3000万
今日はアルテアは欠席だ。調子が悪いらしい。
そういうときもある。あとでメンテに行ってあげよう。
「フォルの工房のピンチを助けるぞッッーーー!!!!」
「おーーーーーーッッ!!」
マルシェが勇ましく拳を突き上げるとガールフレンド達もそれに答えた。
高額な素体の元であるアナトミア・クレイを多用したことによって工房の運営資金が底を尽きてしまったのだ。
ゴーレム関連とは言え、派手に散財した僕を誰も責めなかった。
みんな……ごめんね……。
「よォし!!わたしはパイ焼いて売るぞォ!! 誰かなんと言おうと、こればっかりは誰にも負けるわけにはいかないかんね!!」
こうしてマルシュはひたすらパイを焼いて、それを売りまくった。
一日中、焼くほど気合が入っていた。
マルシュファンのおかげもあって、パイは売り切れた。
これに確かな手応えを感じたマルシュは、本格的にパイ屋としての決意を固めるのだった。
「はい。いつもと同じお給料しかあげられないけど。また別のサービスしてあげるか・ら・ね」
お、スマイル0円サービスか?
ルルゥさんはいつもと同じように看護師として働き、そのお給料を渡してくれた。
やや高めのお給料だ。派手さは無いが、落ち着いた彼女らしい堅実さだった。
「あ、はい。あまり高いお給料ではないのですが……」
エリーヌは司書なのでお給料が高いわけではなかったが、ほぼ全額を渡してくれた。
ゴーレムに食事はいらないので、家賃くらい払えば良いとはいえ、あまりの献身さに僕は泣いた。
「ちょっくら出かけてくるわ〜」
「姉さんと一緒にお勤めにいってきますわ」
こうしてナンテ姉妹はクランドールへ出かけていった。
アナトミア・クレイの案件を入れたらしい。
この粘土は本体も高ければ、加工費もバカ高い。
ナンテ姉妹は滅茶苦茶に割り引いてくれているが、本来は目玉が飛び出る金額なのだ。
つまるところ、アナトミア・クレイの素体づくりはかなり儲かる。
もっとも、心身すり減らして成形することになるので半端ない重労働ではあるが。
「私は……みんなのところへ……戻ってみます」
ミミィはバイトしていた幼稚園に戻った。
最初は怯えていた子どもたちも、明るくて優しい表情のミミィを見て戻ってきたようだ。
すると彼女は工房でも表情が柔らかくなり、孤立気味だったのが改善した。
幼稚園にもぼちぼち復職するようだ。
「123ハイ!! そこ、ステップ間違ってますわ!!」
ティーリアは着付け、マナーだけでなく、ダンス教室を開いた。
アルテアの家から独立して、実費でダンススタジオを建ててしまった。
オーッホッホごきげんようとか言ってたのが昨日のように感じられる。
今やゴーレムの中でも屈指のハイスペックさを誇る。
やはりアイドルやお嬢様など、実在の人格をベースにしたほうが高性能になりやすいのかもしれない。
もっとも、性能でゴーレムを比べるのは論外だが。
「そこ!! 安全第一でね。あ、そこ危ないから私がやるわ。キミは休んで。ずっと作業してるでしょ?」
ボーンズちゃ……いや、″クライト″は全員の推薦を受けて親方に昇進したらしい。
人間の形をしているので細かい動作は出来るし、紫の術式が刻まれているので力仕事もできる。
それに現場の叩き上げで積み上げた経験値は高い。
女性人格ならではの気遣いも出来て、誰にでも優しい。
ゴーレムに関してもメンテしてくれているらしく、すこぶる評判が良い。
お料理、掃除に洗濯、建築、土木作業たくましいお嫁さんだ。
お嫁さん?
