名字をとって″クライト″
ある日、僕は轟音で目を覚ました。
「ガガガガ!!メキメキメキメキ!!」
とてつもなく大きな存在が屋根を剥がす。
それはボーンズちゃんだった。
「あ、あのぉ……ボーンズさん、屋根なんかはがしてどうしようっていうんです?」
すると彼女はゴーレムを載せるテーブルをひょいっと持ち上げた。
「ああっ!! テーブルが!!」
その後もボーンズちゃんは丁寧に僕の私物を運び出していった。
そして終いには工房を殴って更地にしてしまった。
思わず僕は四つん這いになった。
「じっ、じっちゃんの工房が……。な、なんでこんなことを……」
あまりの暴挙に逆に何も言えない。
すると大量の作業ゴーレムがやって来て僕をつまみだした。
そのまま突然に工事を始める。
愕然としていると大工の親方さんがやってきた。
「へい。ボーンズちゃんの依頼でな。手狭になった工房を改築しに来たぜぇ」
気持ちはありがたいが、心の準備というものがだな。
僕の心境を無視して、恐ろしいペースでリフォーム……というか、建て替えが進んでいく。
さすがにこれにはみんなも驚いていたようだったが、不安げに完成を見守った。
一週間もすると新しい工房が完成した。
前より遥かに広く、しかも地下室ありの2階建ての工房だ。
あまりの立派さについ僕ははしゃいでしまった。
同時にお古を破壊したことをじっちゃんに謝った。
「じっちゃんごめん。新しい工房に浮気して。どうか化けて化けて出ないでくれよ!!」
いや、じっちゃんは死んでないのだが。
扉を空けて入ると大きなリビングが目に入った。
こりゃあすごい。相当、女の子が来ても狭くなりすぎるということはない。
地下にはまともなスペースも用意してありゴーレム用のテーブルがセットしてあった。
かなりの広さもあり、まさに書斎と言った感じだ。
これならゴーレムの修理・調律、病院の書類なども集中して書ける。
ちゃんと大型ゴーレムの搬入口もある。
至れり尽くせりで内側からかけるカギもある。
僕は感動のあまり泣いた。
その時、搬入口からボーンズちゃんが顔をのぞかせた。
やたら嬉しそうに手を振っている。
これならいつでも逢いに来れるというわけだ。
これがやりたかったんだな……。
2Fは僕専用のベッドルームで、ここも内側からカギがかかる。
プライベートが確保できるし、なによりナンテ姉妹に占拠される心配がない。
もう硬くて狭いソファーに寝ることはない。戦いは……終わったんだ。
だが、ちゃっかりベッドの下に墓が移動していた。
お花ちゃんから逃げることは出来ないらしい。
新たな工房を紹介するとみんな喜んでいた。
自分ちみたいに使ってたんだから当たり前なのだが。
ギリギリ10人くらい入りそうだったが、なぜだか増えれば増えるほど空気が物騒になる。
そういうとき、僕は地下室に逃げるのだった。
僕が居なくなると和気あいあいしてるみたいなんだけど。
女の子ってわかんないなぁ。
あれ、僕、いらなくね?
一人勝ちしたのはボーンズちゃんである。
地下室に入ると決まって窓をノックして逢いに来る。
特に何をするでもなく、静かにこちらを見守っているだけなので心が落ち着く。
お嫁さんの余裕というものだろうか。
だが、僕は彼女を見ていると不憫に思うことがある。
自分にも人間の姿をした素体がほしいと思っているのは間違いない。
結構、長い付き合いだ。それくらいはなんとなくわかる。
だが、彼女はロール・ゴーレムの発展系みたいなもので、人間の素体との互換性がないのだ。
移植を試みたとしてもおそらく朱の術式の時点で身体能力が発現せず、反応しなくなってしまうだろう。
ナンテ姉妹が渋い顔をするのが目に見える。
こればかりはどうすることもできない。
ありのままを接することしかできないな。
ひらひらと僕が手を振るとボーンズちゃんも手を振り返した。
地下室から出るとミミィとキキョウが喧嘩していた。
「私がフォル殿のお嫁さん候補なんだぞ!!」
「ハン!!あんた、可愛いっていわれたことあるのかい!?」
2人とも紫の術式全開でやりあっている。
「こらこら!! 家の中でリミッター解除しないで!! 外でやってよ!!」
その時、僕に電撃が走った。
早速、ナンテ姉妹に素体の創造を依頼した。
「ほ〜ん。紫の術式をねえ。今回は可能性はある。まぁ、こんなこと、あんたしか思いつかないけど」
「しかし、フォルさん。これ以上、アナトミア・クレイを使うとこんどこそすっからかんになってしまいます。……それでも?」
「あぁ、やってよ」
僕は深くうなづいた。
こうしてボーンズちゃん監修のもと、素体の創造が始まった。
出来上がった素体の体格はナンテ姉妹に良く似ていた。
ただ、顔は穏やかで優しい顔をしていた。癒し系といった感じだろうか。
デッ!!
「にしても、ボーンズちゃんってこんなイメージだったの?」
彼女は思わず頭を掻いた。
そして僕は紫の術式を刻み始めた。
僕は慎重に朱と蒼を混ぜていく。
微妙なムラや色の偏りが生じると紫の術式は起動しない。
今回も非常に繊細な工程となった。
2日くらい徹夜して出来た紫の術式を丁寧に刻印していく。
そして素体の胸の谷間にFoll.Bと魂名を刻んだ。
「うまく行けよ!!ゴーレム・バース!!」
すると作業ロボのボーンズちゃんは崩れ落ちた。
精神構造が抜けて、ただの金属の塊となったのだ。
素体は動かない。駄目かと思ったその時。
テーブル上のボーンズちゃんが起き上がった。
ナンテ姉妹はまたもや驚愕した。そして歓声を上げた。
「うお!!マジかよやりやがった!!」
「奇跡を呼ぶ男……いえ、奇跡を実力で引き寄せる男!!」
2人が感心しているうちに全裸のボーンズちゃんはフォルに駆け寄った。
そして、深くキスをした。
(まずい、ゴーレムのマウストゥマウスはまずい!!臓物が破裂してしまう!!)
むちゅっ。
柔らかいキッスはそれで終わった。
「フォルのばか。ずっと、ずっと、この時を待ってたのよ!!」
反応を見るにかなり精神年齢が高い。
包容力があって、お姉さんのようだった。
あ、いや、でも奥さんなのか。
またもや彼女はキスしようとしてきた。
思わずナンテ姉妹がなぐこんできた。
「このやろー。ちゅっちゅちゅっちゅしやがって!!」
「これは見過ごせません!!折檻です!!」
なぜか僕がナンテ姉妹にボコボコにされて事態は収束した。
僕がたんこぶを冷やしながら書斎に居るとボーンズちゃんがやってきた。
「ねぇ、ホントの名前、教えてよ。ボーンズちゃんじゃアレでしょ」
彼女の年上特有の落ち着いた声、仕草で心が安らぐ。
今までにいないタイプだった。
「じゃあクライトでお願い。あなたの名字からとってクライト。お嫁さんなんだから当然よね?」
ひえー、なんか恐妻の香りがするぞ。
それはそうと彼女を見ていて思い出した。
活動資金が底をついたんだったよ。
ハァ、一体どうやってお金儲けしようか……。




