フォルサンスキスキアイシテル
同伴用のコンパニオン・ゴーレムのティーリアが工房から独り立ちしてからだいぶ経つ。
お嬢様の人格で主にフォーマルな場でしか活躍できないはずのゴーレムだった。
しかし、アルテアと同居させるようになって凄まじいシナジー効果が現れた。
2人の相性は抜群だった。
ティーリアはアルテアの影響を受けておしとやかに、アルテアはティーリアの影響を受けて活発的上になっていったのである。
どちらも過度ではなく、絶妙な塩梅である。
彼女らを同居させたのは英断だった。
さらにティーリアは自分の長所を活かし、着付け、マナー講座を開いた。
キャマにはその手の教室はなかったので、すぐに人気となった。
マダム中心だが、男性もそれなりに来る。
仕事面では商業ベースに乗り、一番、成功したと言える活躍ぶりだ。
彼女もお嬢様の性格を観察して創った。
やはり、1から作るとポテンシャルが高い傾向にあるらしい。
初期は調律に苦労したが、それでも比較的早く自立できた。
失礼だが、頭がゆるそうに見えて実はかなり賢い。
エリーヌの次くらいに聡明なのではなかろうか。
空気を読むのも、立ち回りも上手い。
これに加えてアルテアが加わるともう鬼に金棒だ。
髪型をどちらかソックリに換装すると社交界姉妹の完成である。
アルテアを男装させれば舞踏会への参加も可能だ。
別に僕自身には品があるわけでもないのだが、格が上がった今、結構その界隈へのお誘いがある。
正直、ニガテではあるし、辞退したいところなのだが、それでは心象が悪い。
魔術局において、仕事だけやる仕事馬鹿はいらないのである。
こうやって聞き分けの良い犬を繋いでおくというわけだ。
意外なことにあのアンズさんでさえ、ドレスを着飾ってくる。
ちょっと小さいのが玉に瑕だが、ダンスもやってのける。
これには感心せざるを得なかった。
もっとも、その時のためのアルテアとティーリアである。
今日のティーリアは金髪にクルクルロール、ピンクのドレスでいかにもお嬢様といった見た目だ。
さりげなく僕をサポートしたり、エスコートしたりしてくれる。
本当にありがたい。ただひたすら感謝するばかりだ。
そんな中、来賓たちの間を動くゴーレムがいた。
「オリョウリヲオトドケシマシタ……」
席の間をまわって配膳するゴーレムである。
丸い頭に身体の前にお盆がついている。
脚はローラータイヤでコロコロと転がって移動している。
だが、会場中がそのゴーレムを笑い者にした。
僕の連れているティーリア、アルテアに比べれば玩具のようなものだったからである。
おまけに馬鹿にして蹴るような輩も居る。
思わず僕は立ち上がって抗議しようとしたが、ティーリアが止めた。
「フォル様、貴方はゴーレムのことになると熱くなりすぎます。ここはこらえて……」
そう言われて、僕は頭を冷やした。
するとティーリアは尋ねてきた。
「フォル様、あの方には意思とか、自我みたいなものはありますの?」
しばらく考えると僕は答えを出した。
「う〜ん、あれはロール・ゴーレム。コンパニオン・ゴーレムより活動範囲が狭いんだ。ごくごく簡単な動作を繰り返す機能しか無い。意思とか、自我みたいなものは″全く″ないね。でも、だからといって乱暴に扱って言い訳がないよ」
コンパニオン・ゴーレムであるティーリアは切なそうな顔をした。
「じゃあ、あの方とお話したりはできませんの?」
難しい質問がきた。
ほとんどのロール・ゴーレムに刻印されている蒼の術式は″点″のみなのだ。
新たに蒼の術式を刻印することも出来るが、それは1から人格を設計するのと同じだ。
さらに、繊細な神経構造を想定して造られていないので、刻印に成功したとしても性格が発現しない可能性が高い。
