病院でオトナの余裕キス
建築開始から3ヶ月ほどかかってついに丘の上に大きな病院が建った。
ソラが協力してくれるようになってからというもの、物資や人材の流れが非常にスムーズになった。
そのため、かかった期間の割には立派な病院になった。
集まったドクターや看護師は感極まって泣いていた。
キャマ・クーラ待望の大病院だったからだ。
これで、この一帯の怪我人、病人をカバーすることが出来る。
病院名は「バークライト記念病院」なんだそうだ。
いや、そりゃ流石に大げさすぎないか。
すぐに僕はそれを却下して「キャマ・クーラ病院」に改名した。
さすがの僕もこれには感慨深く思った。
いや、大したことは何もしてないのだが、あれよあれよという間に病院が建ってしまった。
だが、みんなが労力を惜しまず手伝ってくれたのはひしひしと伝わってきた。
病院、作ってよかったな。
そして、記念テープをカットする時が来た。
「バークライト医院長、おめでとうございます!!」
くす玉が降ってきて、僕は祝福された。
工房のみんなも拍手を送ってくれた。
司会が続ける。
「そして、メインイベント!! ルルゥさんとバークライト医院長の結婚式を執り行います!!」
空気が……凍った。
純白の花嫁衣装をまとったルルゥが現れたのだ。
「それでは、新婦のおじいさんのジリーさんからメッセージを!!」
ジリーじいさんは涙を拭っている。
「病院を継いだ際には孫娘をやる。そうかねがね申しておりました……」
エー。それ、ゴーレム使いやるって保留にした気がするんですけど。
話は勝手に進んでいく。あれ、なんか工房の女の子にぶっ殺されそうだぞ?
感激した様子でルルゥさんは鼻をすすりながら答えた。
「ズッ、フォル、ズッのお嫁さんに……してください!!」
「″ズッフォルズのお嫁さん″にしてください? そりゃムリだよ。ズッフォルズ、女性グループじゃない。まぁ、最近はそういうのもアリなのかもしれないけどさ……」
その場の全員がズッコケた。
だが、ルルゥはめげなかった。ここまできたらパワープレイである。
「私、フォルのそういうとこ好きだから!!」
ルルゥがフォルに駆け寄ると同時にナンシャンテが動いたのである。
本気でフォルの唇を獲りに行くつもりだとその場の全員が思った。
略・奪・愛
みんながみんな、ドキドキハラハラした。
だが、ナンシャンテはウエディングドレスの裾にずっこけた。
そしてルルゥとディープキッスしてしまったのである。
瞳を閉じた2人はフォルの良い香りと勘違いしてしばらく気づかなかった。
「んちゅ〜〜」
「むちゅ〜〜」
別の意味で一同はドキドキした。
やがて2人は目を開けた。
「!!」
「!!」
そして2人は突っぱね合うとゴシゴシと唇を拭った。
どうやらそっちには発展しなかったようである。
フォルはというとあらぬ誤解を抱いた。
(そうか……やっぱりルルウさんは女の人が好きだったんだな!!確かにズッフォルズは女性グループだけど、性別に差はないよな!!僕も陰ながら応援するよ!!)
せっかくいい感じだったルルゥだが、この一件でチャンスを打ち砕かれてしまった。
だが、ここで諦めないのがルルゥのいいところ……なのだろうか?
彼女はますます恋の炎を燃やすのであった。
ともかく、式典は進み病院一番の功労者としてハルネ先生が呼ばれた。
「あー、私は大したことはしていないが、フォルくんには褒美をやろうと思う。こっちこっち」
彼女が手招きをするのでフォルは近づいた。
ちょいちょいと手を振るので顔を近づけるといきなり唇を奪われた。
「んちゅ」
そしてあかんべーをしてはにかんだ。
「どうだ。小娘のキスなんてお遊びだろ?」
大胆な大人の余裕が炸裂して誰も文句のつけようがなかった。
フォルはというと相変わらず明後日だった。
(メディスンのトライの先生のマウストゥマウス実践……ありがとうございます!!)
女性陣の放つオーラにその場の男連中は戦慄した。
だが、その中で一際、戸惑っている者がいた。
エリーヌである。おもわず彼女は自分の唇を押さえた。
(どどど、ど〜しよ〜。フォルさんと3回も……。ここ、こんなの知られたらバラバラにされちゃいます!!あ……でも、温かかったな……」
ハルネのキスはショッキングであり、甚大なダメージを負ったものは多かった。
ナンテ姉妹は不利だと悟ると早めに逃げ帰った。
ミミィはへなへなとダウンしてしまった。
クライトには後にしこたま殴られるハメに。
ルーメンは遅咲きの恋心に気づいた。
とにかく、多かれ少なかれこの大人のキス事件は女子たちにダメージを与えた。
本当にフォルという男は罪づくりだった。
だが、祝の席に水を指すことはあってはならない。
ましてや医院長の女性関係となると洒落にならない。
そんなこんなでこの一件は闇に葬られることになった。
その日の夜、珍しくリビングには誰も居なかった。
「あれ、みんなどうしたんだろう」
あんなことがあれば距離を置くのも自然なことだ。
誰も居ないし、僕は疲れたので早めに寝ることにして2Fに上がった。
大の字になって横になるとお花ちゃんが出てきた。
「フォルさん悩み事みたいですねぇ。話、お聞きしましょうか」
僕は昼間の出来事を包み隠さず話した。
「あちゃ〜。そりゃ通りません。それ、マウストゥマウスじゃなくてキスですやん」
おもわず僕は考え込んだ。
「キス……スズキ目キス科の……」
「サカナちゃうで」
釘を差されてしまった。
「キスやキッス!!求愛行為!!接吻や!!」
納得いった僕は感嘆の声を上げた。
「あ〜、え? っていうことはハルネ先生って僕のこと好きなの?」
お花ちゃんは額に手を当てた。
「かーっ!! 小学生かいな!!」
キスの意味がわかったとしても好き嫌いというのが小学生レベルの域を抜けない。
フォルの歪なところだった。
「ともかくむやみやたらにキスしたらあきませんよ。女の子が悲しむわ」
おちゃらけゴーストはガラにもなく真面目な顔をした。
どんどん顔が近づいてくる。
「授・業・料」
僕はお花ちゃんにキスされた。
「冷たッ!!」
「しかたあるまいに。幽霊なんだから」
彼女はほんのり赤くなっているように見えた。
翌日、目を覚ました僕は意識がはっきりしなかった。
「う〜ん、キッスねぇ。キス……キス……スズキ目のキス科の……」
もっともそう簡単にニブチンが治るわけがなかった。
お花ちゃんの真面目な説教は完全な徒労に終わった。
「にしても酷い悪夢を見たなぁ。お化けとマウストゥマウスなんて。我ながら気が狂った夢だよ」
ベッドの下の墓石はしとしとと濡れていた。
リビングに降りようとすると力が抜けた。風邪を引いてしまったようだ。
実際は幽霊に生気を吸われたのだが。
自力でおかゆでも作って食べようとすると、リビングにはいつもどおりみんなが居た。
ああ、やっぱ、いいな。こういうの。
日常が戻ってきた気がするよ。
フォルは呑気にほのぼのしていたが、水面下では激しい恋の戦いが続いていた。




