誰かを護るということ
ボーンズちゃんに喧嘩をふっかけてこっぴどくやられたミミィ。
立ち直るのに時間がかかったけど、もう大丈夫そうだ。
というのもティーリアや新しいゴーレム、インフィニのおもりをするうち、それがアイデンティティになりつつあったのだ。
ガードマンの気質は残しつつも、優しく育ったとも言える。
メガネを上げながら僕は笑った。
「はは。保母さんとか向いてるんじゃない? 僕が推薦するよ」
だが、ミミィは頭を掻いて答えた。
「はは。こんな無骨でデカい女は子どもたちに怖がられてしまいますよ」
そんなことはないと思うんだけどな……。
ものは試しだと僕はミミィを幼稚園に派遣してみることにした。
予想通り、彼女の保母さんの相性はよく、しっかり働けているとの評価をもらった。
子どもたちにも囲まれて幸せそうだ。
もとはキリング・ゴーレムだったのに。
ここまで平和に溶け込むと涙が出てきそうになる。
そうだよミミィ。キミは戦わなくても自己表現することが出来るんだ。
もう、戦闘にこだわる必要はないんだよ。
それを褒めたら彼女はとても嬉しそうにしていた。
そろそろ独り立ちしてもいいだろうと思って家を確保しようと思う。
……のだが、僕の護衛護衛といって話を聞かない。
そのため、だいぶ長く過ごすゴーレムとなった。
安定した性格で波風も立てないので、同居するぶんには問題ないのだが、あれこれお嫁さんみたいだな?
向こうはどう思ってるかわからないけど、まぁそりゃ無いな。
一方のミミィはフォルを強く意識していた。
「独り立ち出来ると思ってもらえたのは嬉しいけど、私の存在価値はフォル殿を護衛することにある。でも……護衛? 最近、護衛なんかしてないし……。私、必要とされていないのかも……」
ミミィはおそるおそるフォルへ尋ねた。
「あ、あの……フォル殿は私のこと、どのように思っておいでなのですか?」
青年はメガネを上げながら答えた。
「家族……かな。妹みたいな感じがするよ」
それはミミィが期待していた答えとは違っていた。
「長いこと一緒に居るお嫁さん」
と言ってほしかったのだ。
淡い期待は砕かれて、ミミィは工房を飛び出していってしまった。
フォルは彼女が何かを求めているのかはわかったが、ニブチンなので何を求めているかまではわからなかった。
それを見ていたインフィニは不機嫌に頬を膨らませた。
「えーわかんないのぉ!? ″乙女の危機″だよ!!」
マセ気味のゴーレムは驚いた様子だ。
そして、正解を伝えた。
「ずばり、コイゴコロ!!」
僕は真剣に考え始めた。
「コイ……ゴコロ……鯉? 鯉ゴロゴロ……まな板の上の鯉!! 乙女の危機!! ここままではミミィが危ない!!」
謎の早合点をしながらフォルは工房を飛び出していった。
インフィニは空いた口が塞がらなかった。
「おにいちゃん……その鯉じゃないよ……」
またもや自信をなくしたミミィは街中をとぼとぼ歩いていた。
彼女は確かに精神面で安定はしていたが、自己肯定感が弱いところがあった。
普通の人間でもこういう人は少なくない。ゴーレム故の不安定さではないのだ。
彼女を追うフォルにも心当たりかあった。
この間の出張で打ちのめされた彼も塞ぎ込んだときがあったのだ。
何が原因かはよくわからなかったが、ミミィが自信をなくしたのは痛いほどわかった。
気づくとミミィは幼稚園の前にたどり着いていた。
そして自然と笑みがこぼれた。
「ふふっ、私にはここがあるじゃないか」
だが、突然、幼稚園の庭から悲鳴が聞こえた。
「何事!?」
ミミィが素早く階段を登るとそこにはセクシーな衣装の女がいた。
そして男の子の首筋にナイフをあてがっていた。
