お姉ちゃんの生首
ルーメンが弟子入りしてからしばらく経った。
正直、彼女はセンスはあまりなかったが、ガッツは目を見張るものがあり、着実に成長していた。
コーヒーを持って僕は書斎へ向かった。
また彼女は徹夜しているようだった。
「あ、フォル師匠!!」
ルーメンは深いクマをつくっていた。
僕はそんなルーメンに笑いかけた。
「人のことは言えないんだけど、徹夜はやめよう。効率的じゃないし、(小動物的に)可愛らしい顔が台無しだよ」
慌てながら彼女は前髪を整えた。
「かかっ!!可愛らしいなんてッ!!」
一息ついた後、僕はいよいよこんなに彼女が必死な理由を聞いてみた。
単なる憧れだけでここまで喰らいついてくるとは思えない。
「ルーメンはさ、それならもう十分に査定、通ると思うんだ。なのに、どうしてそんなにゴーレム創りを頑張るの。師匠である以上、聞いておかなくちゃならないかな」
暗い話がくるだろうと僕は覚悟した。
ルーメンは俯きながら語りだした。
「実は、私のおねーちゃんもゴーレム使いだったっす。私と同じく、お世辞にも腕前が良くなくて。それでも石にかじりつくように必死でやってたっす。もちろん王立宮廷魔術師も目指してたんすよ」
お姉さんが居るとは初耳だった。
「おねーちゃんは学科試験もてんで駄目で。王立宮廷魔術師に受かるとなると、評価されるような成果物を作る必要があったっす」
試験の話題とは懐かしい話だ。
僕は学科はAに簡単なお茶汲みゴーレムを作って合格した。
95点くらいだったかな。
「ちなみにルーメンの結果は?」
彼女は思い出すように言った。
「学科B+で、イモムシ機構のゴーレムを」
なかなか良い着眼点だ。
「で、お姉さんの話を続けてよ」
コクリとルーメンはうなづいた。
「ある時、おねーちゃんは会心の一作を作ったっす。それは試験を文句無しで通るような素晴らしい出来だったんす……」
僕はイヤな予感がした。
「そう。おねーちゃんが作った最高傑作。それは……ジェムちゃんだったんすよ。でもあんな感じじゃないっすか。お姉ちゃんの評価は……」
予想通りだった。
かなり難しいが、朱の術式の刻印さえしっかりやれば生首のゴーレムは創れなくもない。
しかし、蒼い術式で精神構造を作るとなると一流の使い手でも無茶な話だ。
まずどこかネジの(ぬ)抜けたゴーレムが出来る。
そりゃあ、あんなエッチエッチ言うわけだ。
「だから、私はおねーちゃんの名誉を挽回するため、ジェムちゃんを矯正させようと思って弟子入りしたんす!!きっとまともなジェムちゃんを見ればみんなおねーちゃんを見直すっす!!」
こんな少女が張り裂けそうな思いでここまでやってきたのである。
手伝わざるを得なかった。
「まぁ替え玉試験するわけじゃないし、おねーちゃんを助けたい気持ちはわかった。やってみようか」
彼女はポロポロと涙をこぼした。
「はっはい!!」
だが、僕は暗い顔になった。
「……ジェムちゃんは一応、調律はしてみた。だから本来の性格は戻ったよ。でも都合いいように改変する″矯正″はしてない。だけど元の性格が結構、キツイものがあって……会ってみる勇気はあるかい?」
ガッツのあるルーメンは首を縦にふった。
そして僕は生首のゴーレムを出してきた。
「ゴーレム・リブート!!!!」
思わずルーメンが抱きつく。
「くっ、苦しいよルーメン……」
エッチエッチ言わない!! 少女は感動した。
「……死にたい」
「!!」
耳を疑う言葉が出てきた。
「あぁ、ルーメン。ひさしぶりね。……死にたい……」
おそらく、この「死にたい」に深い意味はなく、挨拶みたいなもんである。
それにしては重くてキッツイワードである。エッチよりキツイ。
ショックでルーメンがダウンする。
