あんなもの海に捨てたよ
僕が魔術局を出ると誰かが手招きしてきた。
テスラ先生である。ツルっぱげに、ながくて広い白いヒゲ、さらになが〜い眉毛が特徴だ。
直接の師弟ではないが、お世話になっていて、テスラ先生と呼んでいる。
「こっちゃこい。メシおごってやるでの」
申し訳ないと思いつつ、何度も誘ってくる彼に根負けした。
「坊主、派手にやったのぉ。その娘がさっきのサッキュバスか」
まだ誕生して間もないからか、黙りがちであたりを見ている。
あまりにもデッ!!すぎて男性が釘付けだ。
これホントにチャームいらないんじゃないか?
そういえばずっと気になっていたのだが、テスラ先生はブレスレットをしていない。
文句なしにGTMだと思うのだが。
「ほっほ。わしのブレスレットが気になるか? あんなもん、海に捨てたよ」
「!!」
これには驚かざるを得なかった。
「なんでそんなこと!!」
いきなり立ち上がった僕は頭を強打した。
「あだっ!!」
料亭中の視線が刺さる。恥ずかしさのあまり僕はソロリとしゃがんだ。
「なに。おんしと根っこは変わらん。犬になりたくない。腐った魔術局に手を貸したくない、ゴーレムの扱いが粗末だとかな。そういう意味では共犯ともいえるな。ほっほ」
思わず僕は俯いた。
「僕、ゴーレムのソロ、返上しようかと思うんです」
深い理由は出てこなかったが、もう要らないように思えた。
すると、テスラ先生は僕の肩を叩いた。
「今はこらえどきじゃぞ。使えるものは使って、のし上がらにゃならん。それから逃げたわしみたいになってはならん。結局、わしはゴーレムを救えんかった……」
テスラ先生は意外な顔を見せた。
「ホントはの、そんなことがあったからワシはホントは魔術局は出禁なんじゃ。それでもわしを慕ってくれる連中はわしを通してくれる。自分の技術を伝えて、それに報いたいんじゃ。もちろん、おんしにもな」
なんだかしんみりとしてしまった。
「ま、そんなことはええ。それより坊主、ゴーレムでハーレム作っとるらしいじゃないか」
僕はオレンジジュースを吹き出した。
「よいよい。ハーレムは漢の浪漫じゃからな!! おんしのじじいとも何人ハーレムできるか競争したもんじゃよ!!」
なにやってんだよじっちゃん……。
「確かわしが25人、おぬしのじじいが23人じゃったかの。わしの勝ちじゃったぞ」
テスラ先生のイメージがちょっと悪くなった。
いや。まったく人のことは言えない。
それどころか25人超えそうな気がするんですけど!!
焦って頭をかく僕を見てテスラ先生はわらった。
「ほっほっほ!! それでこそおんしらしいわい。笑え笑え。おんしにはクソ真面目な顔は似合わんよ」
微妙にディスられてる気がするぞ……。
「いいか。坊主にしかできんことがある。それを見逃さず、しっかり掴むことじゃ。坊主、デカい漢になれ。それこそ、逆に魔術局を牛耳るくらいにな。まずは取れそうなマイスターを片っ端からとってみぃ。したら連中も口出しできなくなる」
いや、既にデカくはあるんですが……。
すると先生はニッと無邪気に笑った。
「それにの、マイスター増やすと死ぬほどモテるぞい」
いや……流石にこれ以上モテなくてもいいです……。
帰りの電車の中でラビはとんでもなく目立った。
あまりにもエッ、デッ!!すぎる。
そんなアホな考えはともかく、僕は自分が獲れそうなマイスターを考えていた。
本屋で買った「あなたも獲れるスキル・資格」という本を買ってきたのだ。
意外とハンターはいけるんじゃないか?
