クランドールに連れてって
最近、僕はルーメンをしょっちゅう使いっ走りにしている。
「焼きそばパン買ってきて」
「はっ、ハイ師匠!!」
心が痛むが、ちゃんとした理由がある。
彼女の相棒、ジェムちゃんを調律しているのである。
この娘はとにかく下品で、反応に困るエグい下ネタしか言わない。
「お前、ゴーレムの嫁さん居るだろ? エッチしてるか?」
「ルーメンはロリ枠だからな。年増になる前にエッチしとけ」
さすがの僕もぶん殴ってやりたくなる。
そして額にチョップを食らわせた。
「私とエッチするのは……あレ…わた…し…」
「バークライト流!! チョップ2連!!」
またもやチョップを叩き込む。すると手応えがあった。
「あ、あれ……わたし、なんて恥ずかしいことを……し、死にたい……」
彼女の前で手を振る。
「僕がわかるかい?」
「ば、バークライトさんですよね? 私、私、本当に失礼なことを……死にたい……」
改めて顔を確認する。
緑のロングヘアで大人の女性だ。
ただ、ナンシャンテさんやクライトとは違い、あきらかに顔に覇気がなく、自信が無い。
おまけに挙動不審だ。生首なのに。
エッチが口癖なのも問題だが、死にたい死にたい言うのも考えものだ。
とんでもないネガティブゴーレムである。
でもこういう人、いるよなぁ……。
これは彼女の元の性格だ。無理に矯正すべきではない。
「ほら、そんな顔してるとルーメンが悲しむよ。元気出して!!」
ジェムさんは笑ったつもりかもしれないが、顔が引きつっている。
「は、はい。死にたい……」
ダメだこりゃ……。
「ねぇ、えっちってなに? おしえておしえて!!」
いつの間にかインフィが聞いていた。
なんでも知りたいお年頃である。
「そういうのはね、大人になってからだな」
それを聞いていたサッキュバスのラビが口を開いた。
「うふふ。えっちっていうのはね〜♥」
さかさず僕は彼女の口をふさいだ。
「もごもご……」
みんな揃ってエッチエッチって!! 最近ハードル上がりすぎだよ!!
エッ!!くらいで止めとかないと洒落になんないよ!!
ほのぼのじゃなくなっちゃうって!!
う〜ん、しかし、このジェムちゃんをルーメンに会わせるのはキツイものがある。
もう少し、眠っていてもらおう。
彼女をしまっているとインフィニが袖を引っ張ってきた。
「インフィニね、駄菓子屋さんいきたい」
彼女は13歳の女の子ゴーレムで、普通の人間に近く、特にスキルはなかった。
精神年齢は低いがしっかりものではある。
お出かけが大好きなアウトドア派だ。
じゃあ、僕か一緒に……。
いや、ここはラビの実地起動試験……社会適応をさせたかった。18歳くらいに設定したし。
駄菓子を買い物にいくくらいならラビでも行けるはずだ。
だが、見た目がエッ!!すぎる。
サッキュバスなんだから仕方ないんだけど。
そういうわけで、上から茶色いトレンチコートを着せてみた。
これは、これで変態っぽいんだよなぁ。
羽と尻尾とわがままボディをローブに押し込んだ。
「いや〜ん。ぱっつぱつ!!」
これならまあ。
イヤな予感しかしないが、2人を送り出した。
インフィニは誰にでも人懐っこい。
ラビはその姿を気に入ったらしく、可愛がった。
「駄菓子屋さん。どっちだっけ?」
「こっちよぉ〜」
こうして2人は無事にお店についた。
「あれれ、おこづかい、忘れちゃったよ……」
インフィニはしょぼくれた。
それを見ていたラビは財布を取り出した。
「これでお買い物、しましょ!!」
彼女はエッ!! デッ!!で無意識に男を誘惑してしまうきらいはあるが、自立性は高かった。
チャームなんか無くても十分、魅力的なのだ。
「ねぇねぇ、ラビおねえちゃん。インフィニ、別のとこいってみたいなぁ」
ラビは意外にも堅実だった。
「フォルさんは駄菓子屋さんだけって言ってたでしょ。今日はもう帰りましょう」
「はーい」
インフィニも13歳なので無闇に駄々(だだ)をこねることはない。
かなり相性の良い二人組だと思えた。
これなら2人で外出させて、お互いに経験を積むことも出来るはずだ。
そうラビの報告を受けて僕は安心した。
何度か練習を繰り返して大丈夫だなと思った僕は大胆にも彼女らをクランドールにおつかいに行かせることにした。
インフィニは目を輝かせている。
「うわぁ!! クランドール初めて!! 汽車も初めて!!」
余裕のあるラビはニコニコ顔だ。
「どこいきましょうかぁ?」
現地に着いた頃にはお昼だった。
「インフィニね、美味しいご飯が食べたい!!」
もともとこのサッキュバスばクランドールで生まれたものだ。
だから、都市ではあってもここの地理には明るかった。
「じゃ、八ツ釜亭にいきましょっか!!」
こうして2人は大衆食堂に入った。
「んーとね、んーとね、巨人エビフライが良いな!!」
「じゃあ、わたしも〜」
顔を合わせて彼女らはニコニコと笑いあった。
その後もインフィはわがまま気味に要望を出していだが、ラビは特に渋ることもなくそれを聞き続けた。
元の人格は酒場の女将のマーミアさんだ。
面倒の良いところが良い具合に再現できたのかもしれない。
素体の創りはいまいちて、サッキュバスとしてはなんとも言えないが、人格は一流だ。
いろいろなとこを回るとインフィニは疲れて寝てしまった。
ラビが膝枕をして寝かせていると誰かが呼んできた。
「ラビさん、ラビさんちょっと」
そっと少女の頭を置いて、声の方へ行くと、突然、男に羽交い締めにされてしまった。
「へへへ。お前、フォルのサッキュバスだろ? 呑気にこんなとこ来てんじゃねぇよ。フォルめ。こんなクソゴーレム創りやがって。チャームのないサッキュバスなんてゴミなんだよ!!」
しかしラビは気丈に振る舞った。
「わたしはいくらでもバカにしてもいいけど、フォルをバカにするのは許せない!!」
男は下卑た笑いを浮かべた。
「ま、実験材料くらいにはなるだろうからな。″局″に売りつけてやるぜ」
だが、ラビは羽交い締めをはねのけた。
ゴーレムなのでこの程度はなんともない。
そして力を入れると、ローブをぶち破った。
エッ!! デッ!! なわがままポディが炸裂した。
思わず、暴漢はとろ~んと悩殺されてしてしまった。
まったく蒼の術式には描いていなかったのだが、ピンチに魅了魔法が発現したのだ。
そしてラビはインフィニの元へ走った。
「インフィニちゃん!! 空のお散歩!!」
わしっと少女を抱えると背中の羽でクランドールの空に舞い上がったのである。
羽は小さいが、立派な飛行能力がある。
いつの間にか日の暮れた街を空中散歩した。
「わああぁ!! すごく、すっごく綺麗だね!! ラビちゃん。本当にありがとうね!!」
こうして2人の初めてのおつかいは無事に……あれ……僕のおつかいの品は……。
でも幸せそうに眠る2人を見て僕は満足だった。
アルテアとティーリアでシナジーが起こったようにこの2人も互いに良い影響を、もたらしあった。
特にインフィニは年相応に成長した。
ただ、思春期に入ってしまい、別の意味で大変ではあるのだが……。




