勇気ある叛逆
ある日、いきなり僕は魔術局に呼び出された。
位の高い審査官らしき老人が書面を読み上げる。
「バークライト博士。貴君には新たな新規技術の開発に望んでほしい」
とてつもなーく嫌な予感がした。結構当たるんだなこれが。
「我々、協会が″人外″の研究をしているのは知っているな? 貴君の実績を評価して依頼がある。″サッキュバスタイプ″の創造に着手してほしい」
思わず首を傾げた。
「サッキュバス? あの色香で男性を骨抜きにするという?」
重鎮はうなづいた。
「そうだ。我々は人外を作るなというくだらない禁忌を打ち破るのだ。そうすれば次のステージへあがっていける。バークライト博士、期待しているぞ!!」
とうとう魔術局が本性を出してきた。
発展させたゴーレム技術を使って人外を創れというのである。
たしかにそれは禁忌に触れる。
ただ、僕は人外を作ること自体にはさほど罪悪感は感じなかった。
問題はそれをどう使うかという問題である。
サッキュバスなんてどう考えても悪用されるに決まっているのだ。
ヘタをすると軍事転用されかねない。
おそらく、こうやって協会は軍事力を高めていくつもりなのである。
″協会は腐敗しきっている″
″利を得る方に舵を切った″
軍事力を高めて、国を脅す。そして裏で牛耳る。
もはやそういうプランが出来上がっているのである。
青臭いといわれても良い。僕はそれを許せなかった。
ナンテ姉妹にそれを相談すると2人とも険しい顔になった。
「まぁ、そりゃおまんま食わせてもらっている以上、甘んじて受け入れるしかねーわな」
「ええ。世の中、目を瞑ったほうがいいこともあります」
魔術局に日和ったナンテ姉妹に僕は宣言した。
「今回のサッキュバスは……あえて失敗します!!」
そう言うとなんだかすごくスッキリしてぼくは笑っていた。
当然、姉妹は止めてきた。
「はやまるなフォル!!下手したらGTM剥奪だぞ!!」
「そうです!!協会内の地位さえ!!発言権が無くなるという事なんですよ!? 今はこらえて……」
だが、僕は首を左右に振った。
「協会の犬なんてごめんだね!!ゴーレムを見世物にして、兵器にして、ちっとも大事にしない。そんな連中なんて大嫌いだ!!」
だが、ナンテ姉妹も譲らない。
「バカ言うなって!! おねーさんの言うことは聞けって!! そんな素体創り、てつだえるわきゃねーだろ。あたしはやんねーかんな」
「こればかりはフォルさんの頼みでも……。好きな殿方が破滅していくのは見たくありません。姉さんに同意します……」
これだから大人ってやつは!!
僕はお金を握りしめて工房を飛び出した。
そしてクランドールの工房でアナトミア・クレイを使った素体を作ってもらった。
めちゃくちゃ高額だったが、ハルネ先生のポケットマネーに比べれば駄菓子みたいなもんだった。
素体の仕上がりは悪かったが、失敗前提なので大した問題にはならなかった。
彼女は今まで会った誰よりもエッで、デッ!!だった。
サキュバスなんだから当たり前だけど。
なぜか顔は可愛い系だ。ロリデッ!!てやつだな
これはこれでいいけど、創りは甘い。
そのまま工房を借りてサッキュバスの刻印を始めた。
何度もやって来たので、身体を司る朱の術式はすぐに完成した。
問題は蒼の術式だ。
失敗させるのだからハードルは低いが、さすがに人格は破綻させてはならない。
「あはぁん」「うふぅん」「いやぁん」
自分で言っておいて思わず僕は首をかしげた。違うなコレは……。
お色気ということで、ナンテ姉妹をベースにすればいいのではと思ったが、だらしない姿をさんざん見ているのでロクでもないゴーレムが出来そうだった。
参考になりそうなのはスケスケキャミくらいであるエッ!!
僕が脳の底をあさっているとふとある言葉が浮かび上がってきた。
「アソんでア・ゲ・ル♥」
ボードゲームで? 子どもじゃあるまいし……。
そう、バー「走る仔馬亭」の女将のマーミアさんの雰囲気がまさにサッキュバスだったのである。
僕はガサガサと蒼の術式を設計し始めた。
目をつむって限界まで彼女のイメージを引っ張り出す。
「マーミアさん。ああマーミアさん。マーミアさぁん!!」
はたから見たらただの変態である。
しかし、フォルの異次元の手の速さに工房の人々は絶句した。
そしてクランドールにこもること5日間。サッキュバスのゴーレムが完成した。
ぱっちりお目々ににっこり唇。ご機嫌そうな眉、小顔。
ロリデッ!!というやつだ。
服はサッキュバスの王道でモノキニ水着のような姿で胸元がおおきくはだけていた。
それと小さな羽と尻尾が生えている。
僕は彼女の尻尾の先にFoll.Bと刻んだ。
分類からすると「コンパニオン・ゴーレムに近い」
だが、ティーリアと違って、特別な機能は何も搭載していない。
「名前は……そうだな。みんなから愛される……″ラビ″だな」
ラビはキョトンとしていた。
僕はその脚で魔術局へ向かった。
早速、課題の報告をする。
ラビが媚びた仕草をすると裁判所中が沸いた。
だが、問題はここからだ。
審査官が尋ねてきた。
して、バークライト博士、魅惑機能は搭載できてるんだろうね?」
″″チャーム″文字通り、異性を色香で落とす不思議な力のことだ。
サッキュバスは生まれつきこの特性を持つという。
だが、ラビにはそんなものは積んでいない。
兵器や慰みものにはしたくなかった。また、彼女をその元凶にはしたくなかったからだ。
「いえ、チャーム能力はありません」
あたりがざわついた。
「いえ、あえて積みませんでした。彼女の魅力ならそんな小細工をしなくてもいいと思えたからです!!」
壇上の審査官の顔が歪んだ。
「バークライト博士、″わかって″いるかな?」
その顔を見て僕は不敵に笑った。
「ええ。″わかって″いますとも」
次の瞬間、審査官は声を張り上げた。
「ディードウィッヒ審査官の名において告げる!! フォル・バークライト博士のゴーレム・トライ・マスターをソロに格下げする!!」
裁判所はざわめきに包まれた。
そして観衆の前でバッジを交換されてしまった。
この事件は教会に一石を投じる大きな騒動となった。
「馬鹿なことを」という意見が大半をしめたが、彼を擁護する声もそれなりにあった。
いずれにせよ、若くて活きの良い、度胸のある若僧とは思われたようである。
格下げされはしたが、この勇気ある反逆によって、フォルが歩きやすくなったのは間違いなかった。
こうしてフォルはゴーレムのソロ、メディスンのトライのみになった。
もっとも、これはこれでとんでもない称号なのだか。
それを見ていたハルネもアンズも肝が飛び出るほど驚いた。
だが、フォルに惚れ込んでいた2人はその漢らしい勇気と度胸にますます魅了された。
ちょっと前の自分ならうなだれるところだが、今は胸を張れる。
きっとみんなが僕に力をくれるようになったからだろう。
キョトンとするラビを連れて、僕は魔術局を出た。




