もうヌルとは言わせないよ!!
自分の道を見つけたティーリアの成長は目覚ましいものがあった。
アルテアと同居し始めたのである。
彼女らはお嬢様つながりで相性は抜群だった。
それにティーリアもだいぶマイルドになって一緒に暮らしやすくなった。
やりたいこと、やれることも定まってきた。
着付け、マナー講座を始めたのである。
これがマダムに爆発的な人気が出て、開店してまもなく行列の店となった。
もちろん男性にも需要はある。
キャマ・クーラではありそうで無かったタイプのお店でもあるわけだし。
まさかティーリアがこんな急激に成長するとは思わなかった。
これだから調律はやりがいがある。
久しぶりに解放された僕は背伸びしながら海を眺めた。
すると、ボーンズちゃんが海底から上がってきた。
なにかを抱えている。
僕がそれを受け取って確認した。
「これは……ゴーレムの素体だ」
僕が作るゴーレムからは遥かに劣るが、まだ火はある。
カタカタともがいているように見える。
精神を司る蒼の術式もひどくやられており、廃人寸前だ。
あまりにも気の毒に思った僕は、素体を作ってもらうために焦りながらナンテ姉妹を訪ねた。
事情を説明すると快諾してくれたが、ナンテ姉妹の顔色は明るくない。
「いいけどさ、多分、あんたの持ち金すっからかんだよ?」
「ええ。アナトミア・クレイは超高額素材。今までは協会の補助があったけど、今回は自費ですから」
迷っているヒマはない。僕は2人に依頼するとすぐに壊れかけのゴーレムの元に戻った。
すると、ボーンズちゃんが僕の肩をたたいてきた。
186cmある僕の2倍以上。さすがに圧がある。
すると彼女はブリキ人形顔の頭からコインを弾き出してきた。
「これは……お金!? 貯金、つかっちゃえっていうの!?」
するとボーンズちゃんはまたポンポコとコインを吹き出した。
深くお辞儀をすると僕は銀行で全額貯金をおろし、ナンテ姉妹の元へ壊れかけのゴーレムを運び込んだ。
早速、素体創りがはじまった。
「で、ファイセルさん、その子の蒼の術式、まだ読めるんですか?」
僕は体中の術式を確認したが、エリーヌのものよりはるかに摩耗が酷い。
「肉体制御の朱の術式はそうかからないよ。精神構造はおよそ13歳。人格、内面は……普通の女の子みたいだけど……駄目だ。わからない」
ナンテ姉妹は気が乗らないと言った様子だ。
ナンシャンテさんはテーブルに座って脚を組んだ。
「フォル。悪いこと言わないからやめときな。まだキャンセル可だよ」
アンシャンテさんも目線を伏せた。
「ええ……いくらフォルさんでも、ヌル・ゴーレムは……」
ヌル・ゴーレムは名前の通り、蒼の術式をリセットし、データ無しからスタートするゴーレムだ。
あまりにも術式が損傷を受けている場合に施すことがある。
動くことは出来るが、1人では何も出来ない。もちろん調律も非常に難しい。
この調子だと完全なヌルではなく、わすかに人格を引き継げそうではある。
なんの役にも立たないので、通常はヌルになる前に破棄される。
それでも僕はまだ生きている壊れかけのゴーレムを放置することは出来なかった。
「″やり″ます。お願いします。″やって″ください」
ナンテ姉妹は視線を合わせた。
そうして呆れたように笑うとアナトミア・クレイで素体を作ってくれた。
美しい黒い髪、パッチリとした目、幼気な唇。紅潮した頬、やまなりの眉。
13歳の少女に見合った素体だ。
朱の術式の構築は半日でおわった。
あとは蒼の方だが、残った断片的な情報のみで、刻印は刻めなかった。
かわりに3点だけ点をうつ。
女の子、13歳、埋もれた性格3つのみだ。
そして後頭部に魂名とFoll.Bと刻印した。
「行くぞ!!ゴーレム・バース!!」
こうして工房にあらたなゴーレムが加わった。
動けないために自動充電はできない。
そのため、充電台に座らせて固定する。
「名前は……よーし、もうヌルなんて言わせないぞ!! 無限からとって″インフィ″にしよう。インフィ、聞こえてるかい?」
彼女はスムーズにこちらを向いた。だが、会話がままならない。
「ま、マスたー。マスター。まま」
まぁヌルなんてこんなもんだよな。
そう言ってインフィの肩を叩くと彼女は涙を流した。
さすがに丸出しにしておくとゴーレムだとバレてしまうので、調律する時以外はシーツで隠しておいた。
この件に関してはナンテ姉妹がかなり心配したらしく、頻繁に様子を見に来てくれた。
どさくさに紛れて何度か泊まっていったが。
Wスケスケキャミエッ!!
ええ、僕はソファーで寝ました。
そんな姉妹だが、フォルの腕前に驚愕することになった。
「まま、ます、まお、おに、おにいち……」
ナンテ姉妹と調律を見守っていたミミィは歓声をあげた。
ここまで一週間。蒼の術式が自動形成を始めるには早すぎる。
「おに、おに。オニイちゃん。おにいちゃん……」
ギギ………ギギギギ……
インフィニは自我で立ち上がり始めた。
ここらへんはナンテ姉妹の腕のおかげだ。
「お、おにい。た、たっち。たっちした。いんふ。たっちした」
思わずその場の全員は思わず号泣してしまった。
これ以降、ナンテ姉妹がますます僕にベタベタするようになってきた。
なんでだ。
デッ!!な美女2人に囲まれて嬉し……いようなそうでもないような。
ミミィも感心したようでべた褒めしてくる。
面倒を見てくれることもあって、まるでお姉ちゃんみたいだ。
僕はさらに根気強く集中して調律を続けた。
これにはコツがあって、ただ、口で伝えても効果が出るのが遅い。
そこで秘孔を突きながらやりとりするのだ。
これはバークライト流のみに伝わる秘伝の調律法だ。
ナンテ姉妹が驚くのも無理はなかった。もちろん企業ヒミツだけどね。
そして更に1週間後、インフィは埋まっていた人格を取り戻した。
「おにいちゃん!! インフィね、クランドールに行ってみたい!!」
意外とアウトドア派らしい。何事にも興味を示すお年頃だ。
「ミミィおねーちゃん。お菓子買いにいこーよ!!」
「はは。わかった。まったくインフィはわがままだな」
「やったー!! キャッキャッ!!」
精神構造はやや幼いかも知れないが、多分、ほうっておいても成長するだろう。
うーん、なんだか所帯じみてきたな。
って、まだ僕はパパになる気はないぞ!!
でもこういうのもささやかな幸せなのかも知れないな。
ミミィが奥さん役ってのはいささか身の危険を感じるが。
こうしてインフィはすっかり工房に馴染んだ。
一応、知人の女の子を預かっているということにした。
いとこ戦法はそのうち関係性が破綻してくるからこれくらい堂々としていたくらいのほうが都合は良い。
「コンコンコンコン」
「おはよ〜。今日はニシンのパイだぞ〜」
やってきたマルシュにインフィが抱きついた。
「うわぁ!! インフィね、マルシュおねーちゃんのパイ、だぁいすき!!」
照れくさそうにマルシェは頭を掻いた」
インフィに僕、マルシュ、ミミィにナンテ姉妹。
ほのぼのとしたみんなでのパイタイム。いいなぁ。
って女の子5人もいるじゃん!!
ほのぼのどころかなんかピリピリしてない?
大丈夫なんかこれ……。




