生足魅惑の
朝の海岸……僕は清々(すがすが)しい気分で散歩していた。
すると、浜辺に寝そべる人を見た。
寝そべるっていうか……倒れてるじゃないか!!
駆け寄った僕は少女の半身を起こしてギョッとした。
下半身が魚だったのである。
頭からは大量のワカメを被っている。
まるで土左衛門だ。いや、土左衛門だ。
「これは……人魚か? 与太話じゃなかったのか……?」
全身を観察していると酷い怪我をしていた。
「治療しないと!!」
だか、僕には人外の治療経験が足りなさ過ぎた。
人外に接した僕がこうなのだから、ジリー医院長には荷が重かった。
みるみる人魚は弱っていく。
「なんとか!! なんとかならないのか!?」
そんな時、僕は思いついた。
書斎の引き出しを開けるとハルネ先生からもらった″交換日記″があった。
一体、何に使う日記なのかはわからないが、裏には住所が書いてあった。
すぐにソラにスタンバイしてもらって、人魚を乗せたオオワシゴンドラはクランドールへ飛んだ。
「えっと、ハルネ先生は高級マンションのこのあたりに……」
するとハルネ先生と目があった。
全裸で牛乳を一気飲みしていた。裸族なのか。
貧ッ!! π(ぱい)!! エッ!!
それでもプロ精神は半端でなく、白衣一枚で出てくれた。
「フォル君。″責任″はとってもらうぞ」
みんな″責任″責任″って……なんの″責任″なんだ!!
ともかくこうして人魚のオペがはじまった。
「うわぁ、先生、ここの構造、どうなってるんですか」
「うるさい!!うろたえるな!!根性だ根性!!」
この人、鬼教官なの忘れてたよ……。
「いいか、魚の解剖はやったことあるな? 人間の上半身と魚の下半身を破綻無く連結するんだよ!!」
またまたさらっととんでもないことを。
「ボサッとするな!!メディスンのトライ持ちだろ!!勲章が泣くぞ!!」
「オラ!!泣き虫小僧の頃と変わってないぞ!!」
結局、僕は助手を務めるので手一杯でほとんどのオペはハルネ先生がやった。
「ふぅ、無事に手術完了だ」
彼女は無意識にするりと白衣を脱いだ。
裸体に直に着ていたのを忘れていたようである。
貧ッ!! π(ぱい)!! エッ!!
ハルネ先生は小刻みに震えていた。
「フォル君のスケベーーーーッ!!!」
牛乳瓶は僕の額を直撃した。
しばらくしているとタライに漬けた人魚は目を覚ました。
「こ、ここは? うわ真水キッツ!!」
思わず人魚は飛び跳ねた。
彼女の具合を確認しようとひらひらと手を振った。
「僕が見えるかい? フォルっていうんだ。気分は?」
「あんたらが治してくれはったん? おおきになぁ」
なんだか変わった言葉遣いをしている。
その割にはかなり可愛い顔をしている。
キョトンとした目、ご機嫌な眉、明るそうな口角。人魚なのに日焼けした健康的な肌が眩しい。
ホタテ貝ブラというのはツッコミどころかもしれないが。
わての名前は「ポテポテ」いいますわ。
「にいさんとねえさんのお名前は?」
僕ら2人は名前を名乗った。
「ふぉるはんにはるねはんな。確かに覚えたで」
白衣を羽織り直したハルネ先生はある提案をした。
「海に還すリハビリは海辺でやったほうが良いな。ここでは安定して塩水が供給できない。キャマ・クーラに連れ戻すのが正解だろう」
ポテポテもそれに同意していた。
「わて、田舎娘やからな。アーバンはアウェーなんやわ」
こうして、彼女は工房そばの海辺でリハビリを始めることになった。
なぜかハルネ先生がビーチパラソルの下でくつろいでいる。
ビキニを着て、背中のホルターネックをほどいていた。
貧ッがペタンとシートに触れている。
エッ!!でも貧ッ!!
