アナタの専属アイドル
先日、お金稼ぎ大作戦で欠席したアルテアが工房にやってきた。
「フォル君、この間はごめんね。今日はその埋め合わせに来たよ!!」
そんなことより僕はアルテアの体調を心配した。
「大丈夫? バイタルチェックしようか?」
ゴーレムにもバイタルチェックはある。
特に駆動関連の朱の術式、蒼の術式の異常確認は念入りにやる。
そして身体機能のチェック、部品の破損チェックもやらねばならない。
ひどい場合には記憶を保ったままセーフ・リブート(さいきどう)することもある。
これは人体とゴーレム、両方の知識がないと不可能だ。
この一連の手順が可能なために協会は僕にゴーレム創造を課したのだ。
だが、アルテアは焦ったように首を左右に振った。
「今日は私がお仕事やるよ!!見に来てくれるかな?」
僕は興味がわいてきた。これだけマルチタレントな彼女がどうやってお金を稼ぐのかと。
「じゃっ、クランドールに行こっか」
「!?」
いきなりの誘いに僕は面食らった。
「クランドール? 何しにいくの?」
アルテアははにかんだ。
「ヒ・ミ・ツ!! はやくはやく!! みんなに見つかっちゃうよ!!」
こうして僕は汽車に押し込められるようにして乗った。
周りの人がのける。
デカ男ですんません……。
クランドールにつくとアルテアは劇場街へと向かった。
懐かしい。アルテアを創るときに死ぬほどアイドルと触れ合った街だ。
群青の貴公子と呼ばれた事もあった。
あの頃の苦労と甘酸っぱい思い出で僕は思わず泣いていた。
「ふぉ、フォル君!? なんで泣いてるの!? まだ早いよ!!」
早い? アイドルへの想いに早い遅いがあるのだろうか。
アルテアにはわかるまい……と、彼女に当たってもお門違いだ。
「じゃ、しゅっぱつしんこ〜」
劇場街はそれなりに複雑な構造だ。舞台の数も多い。
だが、アルテアは迷うこと無く歩いていく。
まるで庭を歩いているようだ。
そして彼女はあるスタジオについた。
看板には「土器☆土器☆ハート♥」と書いてあった。
僕は自分の脳内データベースを漁った。
このグループは地下アイドルながら実力派で知られている。
ただ、ガチガチの実力主義なためにメンバーの入れ替わりが激しいと聞く。
推しを作るのに覚悟の要るグループと言えるだろう。
実力派ゆえに地下アイドルを、卒業してメジャーに行くアイドルも多い。
今、一番にホットなグループとも言える。
「アルテアはこのグループのファンなの?いいよね〜。地下アイドルとは思えない華やかさでさ。センターとるの難しいんだって。みんな努力してるんだろうなぁ。僕、頑張る娘、大好きだよ!!」
しまった。饒舌に語り過ぎた。
ドン引きされたろうなぁと思っていると、無言のままアルテアはスタジオに入っていってしまった。
「ちょっ、まだ公演開始してないって!!」
彼女に着いていこうとするとコワモテのガードマンに止められた。
「開演はまだです。しばらくお待ち下さい」
だが、アルテアをほうっておくわけにも行かない。
僕は食い下がって主張した。
「僕の知り合いの女の子が入って行っちゃったんですけど!!」
ガードマンは全く取り合ってくれない。
「入待ち行為は固くお断りしております。開演時間までお時間をつぶされては?」
埒が明かないと僕は首を左右に振った。
とっととアルテアを連れて帰らねば。
第一、こんなところに何の用があるというのだろう。
顔パスで推しに会いに来たのだろうか。
いや、それはありえないな。一般人が顔パスで通れるわけがない。
そうこうしているとようやくスタジオがオープンした。
僕は若干、イラつきながら観客席を眺めた。
アルテアは……いない。まったくどこに行ったんだ。
だが、こうしてソワソワしているのもアイドルヲタとしてのマナーに反する。
僕は心を落ち着けて観客席に着席した。
そしてライブが始まった。
「ハーーーイ!! みんな〜!! 張り切ってる⁉」
観客の野太い声が上がる。
「こっ、この声はまさか!!」
「みんな土器土器!!」
「土器土器!!」
ボンッ!!
打ち上げのくす玉が上がる。
「ハーーーイ!! 土器☆土器☆ハート♥センターの〜〜〜アルテアでーーーーーすッ!!!!」
僕は心臓が止まりそうになった。
は? どういうこと? 僕は夢でも見てるのか?
目の前で立派にアイドルをやっているのはあのアルテアだったのだ。
ちゃんとキュートガーリー系のコスに身を包んでいる。
「じゃ、みんないくよーーー!! 私のハートは土ッ器土器!!」
メンバーは5人いた。その中でセンターを勝ち取るのは並大抵のことではない。
彼女はフリフリフリルを揺らして歌いながらパフォーマンスしはじめた。
「わ〜た〜し〜のココロはいつも土器土器〜♪」
〈ドキドキ〜〜!!〉
(あ〜な〜た〜を見つめて土器土器〜♪)
〈ドキドキ〜〜!!〉
(あ、いま、こっち〜をみたかも〜♪)
〈みたかも〜!!〉
(やっぱり、私、アナタのことが……)
〈こ〜と〜が〜〉
(土器ッ土器ッ!!遮光器土偶ッなの〜!!)
〈なの〜〜〜!! もう一回!!〉
「オーーーーハイ!! オーーーーハイ!!」
「ハイハイハイハイハイ!!!!」
気づくと僕は全力でヲタ芸をうっていた。
「あれ、群青の貴公子じゃね?」
「マジだよ!! カッケー!!」
「本物初めてみたよ!!」
そして公演は終わった。
流石にアイドルと一緒に移動するわけにはいかなかったので、僕たちはクランドール駅で待ち合わせた。
僕は呆然として言葉が出なかった。
なんとか一言をひねり出す。
「アルテアのお仕事ってアイドルだったんだね」
彼女は恥ずかしそうに答えた。
「うん。街でスカウトされちゃって。それ以来、コッソリとね。メジャーデビューの話も来てたりして……」
急にアルテアが遠くに行ってしまった気がした。
だが、本物と遜色ない、いや、それ以上のアイドルなのだ。
まさに生まれながらと言える。
それなら素直に祝福しよう。彼女ならスターダムを駆け上っていける。
「おめでとう。もう僕が言うことはないよ。思い切り、やれるだけやってごらん」
背中を押したつもりだったが、アルテアは俯いた。
「アイドル、もうやめようと思うんだ。すっごく嬉しかった!!フォルくんがライブ見てくれて、楽しんでくれて!!でも他のお客さんもいたでしょ? 私、フォルくんだけのアイドルになりたいんだ」
おっ、専属アイドルか?
「私だけを見てて……」
そして、アルテアは僕の頬にキスした。
あぶねぇゴーレムのキス!!
唇だったら内臓がはねて死んでたぞ!!
「フォール!! 大好きだぞ!! ニヒヒ!!」
そう言いながら彼女は、はにかんだ。
すっごく駅の人々の視線が痛かったので逃げるように僕らは汽車に乗った。
いや、毎度デカくてすんません。
アルテアはと言うと僕の胸に寄りかかって眠っていた。
専属アイドル……か。
はは。僕にはもったいないくらいだな。




