ハルネとアンズの激励
神様が願いを聞いてくれた!!
僕に5日間の出張の辞令が出たのだ!!
これで少しの間だけど女の子漬けから解放される!!
重役の人が訓示を述べた。
「クランドール北部でユキダルマントロールという野生生物が大量発生している。死人は出ていないが、かなりの数の負傷者が居るという。君たちはこれの殲滅とけが人の救助を命ずる!!」
よし、僕のゴーレムの出番だな!! トロールなんて蹴散らしてやる!!
だが、僕が振り分けられたのは医療班だった。
いや、そりゃメディスン・ソロ・マイスター持ってるけどさ……。
実のところ、メディスンの称号はゴーレムと比べ物にならないほど母数がはるかに多い。
なのでソロなんてペーペーなのだった。
でもなんでメディスン起用なの……。ゴーレム使いの立場は低いからか。
すると隣にトライの権威、ハルネさんがやって来た。
整った顔立ちで、目はぱっちり。鼻は低めの童顔だ。
だが、白衣を着ていると凛々(りり)しい。上はベージュで下は黒いスカート、そしてデニール高めのストッキングだ。
伊達にトライではない。
身長は女性にしてはやや高い。166cmくらいかな。
結構、スパルタだって聞くけど。
「キミがGTMのフォルか。一緒の班だな。頑張ろう」
嫌味にならない程度の香水が香った。
歳は聞けるわけ無いけど、大人の女性って感じかな。
こうして、僕らは汽車でクランドール北部のアーリス山脈に向かった。
どうやらトロールは中腹の民家に籠城しているらしい。
そこから追いやられた人達が駅の周りに避難してきている感じだ。
見たところ重傷者はいないようだが数が多い。
僕らは急いで治療に取り掛かった。
結構、早く手当をしているつもりだったのだが、ハルネ先生は恐ろしく速い。
まるで魔法を使っているかのようだった。
「ほら、フォル!! 手を止めるなッ!!」
まるで鬼教官のようであるが、人の命が関わっている。
もっともな指示だ。
「ハイ、すいません!!」
「すいませんじゃない!! いいから手を動かせ手をッ!!」
マイスター称号でいい気になっていた自分が恥ずかしくなってきた。
怪我人は多かったが、トライ所持者の活躍でなんとか全員が軽症ですんだ。
ハルネ先生が僕の肩を叩いてきた。
「ソロの割にはよくやった。最初はみんなこんなもんだ。だから……泣くな。糧にしていけ。オトコのコだろ?」
先生しか気づかなかったが、僕は自分の至らなさに号泣していた。
あまりの情けなさに涙がとまらなかった。
「ほら。退くぞ。トロールにしこたま殴られたくなければな」
僕は涙を拭うと駅舎に避難した。
すると中腹の民家から目を真っ赤に光らせたゴリラのような生物が飛び出してきた。
だが、シルエットはユキダルマのそれだ。
「あれが……ユキダルマントロール!!」
かなり数が多い。あたりに部隊はいないが、食い止めることができるのだろうか。
「ま、見てなさい。君もなかなかだけど、本物の神童ってやつを」
すると銃声が鳴ってトロールがバタバタと倒れ始めた。
「ハンター・トライ・マイスター。弱冠13歳の最年少のトライマイスター、猪狩のアンズだ」
その姿は見えないが、次々とトロールを仕留めていく。
あっという間にトロールは全滅した。
すると毛皮を被った人物はトロールを解体し始めた。
多くの医学生が目を背ける中、ハルネ先生はつぶやいた。
「目をそむけるな。あれが自然の摂理なんだからな……」
一通り解体が終わるとアンズがピョコピョコとこちらへやってきた。
片手にスナイパーライフルをかかえ、頭から熊の毛皮をかぶっていた。カモフラージュなのだろう。
ライフルを担いでいるのか、担がれいるのわかならない。
顔には猫のヒゲのように獣の血を塗っていた。
