リムーヴ・チャーム
ラビは魔術局から魅力能力を持ったゴーレムという課題で生み出した娘だ。
その特性からして人外のサッキュバスタイプを採用している。
完璧には出来たのだが、僕はあえて魅了の部分を削った。
そんな能力なんて、ロクなことに使われるわけがない。
ラビには搭載しなかったはずなのだが、真心を込めて生み出した結果、発現してしまったようだ。
ちなみに、作り手の僕にはチャームの効果はない。
彼女に悪意は無くても、これは男性を惹きつけすぎる。
日常生活に支障が出るレベルだ。やはりこれは除去しなければならない。
だが、様子がおかしい。彼女の瞳にはハートマークが輝いていた。
「こりゃ逆チャームだな。まいったなぁ」
これは相手を誘惑するのとは反対に、自分がメロメロになってしまう能力である。
「うふふ。フォルくんすきすき♥」
ラビは抱きついて僕の顔中にキッスし始めた。
「ひええ!! ゴーレムのマウストゥマウスだ!! 内臓をふっとばされて殺されるッ!!」
それを見かねたソラが僕らをひっぺがした。
「こら、ラビ!! イチャつくのは家の中だけにしなよ?」
「はぁい」
成熟した人格だけあって聞き分けは良い。
「そうだよ。いいね? 街中ではイチャイチャしないこと!!」
家ならokなのか……?
「は〜い」
彼女はむくれていたが、納得はしたらしい。
「街に出てみようか。逆チャームなら問題ないと思うよ」
いままでラビのセクシー水着のような刻印は消して、裸体に近づけた。
これなら誰にも彼女がサッキュバスであることはバレないだろう。
まぁ尻尾と羽は服に押し込まなければならないのだが。
「じゃ、街に出てテストしてみよっか」
こうしてフォル、ラビ、ソラ、ルーメンは街に繰り出した。
なんだか酷く視線が集まるが、ラビのチャームでないことは確認できた。
「よし、大丈夫みたいだな。良かった良かった」
昔っからフォルが病的に恋愛に鈍いのは周知の事実だった。
そのため、工房にやたら女の子が増えたり、連れ歩く女の子が増えても誰も何も思わなかった。
ただ、嫌でも視線は集まる。
それでも長身に知的なメガネ、美しい長髪、優しげな顔を見せつけられたら誰も何も言えなかったのだ。
不純なハーレムを形成しているようにも見えなかったし。
どちらかといえば押しかけられて一方的に言い寄られている。そんな感じだ。
工房以外の女の子も似たようなもんだったので、ますます誰も文句を言わなかった。
キャマ・クーラの男子たちは強力すぎるライバルに頭を悩ました。
4人はパーラー「サンシャイン」のパラソル席に座った。
ルルゥに教えてもらった店だ。
これを知ったらさすがのルルゥも怒るだろうが、フォルは全く意識しなかった。
ルーメンの向かい側に座ったラビは眉をハの字にした。
「あら〜。ルーメンちゃん。ひどいクマよ。眠れてるの?」
連日のハードなゴーレム造りで相当、ルーメンは消耗していた。
「だ、だいじょうぶっす。目からウロコのことばかりて。すごく参考になってるっすよ。そういえば、ソラさん、黒の術式はどんな感じっすか?」
ソラは腕をグルグル回した。
「どうっつってもなぁ。これが当たり前だからなんとも言えないね」
それを聞いた僕は釘を差した。
「あっ、ソラ、大丈夫だと思うけど、誰かとケンカしたらだめだからね。絶対だよ?」
「ケンカ? そんな子供じみたこと、するわけないじゃん?」
彼女は首を傾げた、
あたらしく開発、実装した黒の術式が強力すぎたのだ。
それはソラの身体能力を少し見ただけで明らかだった。
これなら武闘派のミミィ、クライト、キキョウあたりでもねじ伏せてしまうだろう。
それに、この術式はリミッターが外せるだけでなく、爆発的に出力を上げる″バースト″の機能もある。
緊急時にと思って搭載したが、さすがにこれはオーバースペックだった。
アルテア、ティーリアが精神構造における傑作だとすれば、このソラは駆動面、機動力、身体能力でのそれだった。
そうと知ったらみんな新しい術式にしてくれっていうだろうなぁ。
特に戦闘タイプの娘たちは。
でもやっぱり黒の術式は換装の難易度も高いし、そう簡単には切り替えられないんだけどね。
それこそ創り替えるつもりでやらないと。
残念だけどゴーレムも常にアップデートされるものだがらね。
それはナンテ姉妹の技術も例外ではなかった。
だからといって、ここまで劇的に発展させる使い手は数えるほどしかいなかったが。
その後も楽しい会話は続いた。
何気なくルーメンが言った。
「クランドールってどんな感じなんすか? 私、方向音痴だから協会にしか行ったことないんすよね〜。そのうちじっくり観光してみたいと思ってるんすよね〜」
彼女の要望を聞いたソラはおもむろに立ち上がった。
「まだ早い時間だから、行ってみようか!!」
思わず弟子は顔を輝かせた。
市内のあちこちにある発着場に着くとソラは指笛を吹いた。
空高くからオオワシがやってきた。
慣れた手つきでソラはゴンドラをくくりつけた。
「ささ。3人ともいくよ!!あ、あたしは上に乗ってくから!!」
こうして快適な空の旅を味わうことが出来た。
僕はもう何度も乗っているけれど、この爽快感はいつ乗ってもやみつきになる。
ラビとルーメンも最初はおっかなびっくりだったが、慣れるととても楽しそうにしていた。
こうしてクランドールに着くと観光がはじまった。
ルーメンは特に華やかな劇場街を気に入っていたようだ。
人のことは言えないが、おのぼりさんである。
アイドルショーは田舎には無いからね。
オーーーハイハイハイ!!!!
一方、ラビは自分の素体が生まれた工房が気になっているようだったが、なかなか顔を出せずにいたようだ。
生まれの親に会うのが小っ恥ずかしいのだろう。
いい意味で人間らしかった。
僕がその背中を押すと無事に再会することができた。
工房の人も涙を浮かべてラビを抱きしめてくれた。
その場の全員が号泣してしまった。
こうしてクランドール観光は終わった。
キャマ・クーラに着いて解散するとソラは振り向いて笑った。
「あんた、良いヤツだな。今度、2人っきりでいっちゃうか? 空の果てまで」
それを聞いた僕は地平線の向こうを見つめた。
「あぁ、僕ら2人なら行けるよ。限界を超えて!!」
「……えっ?」
ソラはからかいで言ったつもりだったが、ガチなリアクションに思わずモジモジした。
もっともフォルとしては全く深い意味は無かったのだが。
結局、ラビの逆チャームは治らなかった。
これは好ましくないぞ。近いうちなんとかしなければ……。