アンズさんの基本装備はスナイパーライフルだから、近距離で援護すれば相性がいいかもしれない。
幸い、こっちにはミミィ、クライト、キキョウがいる。
十分すぎるメンバーだ。
クライトはガチガチのバトルタイプではないけど、とにかくパワーがある。
リミッターは解除してあるし、普通に殴るだけで地形を変えるポテンシャルはある。
まぁしこたま殴られた僕からすると……ね。
ハンターのマイスターは少ないと聞いた。もしかすると多少は上がりやすいかもしれない。
その本には変な資格もいっぱい乗っていた。
幽体離脱マイスター?
どうやって獲るんだ。そして何に使うんだ……。
手裏剣マイスター……。
こっ、これは!!
ペラペラと資格本をめくると目からウロコだ。
っていうかマイナーな資格多すぎでしょ。
ほとんど一発芸だよねコレね。
僕は魔術局を別方向から疑うことになった。
多分、マイスターの種類を増やしまくって受験費とか、会員費を吸い上げているのだろう。
本当に姑息な連中である。
それはともかくとして僕は資格をリストアップしていった。
その結果、かなりの数が集まった。ゲテモノも少なからず混ざっているが。
気づくと僕らはキャマ・クーラへ着いていた。
ラビは僕の手を握って指をくわえていた。
精神年齢は低くないとは思うのだが、いきなりこんな環境に移されたら混乱もする。
そして僕はみんなにラビを紹介した。
「うっふふ。みんなぁ、よろしくねぇん」
なんだか浮いてるような気もするがまぁ馴染むだろう。
上着を脱いでいるとナンシャンテさんが駆け寄ってきた。
そして思いっきり僕にビンタをくらわした。
「こんのバカフォル!! 下手したら再試験じゃねぇかよ……」
彼女は大粒の涙をこぼした。それを袖で拭う。
アンシャンテさんも駆け寄ってきて首筋を掴んで揺すった。
「わかってますの!? 本当にわかってますの!?」
みんながみんな査定の内容を知っているわけではない。
キョトンとした顔をしている娘も居る。
とりあえず、この険悪な空気をなんとかしなければならない。
「ごめんね。僕、今日はつかれたから寝るね。おやすみ」
その夜、僕は寝付けなかった。
自分がひどく軽率な事をしたのではないかと思えたのだ。
若僧のイキリといえばそれで終わりであるし。
でもテスラ先生は勇気づけてくれた。それでも僕は迷っていた。
そんなとき、おちゃらけゴーストのお花ちゃんが現れた。
「フォルさん、めずらしく悩んでますね。しかもかなり深刻に」
たまに身の上話や世間話をする仲なので今回の話をしてみた。
「あ〜、やってしまいましたなぁ。大人の世界ではそれは通りません」
やっぱりかと僕は肩を落とした。
「でもですねぇ、私はフォルさんのそういうとこ、大好きですよ。愚直とまで言えるその生き方が。フォルさんと毎日身体を重ねてると伝わってくるんですわ」
まーた誤解されそうなこといってら。
「今回は評価されなかったかもしれませんが、私は貴方ならやれるって思ってますわ。ホントに大好きですよフォルさん……」
恥ずかしがって彼女は墓石にひっこんだ。
次の日の朝、僕はイヤな空気が漂ってそうだなと憂鬱にリビングに降りた。
するとみんなが僕の事を応援してくれていた。
代表でナンシャンテさんがやってきた。
「昨日は……その……ごめんなさい。過ぎたことを考えても仕方ねぇよな。だから私ら、フォルのマイスター獲得を応援することにしたよ!!」
「おーーーー!!」
ガールフレンド達が歓声を上げてくれた。
「まぁ、獲得するのはフォル自身だから、アタシたちは応援しかできないんだけどな……」
感極まった僕はナンシャンテさんの手を握った。
(えっ……あっ…………)
「ありがとう!! みんなの気持ちだけでとても嬉しいよ!! 僕、マイスターランクを上げてみようと思う!!」
こうして挑戦がはじまった。




