人を殺さなくてもいいんだよ
流石に夜まで女の子がいると気が安がないので、時間を決めて追い出すようにしている。
基本的に常駐しているのは保護が必要なインフィニとフーちゃんだけだ。
いや、ミミィが居たな。彼女はいつも″護衛″″護衛″と夜の間、離れることがない。
目覚まし機能の役割でもあるのだが、枕元で2m近い女の子が正座していると流石に圧がある。
今夜はインフィニとフーちゃんはアルテアとティーリアの家に泊まりに行った。
フーちゃんも可愛がられているようでなによりだ。
いきなり「フォルサンアイシテル」とかいうのは勘弁してほしいが。
おちゃらけお花ちゃんは″オボン″で実家に帰っているらしい。
オボンって何? トレイのことかな?
そういうわけで今日はミミィだけが音も立てず枕元で正座している。
僕は内心、心配だった。
近距離で戦ってしまい、幼稚園に怖がられたのを気にしていると思ったからだ。
「ねぇ、ミミィ。もっと肩の力を抜いて。みんな明るくて優しいミミィのほうが好きなんだよ?」
彼女はギロリと僕を見下ろした。
「肩の力を抜けというのはご命令ですか?」
だめだこりゃ。下手に刺激しても良くないので、僕は返事をせずに眠った。
ギィん!!
鈍い音がして飛び起きた。慌ててメガネをつけると見知らぬゴーレムとミミィが斬り合っていた。
ミミィが日本刀を振り上げると、猿のような動きで何者かが飛び退いた。
「貴様、何奴。フォル殿は私が護る!!」
体の表面に紫の術式が浮き上がった。ミミィは本気だ。
リミッターを切っておいて正解だったと思った。
僕はともかく、この相手ではミミィがバラバラにされてしまう。
パッと見た限りでは人を殺すことに特化した「キリング・ゴーレム」だ。
「貴様、なぜフォル殿を狙う!!」
相手は手裏剣を投げてきた。ミミィが残らず刀で弾く。
「せえっ!!」
ガードマンタイプのゴーレムは思い切り刀で切り上げた。
「うわ!! 僕の工房が!!」
激しいぶつかり合いは続いた。
敵は器用な身のこなしでミミィの首筋にとりついた。
このままでは首が落とされてしまう。
ゴーレムは首をはねられても死ぬことはないが、視覚が分断されてしまうので勝ち目はなくなる。
首をやられてしまう!!
するとミミィはすばやく腕でガードした。
代わりに腕が吹っ飛ぶ。
それと同時に斬られた腕をロケットパンチにして発射した。
完全な奇襲に対応できず、暗殺者は頭を強打して倒れた。
それを手加減なしにミミィが踏みつけた。
「首を落とします」
彼女の顔は冷徹だった。
思わず僕は刺客をかばった。
「駄目だよミミィ!!彼女は悪くない!!術式のせいなんだから!!それに思い出して!!キミもキリング・ゴーレムだったじゃないか!!本当に殺しを愉しんでいたの?」
ミミィはトリモチ・ランチャーを発射すると膝をついて黙り込んでしまった。
「本物のキリング・ゴーレムなんて……いないんだよ」
僕が肩を叩くとミミィはすすり泣いているようだった。
頭には赤い頭巾を被り、忍び装束を着ていて両手にくないをかまえている。
「これは……ニンジャタイプかぁ。クノイチってやつかな。キャマ・クーラではそこそこ見るね。他の地域ではあんまりいないけど」
ニンジャのゴーレムは必死にもがいているが、トリモチはそう簡単には外れない。
「ねぇ、誰が僕を暗殺しろなんて言ったの?何の目的で?得することなんてないでしょ」
「…………………」
流石にそう簡単には口を割らないらしい。
だが、僕はゲスい笑いを浮かべた。
「これでもくらえ!!バークライト流!! ゴーレムこちょこちょ術!!」
秘孔を突くようにしてくすぐったいツボを刺激しまくったのだ。
「あはは!! ヒーッヒーッ!! ふふははは!! やめろやーめーろーー!!」
かなり苦しそうだ。このままやると″落ちる″
だが、いくら温厚な僕とて、命を狙わらたらタダで返すわけには行かない。
拷問のようになるが致し方ないと覚悟を決めて彼女をくすぐろうとした。
するとミミィが立ち上がって意外な頼みをしてきた。
「もう、くすぐるのは止めにしてやってくれませんか。悪いのはその娘ではないのだから」
クノイチは不満そうだ。
「ハン。敵に情をかけられるとはヤキが回ったもんだ」
だが、ミミィから思わぬ言葉が出てきた。
「私もキリング・ゴーレムだったんだ。そこの主を殺そうとしたこともある。だが、今はこうして主を護ることが出来ている。自分の″意思″でな。お前にも人に命令されずにやりたいことがあるだろう。それを……大事にすると良い」
そしてミミィはクノイチのトリモチを斬った。
「!? お、おまえら……」
僕もミミィも笑みを浮かべていた。
「き、貴様ら、狂っている!! 私はお前らを!!」
その時、彼女の脳裏に″私もキリング・ゴーレムだった″という言葉が浮かんできた。
いつの間にかクノイチのゴーレムは泣いていた。
「ひっ、人を殺さず生きてもいいのか。人を殺すことが私の生き甲斐だったんじゃないのか? 私は……私は人を殺したい……のか?」
戸惑う彼女をミミィは抱きしめた。
「なんだ。立派な意思があるじゃないか。お前は……人を殺さなくても良いんだ。人を殺さなくても生きてて良いんだよ」
その日のうちにおまわりさんがやって来た。
「さぁ、こっちに来い!!」
ゴーレムが引っ張っていかれそうになったので、思わず僕はそれを引き止めた。
「その娘は洗脳されていただけなんです。大丈夫。もう人は傷つけません」
お巡りさんは戸惑っていたが、バークライト博士の言うことだからと了承して書類を書いていた。
フォルの言葉を聞いて殺人ゴーレムは目を見開いた。
そして犯人を明かし始めた。
「………山向にボッツというデカい病院の医者が居る。そいつはバークライトを殺して、建設中の病院を乗っ取ろうとしたんだ。自分の病院を広げて権威とカネを欲したのさ」
それを聞いたお巡りさんたちはざわつき始めた。
「調査してみます。ご協力、ありがとうございました!!」
後日、ボッツという医者が逮捕されたとの報告が入った。
どうやら、本気で僕を暗殺して病院を乗っ取る気だったらしい。
呑気者の僕もさすがにこれにはビビった。
事件が一段落すると、キリング・ゴーレムは無言で去っていこうとした。
「キミ、名前は?」
「あたいはキキョウ。それがなんだ?」
僕は手を差し出した。よければウチにおいでよ。
「寂しくないし、きっと楽しくなると思うよ」
彼女はニヒルに笑った。
「キリング・ゴーレムだぞ? 蒼の術式を書き換えて″洗脳″しないのか? 私はいつでもお前を殺せるんだぞ?」
だが僕は苦笑いした。
「はは。自爆装置とか積んでた娘とかもいたからね。それに比べればキミなんて″可愛い″もんさ」
「かっかっ、可愛い!?」
彼女は真っ赤になってしまった。
こうしてクノイチ・ゴーレムのキキョウが新たに加わったのだった。
「なんでお前に目覚まし機能がついてるんだ!!」
「ハン!!それはこっちのセリフだよ!!」
ミミィとキキョウ……犬猿の仲だなこりゃ。
にしても朝っぱらから喧嘩しないでほしい。
「早く起きてください!!」
「さっさと起きろ!!」
ハァ……。