「よーっす。良い仕事しただろ。トロールの肉は美味いからな。干し肉にして食うぞー」
かなりの野生児だ。にしてもかなり小さい。
マルシュといい勝負だ。
アンズは物珍しげに僕の腕を見つめた。
「おー、珍しいな。お前、ゴーレム使いか。面白そうだ。今度、見に行くかんな」
勝手に約束をつけられてしまった。非常にマイペースな娘だ。
彼女目線をキョロキョロとしていたが、ハッとしたように答えた。
「あぁ、すまんすまん。自己紹介は必ずしろっていわれとった。わっちはアンズ。猪狩のってよぶやっちゃもいる。このとおり、ハンター・トライ・マイスターもらちょってな。名前の通り、ハンターやっとる。よろしくな」
アンズはズボンで手を拭くと手を差し出した。
僕もそれに答えて握手し返した。
13歳の王立宮廷魔術師がいるとは聞いたことがあったが、どうやら彼女のことだったらしい。
マルシュみたいなもんでちんちくりんだなと見た時は思ったが、オーラが違う。
獣に張り合う強い闘争心。そんなものが漂っていた。
「ま、きにするこたね。わっちなんて3歳で熊ぁ狩っとるし、おめぇと差が出るのはしかたねぇこった」
ハルネ先生も腕組しながら答えた。
「わたしも5歳の頃には外科手術に参加してたからな。フォル、お前が恥じることはない。我々が″おかしい″んだよ」
一方の僕は何をしたっていうんだ。
たまたま作ったゴーレムがうまくいって、GTMをもらって、でも結局、何も出来なくて。
アルテアが出来たのもまぐれなんじゃないだろうか。
そうだ。あんなにうまく全部が進むわけがない。
僕は自分の力の無さを悔いた。
もし、みんなに認めてもらっていれば、あの時、トロール殲滅に協力できたかも知れない。
任務達成会に参加した僕は上の空だった。
するとアンズとハルネ先生が声をかけてきた。
どうやら2人はウマがあうらしい。
「やめろやめろ。おめぇこええかおしてるでな。ゴーレムどもがこわがるで」
「そうだ青年。戦いは終わった。いつまでも張り詰めていると持たんぞ」
僕の顔はかなり険しく映ったようだ。
アンズは背を伸ばしたが、僕の方には届かない。
「おんめ、でけぇなあ。ま、あせったらいかん。自分の出来ることを考えるといいで。じぶんをみうしなうんでねぇど」
年下とは思えないほどしっかりしている。
一方のハルネ先生も僕を励ましてくれた。
「アンズの言うとおりだ。君のGTMはニセモノなんかじゃない。自分を卑下するな。ここはこらえどころだぞ」
2人に諭されて自分を失いかけていた僕は息を吹き返した。
すると、ハンターは僕の顔を覗き込んできた。
「あんれぇ。おめぇ、よくみると、器量良しだなぁぁ。わっち、惚れそうだで!!」
アンズはすきっ歯を見せてニッコリ笑った。
それにハルネ先生も口を挟んだ。
「ふふっ。私が見るに君は有望株だからな。努力次第では個人レッスンしてあげてもいいぞ。気合を入れていけ」
2人ともどこまで本気なのかわからなかった。
でも、すごく救われた気がして、僕はいつもの笑顔に戻っていた。
クランドールからキャマに帰ると酷く懐かしい気がした。
数日、空けてしまった。きっとみんな飽きてることだろう。
すると、工房の前に11人のガールフレンドが待っていた。
パーティーでも開く勢いだ。
「ただいま」
「おかえり〜!!」
全員がフォルをねぎらった。
え、誰もお花ちゃん、見えてないの!?
それはそうと、みんなに近づくとなんだかびっくりしたような顔をしている。
「ん? 僕の顔になんかついてる?」
彼女たちは首を左右にふった。
青年が先に工房に入ると女子連中は騒ぎ出した。
「なんか、こう、キリッとして、男らしく……更にカッコよくなってない!? 一体、出張先で何が……?」
こうしてますます争奪戦の苛烈さが極まるのだった。