「あたしはジュッテ団リーダー。ハンナ・ハンナだよぉ!! 知ってるんだよ。この幼稚園は結構、ボンボンが居るんだ!! ガキの命が惜しけりゃ身代金を出すんだね」
子どもたちがミミィの背後に隠れた。
「おねーちゃーん!!」
「こわいよぉ〜!!」
ガードマン・ゴーレムは子どもを安心させるように微笑んだ。
するとミミィは指を折ってハンドガンを放ち、ハンナを牽制した。
思わずハンナは男の子を突き飛ばしてしまった。
「チィッ!! なめるんじゃないよ!! あんたらにゃ散々(さんざん)、辛酸舐めさせられてんだ!! 対ゴーレム兵器を死ぬほど用意してあるんだよぉ!!」
彼女はトリモチ・ランチャーを打ち込んできた。
子どもをかばうとそれによって片足の動きが封印された。
「くっ!! 不覚!!」
もがいたが、とれそうな気配がない。
「ほんでもって、クリムゾン・クリーナー!! 朱の術式を溶かして、肉体の自由を奪う!!」
ミミィは膝をついてダウンしてしまった。
「まだまだぁ!! おまけで蒼の術式を引っ掻き回すムチ。ダーク・ブルーウィップだよ!! これは効くよぉ!!繰り返し食らうと廃人確定だ!!死ね!!クソゴーレム!!」
「バチバチバチ!! ジィジィジィ!! パシン!!」
「うああああああ!!」
そして何発か打ち込まれたミミィはピクリとも動かなくなった。
「はぁ、はぁ、ハン。所詮デクか。人間様をなめんじゃないよ!!」
ハンナはミミィを蹴り飛ばした。
子どもが駆け寄るがミミィはピクリとも動かない。
「おねえちゃん」
「どうしたのおねーちゃん!!」
「うわーん!! おねえちゃん!!」
だが彼女はギイギイと音を立てながら起き上がった。
「朱の術式、蒼の術式、融合!! 紫の術式!!」
ミミィは欠けた術式を補ってリブートした。
そしてクラウチングスタートをきるとハンナに思い切りタックルをくらわせた。
「そっ、そんなバナナ……」
ミミィは振り返って子どもたちに笑いかけたが、彼等彼女らは怯えて後ずさった。
ミミィはとても悲しい顔をして幼稚園を去った。
その後、彼女は再びそこに行くことはなかった。
結局、毎朝、目覚ましモードで朝起こしに来てくれる。
「フォル殿、今回は情けないところを見せてしまいました。私は力がほしいです。どんな相手からも大切な人を護れるための。そして、私は貴方を護るガードマンでありたい。それが私の存在意義。どうですか?」
彼女は吹っ切れたと言うか開き直った感があった。
かなり重いけど、それでミミィの自信がつくなら。
んー、でもさ、保母さんやってた時の優しさをわすれたらダメなんだと思うよ。
後でチェックしたらミミィの術式は朱と蒼が混じって紫色になっていた。
これなら身体能力と脳の役割がダイレクトに伝わることになる。
おそろしい反応速度が出せるだろう。
そして、僕はナイショでミミィのリミッターを外した。
かなり危険だが、これは彼女自身を護ることにもなる。
もう、彼女は負けない。鯉のココロとシンクロすることで、パワーアップするのかはわからないが。
目覚まし機能で起きるとなんだかミミィがモジモジしていた。
枕元に正座されるとだいぶ圧がある。
彼女はモジモジしながら頼み込んできた。
「わ、私を……お嫁さんにしてくださいませんか?」
それを聞いた途端、ボーンズちゃんが頭に浮かんだ。
しこたま殴られる僕が目に浮かぶ。
「そ……そのうちね」
これは非常に好意的に受け取られてしまったらしく、ミミィは感極まって笑い泣きしていた。
いや、お嫁さんはまずいよ。一線、越えちゃってないようで越えてるよ。
いや、別に一線は越えてないか。うん。越えてないか。
そもそもイッセンってなんだ?




