チビすけ三人組
「コンコンコンコン!!」
そして勢いよくドアが開けられた。
「こんちはー!! みんなおはよう!! 今日のパイはキャロットだよ〜!!」
マルシュは朝ごはんのパイ要員と化していた。
それでも雨が降ろうがヤリが降ろうがほぼ毎日やってくるガッツは半端なかった。
空気が読めないと言うよりはあえて来ているのが余計に強い。
ちょっとやそっとのことでは挫けない元気印の女の子である。
女子連中からはちんちくりんなのもあって、可愛がられている。
あまりライバルとは認識されていないようだが。
「やあフォル!! パイの腕、あがったでしょ!? まっ、私の腕ならざっとこんなもんよ!!」
すると地下の書斎からニコニコしながらルーメンが上がってきた。
「皆さ〜ん。錬金茶、できたっすよ〜」
彼女が淹れる錬金茶は絶品だ。
さすがにマイスターは無いものの、何気にルーメンは錬金術も出来る。
凝った薬品も作れるらしいが、今のところはお茶にしか使っているのを見たことがない。
もったいない気はするのだが。
口調はこんな感じだが、意外とおしとやかで女の子っぽいところもある。
艶のあるピンクの髪をとかしていると色気さえ感じる。
ただ、グリグリメガネが問題だ。
正直、これは外したほうがいいと思う。
「ふふっ、フォルさん。何見てるっすか? ふふっ。面白いものはなんにもないっすよ?」
う〜ん、やっぱ素顔のほうが可愛らしい。
とは言えない。なんとなく。
あまりよろしくないのだが、現状だと助手のおばちゃんに見えてしまう。
そんな事を考えているとまたドアが勢いよく開いた。
「やっほ!! ひさしぶりだなや〜!! 最近は山に籠もっちょってな!! 愛しのフォルに会えんでいたでよ!! はぁ。やっぱフォルはかっちょええのぉ!!
ハンターのトライを持つアンズさんがやってきた。
頭からクマの毛皮を被り、頬には猫のヒゲのように赤いペイントを施している。
肩からは年季モノのスナイパー・ライフルを担いでいた。
みるからに野生児だ。
ガールフレンドの中ではソラが最強だと思っていたが、よく考えたらアンズさんがいた。
黒の術式を刻んでいるとは言え、気配を殺して狙撃されればまず勝ち目はないだろう。
接近されてもなんとか斧で応戦しそうな気配だ。
流石、弱冠13歳のトライマイスターなだけはある。
まぁ2人が戦う機会なんてないんだけどね。
マルシュ、ルーメン、アンズさんが揃うと工房のみんなが微笑みだした。
3人とも背が低くて可愛らしかったからである。
試しに僕は彼女らの身長を聞いてみることにした。
「なっ、何よ!! 141cmよ!! 文句ある!?」
「私は……143cmっすねぇ」
「わっちは139cmじゃ!!」
小せぇ!! 道理で小さく見えるわけだ。
見えるんじゃなくて実際、小さいのだ。
僕が隣に並ぶと小学生と大人くらいの差があった。
だって僕、186cmだもん。
これ、一緒に歩いてたら誘拐犯だと思われかねないねコレね。
道理でぶら下がり健康器になるわけである。
なんとなくこの3人は激しくやり合うかと思ったが、なぜか意気投合した。
マルシュが乗り気だったので、2人を彼女の家に誘うことにした。
アルテアもバイトしていたので4人で合流した。
すぐにマルシュがパイを焼いてきてくれた。
「は〜い。今日はハチミツパイだよ〜!!」
一同は歓声を上げた。そしてありがたくいただくことにした。
フォルは感動していた。工房はなぜかちょっとピリピリしがちだ。
だが、この4人にはそれが全くないのである。
知り合ったばかりなのに親友のように仲良くする。
これぞ求めていたほのぼのライフだった。
すると、ちょっと困り顔でアンズさんが語りだした。
「あっしらの集落では14歳からケッコンするんじゃ。やっぱフォルにしようと思うんじゃが、どうしようかの」
悪気のないジャブだ。これは険悪な空気になるなと覚悟した時だった。
マルシュが無い胸を張ったのである。
「へへーん!! フォルのお嫁さんになるのは私でーす!! 誰にもあげないんだから!!」
燃える。これは燃える。
すると得意げにアルテアも宣言した。
「私はフォルの専属アイドルなんだから!! 専属だよ? せ・ん・ぞ・く」
最後にルーメンもなんやらボソボソ言った。
「わ、わた、わたもし……のことが……っす」
アンズさんもすきっ歯を見せてニカッと笑った。
「わっちを忘れてもらっちゃ困るぞ!! わっちだってフォルだいすきだかんな!!」
これはとんでもないことになった。大規模山火事ですよ。
だが、予想外の展開が待っていた。
女子3人はゲラゲラ笑い出したのである。
そして円陣を組み始めた。
「お互い正々堂々、やるぞーーー!!」
「オーーーーッ!!」
それを聞いていたマルシュのお母さんはニタニタと笑っていた。
「若いって、良いねェ……」
一方の僕は彼女らが一体、何に団結したのかが全くわからなかった。
なんだこれ……パイの誓いか?
きっと、今以上にキャマ・クーラにパイを普及させようと意気投合したんだな!!
う〜ん、素晴らしき友人愛!!
「僕も、みんなに美味しいパイ、焼いてもらいたいな!!」
話が噛み合ってなかった気がするが、みんなが協力してパイを焼いてくれた。
その結果、渾身のパイが出来上がった。
「これぞ!! 究極のゴーゲウス・パイ!!」
マルシュが堂々とそう宣言した。
かなりデカいパイだ。味見してみるとほっぺが落ちるほど美味しかった。
これならキャマ・クーラ中、いや、全国に名を轟かせることになるだろう。
これを配って回って普及させるのか。
すると、女子連中が一切れずつパイを手にとった。
「フォ〜ル!! はい。あ〜ん♥」
「フォル!! 死ぬほどくれてやるぞ!!」
「ふぉる!! わっちのもたべくりゃれ!!」
「あっ……あのぉ。師匠、私のも……」
πッ!!
こうして僕はしこたまパイを食べさせられることとなった。
うっぷ……もう入らないよ……。
でもこれは大きな進展だ。特にマルシュにとっては自信をつけるきっかけになっただろう。
僕とマルシュは木陰に腰掛けた。
他のみんなはお腹いっぱいになったからか、テーブルで眠っていた。
「マルシュ、パイの誓い、素晴らしかったよ」
「は?」
「え?」
あれこれなんか変なこと言ったか?
「パイ、美味しかった?」
僕は笑みを浮かべながらうなづいた。
それを見てか、なぜかマルシュが近づいてきた。
「パイが美味しかったのなら、きっと私のキスも美味しいよ……」
「ちゅっ」
温かい唇が触れる。
(これは……キス!! スズキ目、キス科の淡白な味が特徴で……)
「フォルのばーーーーか!!!!」
キスを決めるとマルシュがはにかんだ。
そしていたずらっ子のように走り去ってしまった。
アルテアはともかく、こうして低身長同盟が出来上がった。
ハルネのように卑怯な真似をせず、正面からフォルに当たるという趣旨の同盟だ。
長い事この同盟は続き、関係性も良好だった。
しかしその悠長な姿勢のスキを突いた、マルシュの大胆な奇襲攻撃は大成功してしまうのだった。