すぐに僕は生首を取り上げようとした。
すると、彼女はゴーレムを抱きしめた。
「これはお姉ちゃんの呪縛!! 私、この娘を″矯正するっす″!!」
蒼の術式に手を加えない調整を″調律″
蒼の術式を直接いじって人格を塗り替えるのが″矯正″である。
僕は思わず険しい顔になった。
「いいんだね? 矯正すると元の人格、性格は失われてしまうよ」
だが、ルーメンは逞しかった。
「やるっす!! おねーちゃんができなかった分をやるっす!!」
こうして再び、厳しい修行がはじまった。
「術式の精度が足りない!!もっと繊細に!!」
「点の打ち方が荒いよ!!」
「もっと真心を込めて!!」
こうしてつい徹夜してしまった。
その結果、ジェムちゃんの矯正は終わった。
「ルー、ルーメンちゃん? わ、わたし? ああ……わたしエッチでもないし、死にたくもないよ……」
「うえあ〜〜〜ん!!ジェムちゃ〜ん!!」
しばらくチェックしたところ問題はなかった。
「トーキング・ゴーレム」としての性能は十分だった。
かなりテキトーな見てくれのゴーレムだったので、ティーリアがメイクしてくれた。
過度に目立たないようにこれといった特徴の無い町娘と言った感じである。
そして、みんなとしばらくおしゃべりして馴染んだ頃……。
ルーメンが宣言した。
「ジェムちゃんはお姉ちゃんのところに送り返すっすよ!!そしたらお姉ちゃんもみんなから見直されて元気出してくれるっすよ!!」
こうして名残惜しまれながらも、ジェムはルーメンのお姉さんのところへ帰っていった。
少しして、工房に木箱が届いた。
「なんだろ? おわっ!!」
僕はたまげた。箱の中には生首のゴーレムが入っていたのである。
そこにはルーメン宛の手紙が入っていた。
「ルーメンちゃんのおかげで、元気が出ました。私はと言うとゴーレム達人とか呼ばれるようになりました。まったく都合の良い話よね。でも、私、もう、ゴーレムは創らないわ。懲りちゃったからね。だからジェムちゃんは送り返します。なにかしらお役に立てると思うから byルーメソ」
こうしてジェムちゃんは工房の一員として迎えられたのだった。
生首で持ち歩くのは目立ちすぎるので、ルーメンの大きなリュックから頭がのぞくようにした。
もっとも、それでも違和感全開ではあったが。
ルーメンの再試験だが、無事に査定を通った。
それもそのはず、オーパーツ気味のジェムを連れて行ったからだ。
その場ですぐにゴーレム・ソロ・マイスターを獲得してしまった。
これは彼女の努力によるところも大きかったが、バークライト流の指導の賜物でもあった。
これでルーメンの修行は終わった。
「ルーメン。修行終了だよ。もう誰もキミに文句をつける人はいないだろう。さぁ、独り立ちして好きなようにゴーレムを創ってみてよ」
それを聞いた彼女は僕に思い切り抱きついてきた。
「師匠!! わたし、まだ教わりたいことがたくさんあるっす!! どうか、続けて弟子として置いてはいただけないっすか!?」
涙に鼻水、ルーメンは顔をグシャグシャにしていた。
それを無碍にするわけにもいかず、僕は彼女の肩を叩いた。
「わかった。よろしくねルーメン」
こうして弟子入り少女の一件は解決した。
ルーメンに変わってジェムをチェックしていると彼女が語りかけてきた。
「あなたが私をまともに矯正してくれたんですね? カッコいいです。惚れちゃいました」
人格がブレてきた。誰かの手が入っている。
おそらくルーメンのお姉さんがいじったのだろう。
「ふふふ……フォルさん。これは皆にはナイショですよ? ……エッチ」
「!?」
「エッチ、エッチ」
だめだこりゃ。再矯正だな。
「ふふふ……エッチ」




