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怨念がおんねん

僕ら診療所(しんりょうじょ)の関係者はウキウキだった。


病院を建設するのに良い土地があるというのだ。


そこはなだらかな丘(おか)の上でアクセスも良い。


みんな期待に胸、膨(ふく)らませ、ピクニック気分で丘を上っていく。


僕も気が抜けていて、髪の編(あ)みは緩(ゆる)めだった。


ルルゥさんもご機嫌(きげん)で僕の手をギュッと握ってくる。


そしてヌルヌルっと指を絡(から)ませてきた。


(おっ、なんかの呪術発動(じゅじゅつはつどう)か?)


そして丘(おか)の上に登った一行は絶望した。


1つだけ墓が立っていたのである。


あまり目立たないこじんまりとした小さな石板である。


この様子からすると無縁仏(むえんぼとけ)だろう。


安い土地ということで期待していたのだが、さすがに墓の跡地(あとち)に病院は立てられない。


みんなが意気消沈(いきしょうちん)する中、僕は諦(あきら)めなかった。


墓の前で土下座したのである。


「フォルくん!?」


その場の全員が驚いた。


「僕、フォル・バークライトって言います!! ここが安息(あんそく)の地であるのは百(ひゃく)も承知(しょうち)です!!ですが、ここに病院が立てば多くの人の命が救われます!! どうか別の地でお眠りいただけないでしょうか!! お願いします!!」


僕は地を舐(ち)めるように必死で頭を下げた。


するとスタッフたちも揃(そろ)って頭を下げた。


神父(しんぷ)さんにその話をすると良い顔はしなかったが、それでもお祓(はら)いをしてくれた。


こうして無縁仏(むえんぼとけ)は移転され、いよいよ病院の建設が始まった。


建設当初はみんなビクビクしていたが、結局、事故の類は起こらず、事は順調に進んだ。


だが、ある日の夜、僕は悪夢を見た。


「あ、あのぉ……すいません。お引越ししたのはいいんですが、ね、寝心地(ねごこち)が悪くて。ちょっと枕(まくら)を移してはいただけないでしょうか……」


真っ白な服を来た女の人がそう頼んできたのである。


頭には三角のアレが。肌は真(ま)っ白(しろ)い。目は前髪でかくれていて、そばかすがある。


デッ!!


だが、脚(あし)が……脚(あし)がナッ!!


僕はさんざんうなされて目を覚ました。


「ゆ……夢だよね?」


すると家の真正面に移設(いせつ)したはずの墓石が置いてあったのである。


誰だこんないたずらをしたのは!!


意外と重い墓石をかついで僕は神父(しんぷ)さんのところへ行った。


彼は顔を真(ま)っ青(さお)にしてさんざん僕に塩(しお)をかけた。


墓石はお祓(はら)いして引き取ってくれると言っていたが。


その晩、お祓(はら)いしたなら大丈夫だろうと高(タカ)をくくって僕は眠りについた。


「あ、あのぉ……ここ、寝にくいんですよぉ。枕(まくら)を、枕(まくら)の位置を変えてください。お願いしますぅ」


次の日の朝、昨日と同じ場所に墓石が戻ってきていたのだ。


さすがの僕もこれはビックリしたが、霊感(れいかん)に関しても僕は鈍感(どんかん)だった。


ただ、これは心当たりがある。丘(おか)の上の無縁仏(むえんぼとけ)だ。


おそらく語りかけて来たのはあの墓石の主なんだろう。


「枕(まくら)の位置を変えてくれってもなぁ。教会に帰ってくれないかなぁ」


また重い墓石を担いで僕は神父さんのところへ行った。


すると彼は首を左右に振った。


「やはり無茶だったんです。君はその墓石の主に取り憑(つ)かれてしまった。もうお祓(はら)いではどうにもならない。彼女の望むとおりにするしかないでしょう」


町の人々に驚(おどろ)かれながらも僕は墓石を持ち帰った。


「うーん、会ってみないことにはわかんないよな」


その日の晩(ばん)、また″彼女″が現れた。


「こんばんわ〜。お墓の位置の件、考えてくださいましたかねぇ?あなたが別の地で眠れって言ったんですよぉ。責任をとってもらわないと。″責任″を」


僕は夢現(ゆめうつつ)で語りかけた。


「君の名前は? どうしてあんな場所で眠ってたのさ」


ユーレイ相手に世間話(せけんばなし)をするとは我ながら肝(きも)が座っている。


「私はお花っていいます〜。流行病(はやりやまい)と勘違(かんちが)いされて、隔離(かくり)されて埋(う)められてしまったんですね〜。だからあんなところでポツリと……」


