エッ エッ うるさいよ
僕はしがらみから解き放たれてご機嫌だった。
原点回帰でゴーレムをいじったり、町医者に通ったりしている。
家を建て替えたおかけで、女の子に悩まされることもぐっと減った。
ただ、クライトはしょっちゅう書斎を覗きに来るのだが。
そんなとき、来客がやって来た。
「たのもーっす!!」
桃色髪に白衣を着てメガネをかけ、異常に大きなリュックを背負った少女がやって来た。
かなり小柄である。マルシュよりちょっとでかいくらいか。
「わぁ……ゴーレ……」
ナンテ姉妹が彼女の口を塞いだ。
「シーッ!! ゴーレムってバラすな!!」
コクリコクリと少女はうなづいた。
書斎から上がってきた僕を見るとその娘はいきなり抱きついてきた。
「うわぁ!! 本物のバークライト博士っす!! 本当におおきいんすねぇ!!」
一気に空気が険悪になった。
「えっと、あの、どなたかな?」
彼女の名前はルーメン・ルーメン。
どうやらこの間の僕の姿に憧れて、弟子入りを希望してきたらしい。
「う〜ん、悪いけど、いきなりおしかけられても困るなぁ。今はゴーレムはソロしか無いし、人に教えたこともないしなぁ」
フォルのバークライト流は門外不出というわけではなかったが、かなり習得難易度が高かった。
だが、よくよく考えれば人にこれを教えるのは傀儡の誓いと合致する。
あまり気乗りはしないが、僕は彼女を弟子に取ることにした。
「わかったよ。キミを弟子にしよう」
例のごとくナンテ姉妹は不満げだ。
「えー」
「えー」
ルーメンは深々と頭を下げた。
「本当にありがとうっす!!」
するとリュックがひっくり返って中身が飛び出した。
そして女性の生首が転げ出た。
全員が悲鳴をあげたが、弟子はその生首を拾い上げた。
「あ、これ、私の作ったのゴーレムちゃんっす。ジェムちゃんっていいます」
フォルは慣れたもんで声をかけた。
「そっか。よろしくねジェムちゃん」
彼がにっこり笑いかけると生首少女は語りだした。
「こういう奴はな、エッチすりゃ言う事聞くんだエッチすりゃ!!」
エッ!!
ルーメンは顔を真っ赤にしてジェムの口をおさえだ。
「ごっ、ごめんなさいっす。この娘、ちょっと口が悪くて!! 悪気はないんす!!」
するとジェムはルーメンの指を噛んだ。
「あだ!!」
そしてまた喋りだした。
「え? 師匠の立場を利用してナニするんだろ? そぉら エッチ!! エッチ!!」
エッ!!
本当に口が悪い。しかも下品。
これは人に接するゴーレムとしてはアウトだ。看過できない。
僕は秘孔を突いてジェムを″落とし″た。
「しばらくは起動しないよ? いいね?」
「はい………」
ルーメンは顔を真っ赤にしている。
激しい敵意を感じる。僕はジェムがぶっ壊されないうちに抱え込んだ。
こうしてルーメンの修行がはじまった。
「じゃ、まずは朱の術式からね」
僕がガサガサと術式を構築すると彼女は頭を抱えた。
「う〜〜〜サッパリわかんねぇっすぅ」
次は秘孔の突き方を教える。
「えっと、ここらへんと、ここらへんを斜めにいれつつ、みずおちを……」
またもや彼女は頭をかかえた。
「はい。やってみて」
上の方の秘孔を押そうとしたルーメンはコケた。
僕はそれを受け止めて押し倒される形になった。
メガネのずれた彼女はとても可愛らしい顔をしていた。
マルシュよりさらに純粋無垢といった感じだった。
彼女の吐息が僕にかかる。
さきほどのポンコツゴーレムの言葉が浮かんでくる。
「え? 師匠の立場を利用してナニするんだろ? あ? エッチ!! エッチ!!」
僕らは互いにドキドキしてしまった。
次の瞬間、書斎の窓がぶち破られた。
クライトがやってきたのである。
「お嫁さんが居るのに? そんないたいけな子に? 万死に値するわ!!」
誤解だ!! ちょっ、待っ!!