要するに、今の姿が限界。MAXのパフォーマンスなのである。
今回も無事にパーティーが終わった。
僕はげんなりして大きく息を吐いた。
帰ろうかとあたりを見回すとティーリアがいない。
するとアルテアが厨房の方を指さした。
そちらに行ってみるとティーリアがコックに何やら頼み込んでいる。
間に入るとコックは言った。
「そういうのはね、館のご主人さんに言ってください。困りますよ」
何を頼んでいるのかと思えば、先程のロール・ゴーレムを買い取りたいというのである。
同伴のためだけに造られたティーリア。
料理を運ぶためだけに造られたゴーレム。
どこかでシンパシーを感じるところがあったのだろう。
「ティーリア。いいよ。わかった。主人の方にかけあってみるよ」
感極まった彼女は僕に抱きついてきた。
アルテアの視線がグサリと刺さる。
館の主人と話すとすぐに僕のGTMバッジに気づいたらしい。
その結果、タダであのロール・ゴーレムをもらえることになった。
やたら頭をペコペコ下げてたけどなんか申し訳ないなぁ。
帰りの汽車でめちゃくちゃ邪魔だったけど、僕も大概デカいので文句は言えなかった。
こうしてこのロール・ゴーレムをキャマまで連れてくることに成功した。
そしてとりあえず工房に運び込んだ。
「で、ティーリア。この子の名前は?」
しばらく彼女は考え込んでいたが、思いついたように答えた。
「フードメイドの″フー″ちゃんですわ!!」
なかなかいい名前だと僕はうなづいた。
同時にティーリアは懇願してきた。
「いくらなんでも感情がないのは可哀想ですの!! 失敗してもいいですから、蒼の術式を入れてあげてください!!」
流石にこれは無駄になる。
ナンテ姉妹の反応も渋かった。
「いやー、さすがにロール・ゴーレムに蒼の術式はキツいっしょ」
「はい。人格が発現しないと思いますよ」
こればっかりはバークライト流の秘伝技でもどうこうなるもんではない。
だが、僕はティーリアの願いにかけてみることにした。
「はぁ〜。フォルったらほんとお人好し。まぁそういうとこがたまらんわ」
「ふふっ。そこは姉さんと同意見ですわ。お手伝いはできないけれど、幸運をお祈りいたしますわ」
っていうか2人揃って下着でベッドに寝るのやめれ。
透けキャミエッ!!
こうして僕は出来る限りのベストをつくした。
1から、しかも変な素体への刻印は僕の体力を著しく奪った。
3徹くらいしたころだろうか。フーちゃんへの刻印が終了した。
お盆のプレートの裏にFoll.Bと刻む。
そしてゴーレム関係者が見守る中、火を入れた。
「いくぞっ!! ゴーレム・バース!!」
フーちゃんが動き出した。まぁ特に変わらないロール・ゴーレムになるだろう。
「オリョウリヲオトドケシマシタ」
その場のみんなが肩を落とした。
その次の瞬間だった。
「ティーリア。てぃりあダイスキ……」
一同に衝撃が走った。
「せ、性格が……発現した……」
設計した僕も驚愕した。
ナンテ姉妹は土下座し始めた。
「ひえ〜フォルさまさま〜」
「な、なんでもしますからおゆるしを〜」
そしてフーちゃんは僕の方を向くと呟いた。
「ふぉるさん、スキスキ」
え。ここは適当に誤魔化す!!
「ほら、僕にも懐いてるからさ!!」
またもやフーちゃんがささやきかけてきた。
「ふぉるさん、スキスキ、アイシテル」
まっ、待ってくれ、きっと僕の魂名をきざんだから。
ほらさ、別に僕がそんな人格に設定したわけじゃなくてさ。
やめて、そんな冷たい目で見ないでよ!!
こうしてまた1人、女の子が増えた。
まぁティーリアがとても喜んでるし、良しとしよう。
あれ、なんでだか、ますますピリピリしてないか?