意外とハードな生(お)い立ち(?)である。


「寂(さび)しかったんだね。いいよ。枕(まくら)の位置くらいは変えてあげるよ」


お花は激しくときめいた。こんなに度胸(どきょう)のある殿方(とのがた)は初めてだったからだ。


しかもイケメンである。


「わかった。″責任″はとるよ。″責任″は」


おまけに女子の操(みさお)の責任までとってくれるという。


「あ、ありがとうございます!! わ、わたし、幸せですぅ!!そ、そうですねぇ。枕はどこでも良いんですか?」


責任をとれと言われた限りは責任を取るのがスジというものである。


またこれも大きな勘違(かんちが)いとなってしまった。


フォルとしてはずっとこんなやりとりをしていると安眠(あんみん)に関わってくるくらいにしか思わなかった。


本当にこのフォルという男は怖(こわ)いもの知らずだったのである。色んな意味で。


「ああ、どこでも好きなとこでいいよ。で、どこに移す?」


「こっ、ここがいいです」


お花は白い顔を赤く染(そ)めた。


えー、マジか。


お花が指定してきたのはフォルのベッドの真下だった。


シーツで隠れてはいたものの、墓石の上で寝るのは流石(さすが)に抵抗(ていこう)がある。


それに、もし発見されたらいかがわしい本よりいかがわしくなってしまう。


これ、化(ば)けて出るんじゃないだろうか。


だが、お花はシクシク泣いているようだった。


「うっ、うっ、うっ、今まで長いこと1人でいましたが、まさかこれだけ年月が過ぎた末に殿方(とのがた)とねんごろになれるとは……」


まーた適当なこと言ってら。


でも彼女が一人っきりで寂(さび)しい思いをしてきた事を考えると、ベッドの下に墓石を置くくらいなんてことはないと思えた。


病院のためのエゴだけど、これで成仏(じょうぶつ)してくれれば。


「生まれ変わったら、名前のように、きれいな花になって……」


僕はそのまま眠ってしまった。


すると、その晩(ばん)もお花がやってきた。


白い三角のアレに目は髪で隠れ、そばかす。


それにデッ!!


だが、脚(あし)はナッ!!


「お花さん、何しに来たんですか!! 枕の位置、変えたじゃないですか!!成仏(じょうぶつ)してくださいよ!!」


ユーレイはニタニタ笑っている。


いや、そんな明るいお化(ば)けいないよ……。


「言ったじゃないですかぁ。″責任″とってくれるって。それにフォルさんとねんごろになるまでは無念で成仏(じょうぶつ)できませんよ。これだけかっこいい殿方(とのがた)をに〜が〜す〜わ〜け〜に〜は〜」


一瞬でも彼女に同情したのが間違っていた。なんだこのおちゃらけユーレイ!!


この日以降、みんなが帰った後に除霊(イグゾシス)のテクニックを試したのだが、一向に彼女を取り祓(はら)うことは出来なかった。


そのうち、僕はめんどくさくなった。


そして、いつしかお花ちゃんを無視して眠れるようになってしまった。


慣れというのは恐ろしいものである。


でも、それじゃ彼女が寂(さび)しいだろうから時々は話し相手になるようにしている。


害獣(がいじゅう)が居着(いつ)いたようなもんなのだが、フォルは彼女にも寛容(かんよう)に接した。


それが彼の長所でモテる理由の1つでもある。


しかし、この人、お花って名前、いつの人なんだ。


そもそも何歳なんだ。見てくれからすると18歳くらいかな……。


フォルが呑気(のんき)に寝ている時、お花は毎晩(まいばん)、興奮していた。


「あぁ〜殿方(とのがた)と重なって寝られるなんて。私、もう死んでもいいかもしれませんねぇ!! あぁ!!いい匂(にお)い!!」


いや、もう死んどるがな……。

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