僕はしこたまクライトに殴られた。
痛いとかいうレベルではない。リミッター外れてるし!!
とんでもない恐妻!!
これ以降、常に彼女は書斎に居座るようになった。
いや、別にやましいことはないからいいんですけど!!
なんだかんだでナンテ姉妹は優しく、丁寧にアナトミア・クレイをルーメンに教えた。
同時に説教してきた。
「フォル、いきなりあんたのレベルでやったらだ〜れもわからんのだわ」
「もっと相手を思いやる心も大事ですよ。繰り返します。もっと……」
やはりバークライト流、いや、僕のテクニック自体が難解らしい。
ということで限界まで噛み砕いて朱の術式を教えてみることにした。
「違うよ。ここ3cm上。そこもうちょっと細く……」
一週間ほどすると練習用のゴーレムがそれなりに動くようになった。
「師匠!! やったっす師匠!!」
僕はため息をついたが、充実感はあった。
次は蒼の術式だ。これは本当に難しく、僕でも難儀する部分だ。
果たしてこの少女に乗り切れるのかと不安になった。
予想通り、まったく進まなかった。
感覚でマスターする部分も多く、朱の術式ほどパターン化することも出来ない。
ルーメンも一日中、頭を抱えていることが増えた。
「手を動かさないと手を」
つい口調が厳しくなる。そのたびに僕はハッとした。
教えるのが下手なのか、彼女に才能が無いのかはわからなかったが、ほぼお手上げだった。
「じゃあ僕は寝るから。ルーメンもほどほどにね」
次の日の朝、書斎に行くとまだ彼女は起きていた。
一心不乱に蒼の術式をなぞっている。
目には深いクマがあった。おそらく一睡もしていない。
それを見ない振りして僕は彼女に明るくあいさつした。
「おはよう!! 今日も頑張ってやっていこうか!!」
「ハイ!!」
僕も精一杯、教えてみることにした。
彼女の必死な努力の甲斐あって、蒼の点を打って制御できるくらいにはなった。
これなら自力でフーちゃんくらいのゴーレムは作ることが出来る。
これなら一生、食うには困らないだろう。
「キミはよくやった。卒業だよ!!」
だが、ルーメンは泣きながら抱きついてきた。
「まだです!! まだ、私は!!」
こう泣きつかれては突き放すわけにも行かない。
窓の外でクライトはやれやれと肩をすくめていた。
こうしてルーメンは街に住み込んでゴーレムの修行を続けることになった。
彼女がなぜそこまでして高度なゴーレムをつくりたいのかはわからないが、あえて詮索する気もなかった。
彼女はゴーレム愛に満ちていたからだ。
だが、まだやることが残っていた。
「とりあえず、仕上げの試験をやるよ。ジェムの蒼の術式を書き換えてもらいます」
「!!」
ルーメンはとても驚いた様子だった。
「人に不快感や恐怖、実害などを与えるゴーレムは調律し直さなければならない。よってジェムの人格を矯正すること。これが正式な弟子入りの試験だよ」
フォルはしまっておいた生首を取り出した。
「そこまで難しいことじゃないでしょ。さあ」
だが、彼女はジェムを抱きしめた。
「そんなことできねっす!!たとえ不合格になっても!!」
思わず僕の顔がほころぶ。
「矯正しろなんて言うわけ無いでしょ。第一、ここでやったらバークライト流失格だからね。さぁ、再起動してあげなよ」
ルーメンは顔をグジュグジュにしながらジェムに火を入れた。
「ほら!! イロジカケだよ!! エッチしろエッチ!!」
エッ!!
弟子は黙ってポンコツの電源を切った。