インフィニは僕の助手を務めてくれた。
これといったスキルがないから働きにはでかけられないけど、よくやってくれてる。
僕も汗をかきながら長髪をかきあげた。
いや、僕も一生懸命、働いてるよ……。
今回はゴーレムの修理、調律を中心にやっている。
僕が思うように仕事が出来なかった間に依頼はかなりたまっていた。
本当にすいません……。
「う〜ら〜め〜し〜やぁ〜」
お花ちゃんはお化け屋敷で働いていた。
これがとっても怖いと話題になった。
そりゃマジモンなんだからこわいでしょ……。
本人もまんざらでないらしく、けらけら笑いながらお客さんを驚かせている。
「こんちは〜。お疲れさんっす」
おばあさんが通り過ぎていった。
そのあと、スタッフがやってきた。
「いや〜、キミ、脚どうやって消してんの?」
「デュへへ……。あ、ところで、スタッフさんにおばあさんなんて居ましたっけ?」
スタッフさんは首をかしげた。
「あれ、おばあさんなんて居ないよ?」
「ギャーーーーー!! おばけーーーー!!」
王立宮廷魔術師のガールフレンドもかけつけてくれた。
一番ゴージャスだったのはハルネ先生だ。
「建設途中の病院の設備、私が監修してやろう。第一、経験者がいないだろ。まぁ任せておけ」
彼女はわずか半日で完璧な設備図を完成させた。
これには関係者全員が脱帽した。メディスンのトライは伊達ではない。
この仕事で莫大な資金が入ってきた。桁が違う。
正直、ハルネ先生の分だけで遊んで暮らせるレベルだった。
だが、本人からすればポケットマネーらしい。
どんなだ。
アンズさんも来てくれた。
「ここいらのキャマ・クーラの山は長いこと獣払いしてねーでな。片っ端から狩って素材を売るど。あ、ちゃんと許可はとってるでな」
こうして彼女は熊の毛皮をかぶって山に潜っていった。
半日経っても帰ってこないので心配していると小さな体に似合わぬ大金を抱えて帰ってきた。
「換金してきた。レアなのは居なかったでな。ま、山1つ丸々じゃこんなもんじゃ」
山1つ丸々。聞き違いと思わざるを得ない。
「オキャクサン、ホワイトビール、ドウカナカナ?」
「シンリンパスタ、オイシイヨ、ドウカナカナ?」
フーちゃんはバー「走る仔馬亭」でバイトさせてもらっている。
配膳ゴーレムが珍しいのと、媚を売ることを覚えたのでチヤホヤされているらしい。
ちゃんと感情も発現しており、短文ながらお客さんとの円滑なコミュニケーションが可能だ。
社交場とは比べ物にならない扱いだ。
感情が生まれた今、さぞかし幸せな時をすごしているだろう。
キキョウは忍者ショーに出ているらしい。
「投げクナイ!!」
「おーーーー!!」
「煙玉!!」
「おーーーー!!」
「畳返し!!」
「おーーーー!!」
だが、彼女は自分が見世物になるのをあまり快く思っていなかった。
「くっ、何たる屈辱!! 暗殺で儲けるのがあんなに容易かったとは!! やはりここは!!」
しかし、彼女はフォルに釘をさされていた。
「いいね、人殺しは″可愛くない″からね!!」
それを思い出したキキョウは思いとどまった。
「くっ、まともな労働とはかくなるものか……!!」
こうして15人の力を結集したお金稼ぎは終わった。
そして金額が発表された。
「金額合計は……一日で200万シエール!!みんな、本当にありがとう!!」※約200万円
その場の全員が歓声を上げた。
だが、僕は内心でビクビクしていた。ほんとは3000万シエールも儲かっていたのである。
(こ、こんな額があると知られたらこの工房はただのだらだらとしたハーレムと化してしまう。僕は……僕は真面目に暮らしたいんだッ!!)
ハルネ先生に目配せすると彼女もうなづいてくれた。
こうして楽しい楽しい打ち上げが夜通し続くのだった。
小切手で3000万シエールとかやばいな。指が震えるよ。
ち、ちょきんしておこう。
僕は臭いものに蓋ををした。お金が臭いとはこれいかに。