なぜ彼女がこんなとこにいるのだろうと僕は驚いた。
「まあまあ。ちょっとしたヴァケーションというやつだ。私の部下は優秀な連中が多くてな。私がサボった程度では全く支障がないのさ。だからこうして羽伸ばししてるわけだ。あとはフォル君に一時でも多く会いたいからな」
はは。また御冗談を。
「あ、オイルを塗ってくれないか」
貧ッ!!だがナマの女性の背中の感触はエッ!!
海で泳いでいるポテポテが冷やかしてきた。
「なんやふぉるはん。鼻の下ぁデレデレのばしてぇ。助兵衛やなぁ?」
寝そべっていたハルネ先生がこちらを振り向いて囁いてきた。
「……すけべ」
エッ!!
こんなことを毎日繰り返しているとポテポテに力が戻ってきた。
「みてくだはれ!! 想像以上に泳げるようになりましたで!!」
どさくさに紛れてハルネ先生も泳いでいた。
あれ、意外と先生泳げるのか……。
「イルカショーごっこぉ!!」
飛び上がったポテポテの手のひらの上にバランスよく立った先生はそのまま押し上げられて高く跳んだ。
「おお!! 2人とも、相性抜群じゃないですか!!きっとウマがあうんだろうな!!」
だが、なぜかポテポテとハルネ先生が上がってこない。
僕が近づくと手ブラ状態の2人が胴まで上がってきた。
「あかん!! ブラ落としてもうた!!」
「私もだ。完全に見失ってしまった!!」
2人と目があった。おもわず胸元を凝視してしまった。
「えっち」
「すけべ」
エッ!! エッ!!
っていうか今回、エッ!!多いな。
ポテポテとハルネ先生につきっきりになっていると殺意を感じるのだが、気のせいだろう。
こうして人魚は全快し、別れの時が来た。
「もう打ち上がるんじゃないよ」
「ま、打ち上がってもまた手術しよう。人魚なんて貴重なサンプルだからな」
ハルネ先生、本気っぽくて怖いよ。
「ふぉるはん、はるねはん、たいそうおせわになりましたで。このご恩は一生わすれまへん!! ほな、さいなら〜!!」
彼女は元気に水しぶきを上げて海へと帰っていった。
こうして再び工房に平和が訪れた。
なんだかんだでハルネ先生が入り浸るようになってしまったのは問題と言えば問題だが。
なんでこう年上の女性は工房に入り浸りたがるかな。
さすがに服は着てくれと説教している。
いっつも2人揃ってスケスケキャミエッ!!なナンテ姉妹も大概だと思うのだが。
青少年の住処をいたずらに引っ掻き回さないでほしい。
だが、最近は逃げ場が塞がれつつある。
地下の書斎はクライトが見張っているし、ルーメンもジェムも居る。
ジェムに関してはいまだにえっちえっち言ってるので気まずい。
リビングは言わずもがな。
2Fのベッドにもおちゃらけゴーストが居る。
悪いやつじゃないし、話していて楽しいなとも思う。
だが、とにかくうるさい。
いまは慣れっこになってしまったが夜に元気になるのはなんとかならないのか。
ほとんど独り言だし。怨念だけはある。
結局、自然と僕は屋上でソラが翔ぶのをボーッと眺めることになるのだ。
そんな時、パシャパシャと海面が揺れた。
半身を起こしてそちらを見るとポテポテがいた。
「あかん。ここらへんでブラ落としてもうた!! ふぉんはん、探すの手伝ってくだはれ!!」
やれやれと思って僕は立ち上がった。
っていうか女の子のブラ探すシチュとかまず無いだろ。
ポテポテは顔を赤らめた。
「……ふぉるはんの……すけべ」
エッ!!
こうして、岬にヘンテコな人魚が居座ってしまった。
幽霊に人魚とか勘弁してくれ。
いや、もう何でも来いだな。望むところだ。




