ソラを駆ける
最近、僕に届く手紙や配達物が爆発的に増えた。
協会に一発くれてやったのが気に入られたのだろう。
もっとも誹謗中傷も少なくはないが。そんなのは放っておけばいい。
だが、速達が届くのが遅い。
クランドールからキャマ・クーラへはそれなりに距離があるのだ。
よくよく考えれば、ウチのゴーレムには飛行タイプの娘が1人も居ない。
じっちゃんが「1人は創っとけ」と言われたのを今頃になって思い出した。
僕はベッドの部屋から階段を登って屋上に出た。
何気に屋上への階段があるのである。
屋上は傾斜がなく、平たい面がひろがっている。
僕はゆったりと空を見上げた。
「機械仕掛けのゴーレムが確実だろうけど、目立つからなぁ。それに何よりビックリさせてしまう。どうしたもんかな」
ぼーっと空を見上げていると海鳥が目に入った。
「そうか!! これか!!」
早速、僕はナンテ姉妹とルーメンを書斎に呼んだ。
「飛行タイプのゴーレムを作るよ。ナンテ姉妹はアナトミア・クレイを。ルーメンは本格ゴーレム作成の様子をしっかり見ておくこと!!」
ナンテ姉妹は不満を述べた。
「えー。私たち、アナトミア・クレイ係じゃねーんすけど」
「またお金を散財して!!ちょっとは考えてください!!」
いや、それキミらの仕事じゃないですか……。
「了解っす!! しかと目に焼き付けておくっすよ!! よろしくお願いしまっす!!」
ナンテ姉妹はルーメンの純粋なやる気に押されたのだった。
完成した素体はショートのボブに活発そうな大きな瞳、ちょんとした鼻に、笑顔が似合う唇、紅潮した頬だ。
身長はやや低めの160cmちょい前くらいだ。
ルーメンはすでに高度な成形の時点でビビっているようで、口をポカーンと開けていた。
次は術式の刻印だ。僕は朱と、蒼と、紫の術式をぐちゃぐちゃと混ぜた。
驚いたルーメンは素っ頓狂な声をあげた。
「黒っすか!? 聞いたこともないっす!!」
ナンテ姉妹も驚いていた。
「いいかい。身体機能を制御するのが朱、精神構造を制御するのが蒼、そして、それに動力系を加えたのが紫。さらに全部を混ぜると黒。つまり、駆動系、精神系、動力系をすべて1つにまとめる。すると理論上は無駄のない出力が出来るんだ。理論上はね」
ナンテ姉妹とルーメンは叫んだ。
「「「理論上はぁ〜〜〜!?」」」
フォルは涼しい顔をしていた。
「ま、魔術は発展を止めたらおしまいだからね。さ。やるよ!!」
こうして僕とルーメンの挑戦がはじまった。
もっとも、刻印しているのは僕だけだったが。
「とりあえず、動くようにはなるだろう」そう思ってナンテ姉妹はリビングへ戻っていった。
さすがに新しい術式の構築は時間も手間もテクニックも要った。
だが、フォルはやってのけた。
ルーメンがいつしか居眠りし始めてから2日後、新たなゴーレムが完成した。
「ここで″エッセンス″を加える!!」
僕はパラパラとすりつぶしたウミドリの羽を素体に混ぜた。
そして僕は彼女の鎖骨に魂名を記した。
「ゴーレム・バース!!」
鳥使いの飛行タイプのゴーレムが生まれた。
名前は……そうだな。空を駆けるから″ソラ″だ!!
こうして起動実験が行われた。見てくれは16歳くらいだ。
ウミドリの要素が混ざっているので、鳥類と意思疎通が出来るようになっている。
貴重品を預ける重要な任務を持つので精神年齢は20歳より上に設定してある。
まぁ口調などは年相応なのだが。
「いっくよー!!ほっ!!」
彼女は高く飛んだ。鳥と同じ位の高度まであっというまに達した。
黒の術式の成せるパワーだった。
そして、彼女は大きな海鳥の足首を掴んだ。
「ギャア!!ギャア!!」
一同は呆然とした。
しばらくするとソラは鳥と一緒に風に乗った。
うまい具合に巨鳥をならしている。
そして着地させると満面の笑みを浮かべた。
「この子に荷物を運んでもらうってわけ。もちろん上に乗ることも出来るよ。クランドールまでは〜、そ〜だな〜。片道30分ってとこかな」
クランドールといえば汽車で片道1時間弱かかる。
それが往復1時間となるのである。驚異的な短縮だ。
もっと早く創っておくんだったと僕は後悔した。
こうしてソラは郵便をこまめに運んでくれるようになった。
これで遅延無く手紙や荷物を受け取れる。
そんなウワサはキャマ・クーラ中に広がった。
ソラが飼いならせば海鳥は大量に確保できたので、僕はみんなにこのウミドリ便を解放することにした。
これによってキャマ・クーラの郵送事情は大幅に改善した。
急病人が出たときには鳥のゴンドラ上に乗せたりすることもあった。
医学博士として尊敬されているらしい僕だが、運輸面でも尊敬されるようになったらしい。
それはクランドールにも届き、クランドールでも活動を開始した。
そりゃあもうソラは大忙しだったが、黒の術式は強靭で、この激務にもビクともしなかった。
やがてウミドリが普及し始めると彼女にも余裕が出来るようになった。
ウミドリ便を解放してからはあきらかにお礼の手紙や、贈り物が増えた。
「協会に負けずに頑張ってください」というのも多かったが、勝つも負けるも勝負してないんだけどな……。
ただ、魔術局の連中が顔を真っ赤にしてるのは容易に想像できた。
今更だが、親不孝、じっちゃん不孝だなとは思う。
だって、家族は王立宮廷魔術師として活躍することを期待してるんだから。
うっかり協会に噛みついたとバレたらしこたま説教を食らいそうだけど。
まぁ、じっちゃんもそこまで頭が固いわけじゃないから大丈夫だろう。
ルーメンの師匠もやってるし傀儡の誓いは果たせてるよな多分。
屋上で手紙を読みながら空を眺めていると気になる手紙があった。
「ボルクレイ・ダンテ……協会のおえらいさんじゃないか。なんだろな」
封を切って中身を読む。
「突然すまない。まず、キミには度重なる非礼を詫びようと思う。無礼とはわかりつつも、火急の用を伝える。時は来たれり、現協会の転覆に協力してほしい」
「!?」
さすがの僕もこれには驚いて飛び起きた。
「クーデター!? 正気なのか!?」
手紙の続きに目を通す。
「我々、革命派は現協会の腐敗や利益主義、裏で囁かれている軍事協力を良しとしない。貴君がこれらの方針に反対しているのは伝わっている。これらを早期に打ち砕かなければ、協会が権力を振るうのは目に見えている。どうか、貴君の力を貸していただきたい」
その手紙を僕は破って棄てた。
「なんだ。いつもの協会のくだらない権力争いじゃないか。僕を担ぎ上げるか、上げないかだけの差だよ。あわよくば僕がジョーカーになったとしても、その後は無いからね」
フォルはデカ・ハンドラーを獲得して以来、協会には一度も顔を出していなかった。
ともかく、ウミドリ便の功績は大きく、後にフォルが紙幣の人物になるきっかけとなるのだった。




