは尋ねた。
「フォルさん、どうしたんすか。そんな考え込んでっす」
僕は重い口を開いた。
「クライトを……矯正しようと思う」
ルーメンは目を見開いた。
「そんな!! 矯正なんかしたらクライトさんの人格は……」
残念に思いつつも僕は首を左右に振った。
「人に危害を加えるゴーレムは見逃せないんだよ。クライトは度を過ぎてる。悲しいけど、やるしかないんだ……」
おもわずルーメンは崩れ落ちてしまった。
「そんな……そんな……」
そうこうしていると窓を開けてクライトがやってきた。
「2人共、おはよう」
僕は彼女を笑顔で迎えた。
「クライト!! おはようのハグ!!」
「あ〜ん。あなた、うれ……」
グギリッ!!
バークライト流の秘孔突きが決まり、クライトは機能停止した。
「本当に、本当にやるんすか!?」
邪魔なガキだ。僕はルーメンを振り払った。
それでもコイツは僕にまとわりついてきた。
「もし、お前が同じように殴られたらどうすんだよ。俺はボコボコにやられて痛かったんだぞ?!お前だって殴られてみるか? あぁ!?」
ルーメンの涙がピタリと止まった。彼女はとても動揺していた。
「いいか、俺はこのゴーレムのために言ってんだ。うっかり人様を殴ってみろ。ブタ箱行きだろ? 連帯責任で俺もブタ箱行きだ。たまったもんじゃねーぞ!! だから俺にはコイツを矯正する権利があんだよ。マスターは好き勝手に矯正していいんだよ!!」
それでもルーメンはフォルの脚にしがみついてきた。
「どーしたんすかフォルさん!! いつものフォルさんとは別人っすよ!? フォルさんがそんな事言うわけ無いっす!!」
「おおらぁ!!」
フォルは荒っぽくルーメンを振り払った。
「選べよ。このDVゴーレムを矯正するか、破門になるかを」
「はっ破門……?」
弟子は唇をふるわせた。
「そうだよ。破門だよ。頭の固ぇやつは邪魔なだけだ。大胆かつ適切に判断を下せねぇやつはウチにはいらねぇんだよ。人情とか、そんなくだらねぇもんが大事なら他所に行きな。ま、こんなグズ、他に取ってくれるトコはねぇだろうけどなあ」
それでもルーメンはフォルに泣きついてきた。
「うわああああん!!! 私の好きな、私の大大大好きなフォルさんはそんなこと言わないっす〜〜〜!!矯正はやめてあげて!!どうかやめてあげて欲しいっす〜!!」
ルーメンが号泣しているとクライトはフォルの頭をはたいた。
「もう、やりすぎ」
弟子はグチャグチャになった顔を持ち上げた。
フォルは苦笑いした。
「殴られるとこから既にお芝居だよお芝居。矯正を迫られた時、どう反応するかの抜き打ちテスト。バークライト流的には矯正拒否が正解。まぁルーメンのことだから大丈夫だとは思ってたんだけどね」
それを聞いたルーメンはフォルの胸に飛び込んでポカポカと殴りだした。
「うわああああん!!!!クライトさんとフォルさんの意地悪〜〜〜!!バカバカ〜!!」
こうして僕らの仲は深まった。仲というか絆に近いものがあった。
書斎に入り浸っているのは僕とクライトとルーメン、ジェム(封印)だけだったので、リビングとまた違う雰囲気が漂っていた。
険悪な空気にはならないので、とてもアットホームだし、なんだか家族みたいだった。
「ふふっ。フォルが旦那さん、私がお嫁さん、ルーメンちゃんが娘ちゃんみたいな感じかしら?」
またまたご冗談を。僕まだ17ですよ?
大体、ルーメンだって15歳位だった気がするし。
「そうだな。お姉さん、弟、妹がしっくりくるんじゃないかな」
3人は揃って笑った。ここなら僕も素に近い顔を出せる。
こんな穏やかなムードをリビングの娘たちは知る由もなかった。
そうだと知ったら居座りたいに決まっている。
特にゴーレム関係のナンテ姉妹なんかは公私ともに死ぬほど欲する環境だろう。
騒々(そうぞう)しいのでまず入れることはないと思うが。
そう考えるとお嫁さんがここにいるのは自然なこととは思える。
ところで、お嫁さんもらったらどんな特典があるのだろうか。
今頃になって僕は考え始めた。
ルルゥさんをお嫁にもらってたらどうなったんだろうな。
スタンプとか押してもらえるのかな?
集めると景品もらえる系の。
そう考えたらもらっといたほうがよかったのかもなぁ。
フォルは大量の女の子に揉まれたせいで、キスだとかお嫁さんというワードにまで無反応になってしまった。
ルルゥの結婚式アタックも良くなかった。
無反応と言うかもはや感覚麻痺に近い。
そしてついには好きか、そうでないかという子どもじみた感情しか持ち合わせなくなってしまった。
恋愛面で完全な幼児退行を起こしたといえる。
もはや軽い精神崩壊である。
ニブチンもここまでいくと哀れと言わざるを得なかった。
しかし、伊達に主人公はやっていない。
そのうち克服して人並みになってくれるだろう。
いや、そりゃないか。




